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SPRINT 02:女神様に質問をぶつける

マリトが目を覚ましたことを確認した声は続けた。

「落ち着かれたようですので、話ができるようになるための準備に入ります」

まだ、口も動かせないし、声も出せない状態ですが、強く念じてくれれば、私はその内容を読み取ることができます。

いずれは動かせるようになりますが、まずはこの方法でお話できるようにしたいと思います。


本当なのか? この女性には、心が読めるのか?


「まずは、挨拶から」

「実際には声は出ませんが、心の中で私に話しかけるように『こんにちは』と言ってみてください」


マリトは頭の中で、「こんにちは」とつぶやいた。

「あまり明確ではありませんね。しっかり念じながら話をする感じでもう一度」

強く念じながら「こんにちは」。

「よくなって来ました。もう一度、繰り返してみてください」

「では、別の言葉を言ってみて下さい」


「ありがとう」ーーそう伝えてみた。

「今のは、『ありがとう』ですね」

「かなりはっきりわかりました」

「とてもいい感じです」

続けていくつかの挨拶を繰り返した。

伝わりやすい話し方の「コツ」がつかめてきた気がする。

マリトはうれしくなってきた。


この女性は何者なのだろうか?

頭の中で伝えようとした言葉を読み取る力があるなんて、普通の人間とは思えない。

それに、彼女の声が聞こえるだけで喜びを感じてしまうのも不思議だ。

これまで、そんな気持ちになったことはない。


以前、何かのアニメで見た異世界召喚のシーンを思い出した。

主人公に召喚についての説明をするのは女神の役割だった。

召喚された人が椅子に座り、より高い位置に座っている女神と対面する。


今の自分は身動きが取れないので、状況はまったく違う。

しかし、もし特別な存在ーーたとえば、女神のような存在ーーがいるのだとしたら、

その声を聞くだけで喜びを感じるというのも不思議ではないのかもしれない。


ひととおり簡単な挨拶の練習が終わった後、女性は言った。

「では、いろいろ聞きたいことがあるでしょうから、私に質問してみてください」

いろいろ聞きたいことは確かにあるのだが、マリトはそのとき、どうしても確認したくなった質問をぶつけてみることにした。

「あなたは女神様なのですか?」

声は予想外の質問に戸惑った様子で「はい?」と返した。

「わたしが?」「女神、さま?」


一拍間をおいて、楽しそうに答えた。

そして、笑いをこらえきれないように続けた。

「もう、女神なんて、私になれるわけないですよ」

あははは、と鈴を転がすように笑った。そして、

「緊張してたのに、もう、身体の力が抜けるからやめてください。賢者様は」

ツボに入ったのか、笑いをこらえきれないといった口調でそう言った。


その反応を聞いて、マリトは、ひょっとすると、とんでもなく間抜けな質問をしてしまったのかもしれないと思った。

そう思いながらも、恥ずかしい気持ちは起こらず、マリトも楽しい気持ちになってきた。


少し間を置いて、何かに気付いたように「あっ」と小さくつぶやき、声のトーンが澄ました感じに戻った。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。失礼しました」


さては、思わず「素」が出てしまったことに気付いたんだな。

今から澄ましても、もう遅い。キャラバレしてるーーそう、マリトは思った。


緊張が解けたのか、話し方に親しみが加わったような気がする。

そのキャラは、微笑ましく、好ましく思えて、マリトは一層楽しい気持ちになった。


「私は、ラミーシャ。ブリヤ魔法学園の学生です」

いま、魔法と言ったか? 気にはなるが、ここはとりあえずスルーだ。


あらためて、質問をした。

「ここはどこですか?」

「ブリヤ魔法学園附属病院です」

「賢者様を召喚した後のリハビリのために、入院しています」


賢者様――私のことか?

これも気にはなるがもっと大切なことを聞く。


「私はどんな状態なのですか?」

「新しい身体に生まれ変わったということですか?」

「少し違います」


「もう話ができて、説明もできるようになったので、眼を開けますね」


まぶたがゆっくりと開く。

彼の意志とは関係なく。


まぶしい光を感じたが、すぐに焦点が合う。

眼の先に、見覚えのない、真っ白な天井があった。

明るい天井。

静かにまばたきが始まる。


話をしていた女性が見えるかと思ったが、目に映る範囲には誰もいない。

上を向いているが、人間の両眼の視野角は180度を超える。かなり広角まで見える。


どういうことだ?

自分の意思でなく目が開いたということは、身体の制御が奪われているということなのか?


「いま、あなたの意思で私の目を開いたのですか?」

マリトは心の中で聞いた。


「はい。そういうことになります」

ラミーシャのその答えに合わせて視界が少し揺れるのを感じた。


「あなたの姿が見えないのですが」

「はい」「見えないと思います」


聞きながらもう答えはわかっていた。

視界の揺れで理解したーーラミーシャの声は、マリト自身の口から発せられている。


つまり、そういうことだ。

いないのは彼自身のほうだ。

彼女の中に転生したということだ。


美少女転生は、to a girl でなく、into a girl だったわけか。

また、くだらない英作文の知識が頭をよぎる。

そして、これが彼が異世界をともに歩んでいくーー

彼の小さな女神様との、最初の出会いだった。


#STATUS: SPRINT COMPLETED? DEFINITELY YES.

異世界召喚のときの女神様かと思ったらまさかの学生さんでした、というオチでした。しかも、その中でしたということで。意外だった、面白い、と思われた方、いらっしゃいましたら「いいね」ください。

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