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2.偽調査員上川氏

 その翌日。僕が南山田先輩と一緒に大学から帰る途中、とあるアパートのドアの前に立ってる初老の男性が目についた。


「ん?知り合いでもおったのか?」

「いえ、そうじゃないんですけど。ほら、あのおじさんの提げてる紙袋って昨日の上川氏が持ってたのと同じじゃないですかね?あの人も調査員なのかなあって」

「おお、言われてみればあんな紙袋だった気がするの」


 住人が留守にしていたのか、男性はドアの前から離れ、そこから数室離れた部屋の前まで行ってチャイムを押しているようだった。


「…………ああっ!?」

「なっ!?どうしたんじゃ瀬川君」


 僕はとあるホームページを検索して自分の疑問にある程度の確信を得ると、通行の邪魔にならないように路地の柱の陰に入って電話を掛ける。


「あ、はい、僕はS大学1年の瀬川有希斗と申します。突然で申し訳ございませんが……」


 やがて電話を終えると、南山田先輩が心配そうな顔でこちらを見ていたので説明する。


「今、市の住宅・土地統計調査の担当に確認しました。あの地区の調査員は上川美羽という人物ではないとのことです」

「なんじゃとおおおっ!?」

「上川氏は調査員の身分を詐称していたことで間違いありません。彼女の目的は分かりませんが、とりあえず803号室のええと、藤野氏でしたっけ。その人に連絡を取って注意を促してもらえませんか?あ、蛸島さんにも連絡しといた方がいいかもしれませんね」

「うむ、任せるのじゃ」


 ◇◆◇


 藤野氏とは無事連絡が取れたのだが、その数十分後、今度は藤野氏から南山田先輩に連絡があり、この件で相談があるので部屋に来てもらえないかとの頼まれた。同じフロアに住む同級生の蛸島さんも交えて今回の件で相談したいことがあるらしい。

 なので改めて南山田先輩の車で僕らは彼の住むマンションに向かっていた。


「しかし、瀬川君はなんで上川さんが偽の調査員と気付いたんじゃ?」

「ああ、それはさっき見たおじさんの調査員さんを見て気付いたんですよ。あのおじさん、調査対象らしい部屋の前から別の部屋の前に行ったでしょう?」

「?うむ、それが?」

「そのとき僕は以前この調査員をやっていた大叔父から聞いたことを思い出したんです。『調査対象は10世帯のうち1~2世帯だった』と」


 ただ、大叔父の記憶だけでは不確実だ。


「本当にそうなのかどうか総務省統計局のHPを確認したところ、調査は1調査単位区で17住戸が対象、1調査単位区の上限は120住戸となってました。

 計算しますと最低でも10住戸中1.4住戸が調査対象住戸となります」

「ふむ、大体その大叔父さんの話と一致するの」

「藤野氏が住むマンションは15階建てで1階にはテナントが入って住居がありません。

 また、8階は801号室~810号室の8室(末尾が4及び9の部屋番号はない)ありました。

 他の階も同様のつくりと考えると14×8で計112室。

 全部のフロアを確認したわけではないので絶対ではありませんが部屋数はこのくらいでしょう。

 おそらくあのマンション1棟が1区画になると考えていいはずです」

「まあ、軒数からそうなるじゃろうな」

「で、こういうのって調査対象の位置が極端に偏りがないように対象を決めるらしいんですよ」

「そのことと上川さんが偽物であることとなんの関係があるんじゃ……?」


 僕の少々回りくどい説明に南山田先輩が少し困惑している。


「あの日、8階からエレベーターで降りて車に乗る上川氏を見ましたよね?8階の藤野氏の部屋が最後の訪問先って不自然じゃないですか?」

「え?……おおっ!?言われてみればおかしいの」


 調査対象の位置に偏りがないのなら、15階建ての8階にある藤野氏の部屋が調査対象の最上階とも最下階とも考えにくい。

 藤野氏の部屋が留守だったのなら、さっき目撃した男性のように次の調査対象の部屋を訪れるのが普通だろう。

 8階の藤野氏の部屋を訪問した後他の調査対象を無視して直帰し、また後日調査に来るなんて効率が悪すぎる。

 また、あの時の彼女の態度や足取りから急用ができて帰ったというわけでもなさそうだ。


「となりますと『上川氏は偽の調査員で、何らかの理由で藤野氏の部屋をピンポイントで狙いにきた』可能性が高いのではないかと」

「確かにの。そして実際彼女は偽調査員じゃったというわけか。彼女の狙いがあまり物騒なものでなければいいんじゃがの」


 そんな会話をしている間に僕らは藤野氏の住むマンションに着いた。


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