【最終話】二人の結末
「アイ、ほんとうにすまなかった。きみにひどいことをし続け、いまさらなにを言いだすんだと思うだろう。だが、それでも言いたい。アイ、おれを許して欲しい。許してくれるなら、あらためてお願いしたいことがある。おれの妻になって欲しい。おれの妻になり、おれの側にいて欲しい。すぐにはムリだが、将軍職は辞すつもりだ。そうすれば、ずっときみの側にいられるだろうから。そして、きみを愛し、しあわせにする。もう二度と寂しい思いはさせない。約束する」
彼のごつい顔に苦笑が浮かんだ。
「ははっ! いまのは、あのろくでなし王子の台詞だな」
たしかに、ジョフロワが同じような台詞を言い連ねていたわね。
ちなみに、ジョフロワとエルキュールは、帝都に連行された。だけど、結局はアムラン王国に強制送還される可能性が高いということである。
クズだろうとろくでなしだろうと美貌だけの残念系だろうと、ジョフロワは王子である。そして、エルキュールは彼の母親の弟で、アムラン王国軍の諜報部一の諜報員だとか。一応、王子の叔父というところで、王子ともどもアムラン王国が放っておくわけはない。
外交で取り戻すはず。とはいえ、彼らの前途はけっして明るくはない。
フェリクス暗殺未遂、わたしの拉致未遂。これらの事実は覆しようがない。
王子位を剥奪されて投獄されるか、国を追放されるか、最悪の場合は処刑されるかもしれない。
もちろん、彼らにとって最悪の場合は、だけれども。
いずれにせよ、彼らに会うことは二度とないことはたしかなこと。
「ええ、フェリクス様。あんな台詞、ただ虫唾が走っただけです。ですから、あなたには言ってもらいたくありません。そうですね。ただ一言、『おれについてこい』とか『おれと添い遂げてくれ』の方がよほどいいですね。わたしは、そういう男らしいシンプルな台詞が大好きなのです。ああ、こういうのもいいですね。『愛している』とか『大好きだ』とか」
あとの台詞は、ちょっと意地悪だったかも。
熱血漢のフェリクスなら、口にしにくい台詞だから。
「アイ、愛している。一生、おれの側にいてくれ」
カーテンの隙間から、いまはもう朝の光が射しこんでいる。
その淡い光の中、フェリクスのごつい顔が真っ赤になっているのがはっきりわかる。
(すごく可愛い)
心から思った。一瞬にして癒された。
「ひとつだけ覚悟なさって下さい。ケンカをする度、あなたに寂しい思いをさせられたことをネチネチ言うことを。それでよろしければ、答えは『はい』です」
笑いながら告げると、一瞬にしてごつい顔に花が咲いた。大きな大きな大輪の花が。
そう認識したときには、彼の大きくて分厚い胸の中にいた。
あたたかくてやさしい胸の中に。
もう寂しくはない。こんなにもしあわせなのだから。
彼の胸の中、心ゆくまでしあわせを味わった。
「きみを愛することはないし、きみから愛されようとは思わない」と宣言した旦那様と、宣言されたわたしの結末は、どんな書物に出てくる物語よりもはるかにハッピーエンドだった。
(了)




