20話 手紙と指輪
船を降りてから街を歩いて見て回ると、気を失う前に見たあの映像と酷似している。
おそらくこの街だろうということで、早速エルダと指輪の店について街の人たちに聞いてみた。
「知らないねぇ」
「ちょっとわからないです」
「さぁ…聞いたことないねぇ」
こんな反応ばかりされて心が折れた。
気づいたらもう日も暮れていたので酒場に行く。
年配のマスターに向かい「マスターいつもの」と注文をすると。
「えっ!お客さん初めてですよね?」
などと軽くやりとりし一杯飲んでいた。
「はぁ…この街じゃないのかな~まぁ全員に聞いて回るわけにもいかないし、聞いた相手が知らないだけかもしれないが……はぁ~ルンルンルビ~ルンルンルビ~」
つい口ずさんでしまった。
「懐かしいですね、その歌」とマスターが話しかけてきた。
「えっ?マスターこの歌知っているの?」
「はい私も結婚指輪はその店で買いましたよ」
「その店のことを詳しく教えて」
「はい…とは言っても昔の話でして、私がまだ20代前半でしたかね~その店で指輪を買ったんですよ。変な曲が流れているなぁ~と思いまして、家に帰ってからもしばらくその曲が頭から離れなくて困りましたよ」
「エルダっていう名前に心当たりはある?」
「エルダさん?いえ存じ上げませんね」
「そうか…それでその店はどこにあるの?」
「この店を出て右手の裏路地をまっすぐ行った所にあったんですが…だいぶ前に潰れてしまって、空き家になってますよ」
それを聞いたら居ても立っても居られなくなり、さっと勘定を済ませた。
「マスターありがとう」
「ありがとうございました」
外に出た火照った体に海の冷たい風が吹きつける。
酔い覚ましにはちょうど良い。
マスターに教えられた場所に行ってみた。
「ここかな?」
マスターによるとだいたい30年くらい前ということ、
俺は意識を集中してサイコメトリーを空き家に向けて使った。
店の映像が頭の中で再生される。
だがどれが幽霊船の船長なのかまったくわからない、なにせ骨の姿しか見ていないのだから。
その時持っていたルビーの箱が輝き出した!
「これは」
男がハンカチで汗を拭きながらこの店に来店してくる映像が、俺の頭の中で流れて来た。
「いらっしゃいませ!これはこれはヴェルター様」
「こんにちは…指輪の方はできているかな」
「はい、お待ちしておりました。少々お待ちください」
「ふむ」
「お待たせ致しました。こちらがご注文いただいた婚約指輪でございます」
「うぉぉ…いい感じじゃないか」
「わたくしもそう思います、サイズやデザインに問題はございませんか?」
「あぁ問題なさそうだ」
「こちらの指輪素敵なデザインに仕上がっております。婚約者様もさぞお喜びになると思いますよ」
「そうだな…このデザインならきっと気に入ってくれると思う」
「お相手の方はどんな方なんですか?」
「おとなしめで優しい人だが、気が利く人だよ。今もエルダ…あぁ婚約者の家に行ってきた帰りだ」
「素敵な方なんですね」
「あぁ…ところでこの曲はなんだね?」
(ルンルンルビ~ルンルンルビ~)
「当店のテーマ曲となっております」
「そ…そうか…では私はもう行くとするか」
「ありがとうございました」
「あっヴェルター様のハンカチの忘れ物が」
「すいません」と他の客から声がかかる。
「はいただいま、とりあえず預かっておきましょう」
ヴェルターの忘れ物を机に仕舞っている。
ここで映像が途切れた。
「エルダの家に行っていたと言っていたな、やはりこの街であの男が幽霊船の船長で間違いないのか。だがどうやって家の位置を特定するか。忘れ物があるとか言っていたな…ちょっと入ってみるか」
ドアを開けてみようとしたが当然鍵がかかっている。
鍵穴を見てみると現代でよく見かける普通の鍵穴だ、おそらく鍵穴の後ろに魔道具とかでないのならサイコキネシスで開く可能性があるな。
「やってみるか」
ドアノブに手をかけ意識を集中させる。
ドアの後ろ部分、金属のボルトがゆっくりと動き出すのを感じる。
カチッと音がした。
ドアを開ける。
「開いた、成功だ」
俺はほこりがかぶった忘れ物がしまってある机の前に立ち、引き出しを開ける。
忘れ物のハンカチがそのまま置いてあった。
「ハンカチよ、知っていたらエルダの所へ導いてくれ」
俺はハンカチを手に取ると先ほどと同じように、ハンカチに意思を集中させサイコメトリーを使う。
指輪の店からエルダの家への道が脳内に流れる。
「わかったぜ、ありがとう」
ハンカチにお礼を言い。
机に戻し店を出てから鍵をかけ。
映像通りに進んで行く。
エルダの家は街の外の海を眺めることができる小高い丘の上にあった。
「ここかな?」
呼び鈴を押してみる。
すると気品のある中年の女性が出てきた。
「はいどちらさまでしょうか?」
「突然ですいません。あなたがエルダさんでしょうか?」
「ええ、そうですが」
「これを、届けるように頼まれまして、ずっと前に亡くなった、ヴェルターという名の船長からあなたに」
「どうして……あなたがその名前を……」
「どうやら彼は航海の途中で亡くなったようです。
けれど、その死の間際まで、あなたのことを想って、この手紙を書いていた。
そして航海が無事に終わったらその婚約指輪をあなたに渡すつもりだったようです。」
震える手で手紙を受け取る。
一通り読み終えたエルダは手紙を抱きしめて泣いていた。
「ありがとう、ヴェルター」
「ではこれで失礼します」
「ちょっと待ってちょうだい」
「あなたにも何かお礼をさせてちょうだい」
「いえお礼は結構ですよ」
「こんな大事な物を届けてくれたんですもの、そういうわけにはいかないわ…そうだちょっと待っててちょうだいね」
そう言いつつ家の中に入って行った。
「せめてこれを持って行ってちょうだい」
「これは?」
「お守りよ、良くないことから守ってくれるわ。あの人にも渡せればよかったのだけれど…いえ、それを言っても詮無きことよね」
これぐらいならもらってもいいかなと思った俺はお礼を言ってお守りをしまう。
「お守りありがとうございます。では失礼します」
「またなにか力になれることがあったら言ってちょうだい」
軽く頭を下げてからその場を後にした。
街に戻る最中に海で何かが光っている気がして見てみると。
幽霊船のヴェルター船長がこちらに深くお辞儀をしていた。
そして幽霊船ごとスゥーっと消えていった。




