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衝撃的で刺激的な話の数々

「アイ様、きいてください。アムラン王国の国王は、いま不治の病に侵され死の床についています。その病は、すくなくともアムラン王国の医師たちでは治せない病です。そして、現在アムラン王国には癒しの力を使える聖女がいません。隠していますが、アムラン王国にはもう何百年も前から癒しや加護の力が途絶えているのです。絶望した国王は、王子たちに告げました。『わしの病を治すことの出来る医師や聖女を連れてきた者を王太子にする。いいや。わしはもう引退するので、つぎの国王にする』。そのように」


 パトリスのあと、ピエールが続ける。


「そこにいる王子は、王宮で勤めていた侍女との子です。当然ながら、序列は最下位。しかも、見てくれだけで性格は最悪です。アムラン王国内の裕福な家柄のレディたちを、あの手この手でだましては金品を巻き上げています。ポケットマネーというのは、そういったレディたちが彼に貢いだ金貨なのです。とにかく、彼は国王の宣言を真に受け、実行に移したのです。つまり、彼はあなたに国王の病を治させ、自分が国王になったらあなたを捨てるつもりなのです」

「いいや。それどころかなにかしらの罪をなすりつけ、首を斬り落とすか強制労働をさせるつもりでしょう」


 ピエールのあと、またパトリスが口を開いた。


「アイ様、その王子はあなたを利用するだけです。そこに愛やしあわせなどありません」


 ピエールは、断言してから口を閉ざした。


(ああ、なるほど。そういう事情ならしっくりくるわ)


 パトリスとピエールが告げたことがほんとうのことかどうかはわからない。だけど、すくなくともわたしは信じた。そして、納得出来た。


 納得しすぎて笑ってしまいそうになったほどである。


「でまかせだ。そいつらは、おれを陥れようとしているんだ。アイ、どちらを信じるんだ? ろくでなしの部下どもか? それとも、おまえによくしてやったおれか?」


 せっかく離れたというのに、ジョフロワが一歩分距離を縮めた。


 彼の美貌は、いまはもうキラキラ光ってはいない。


 いまはただ、負の感情が広がっているだけ。


(なるほど。呼び方も『わたし』から『おれ』に、『あなた』から『おまえ』になったわけね)


 本性をあらわし始めたジョフロワを、冷ややかな目で見てしまう。


「アイ、そんな目でおれを見るな。だったら、あいつはどうなんだ? あいつだって、アイ、おまえを利用しようとしているんだぞ。あいつも癒しの力を欲している。だから、おまえを嫌いつつもこの領地で飼っているんだ」


 ジョフロワは、またフェリクスを指さした。


「どういうことなの?」


 そう尋ねた自分の声が、いままでにないほど低く冷たかったので自分でも驚いてしまった。


「あいつは、数年前のわがアムラン王国とのいざこざの際、王族の警固をしていて毒の剣を受けたんだ。王族とすぐ側にいた部下をかばい、毒の剣が腕をかすったんだ。すぐに処置が行われ、一命をとりとめた。が、完全に解毒は出来なかった。なにせアムラン王国に古来より伝わる秘術で作られた毒だからな。よって、命は助かったとしても毒は確実にあいつの体を蝕んでいく。それが全身を侵したとき、あいつは死ぬ。それがもう間もなくというわけだ。が、なかなか死なん。われわれも仕損じた意地がある。その一件以降暗殺者をやっては殺そうとするが、そのつど返り討ちにあう。まったく、しぶといおっさんだ」


 ジョフロワの話は、なぜかすんなり受け止めることが出来た。


 フェリクスがわたしに隠していたことが、ジョフロワのお蔭で知れた。その点では、ジョフロワに感謝しなければならない。たとえ話の内容のほとんどが許せないとしても。


 ジョフロワからフェリクスへと視線を転じた。


 しかし、フェリクスの翡翠色の瞳には、ほとんど変化がない。が、ごつい顔は、わずかながらやさしい表情をたたえている。


 そのように感じるのは、月光のせいかもしれない。あるいは、わたしの気のせいか。


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