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いろいろ噛み合ってなくないか?

「そもそも慈善病院の件は、きみの気を惹く絶好の材料だった。金貨できみの気を惹けるなら、いくらでも出す。だから、わたしのポケットマネーで出していたんだ。それなのに、援助を断わるわけがない」

「ポケットマネー? アムラン王国の王子殿下のポケットマネーですって?」


 ジョフロワがどれだけの資産を持っているのか、まったく想像がつかない。


 だけど、それはアムラン王国の人々の血税なわけで……。


(いいわよね? なにも悪いことに使っているわけではないし。アムラン王国から訪れている患者もすくなくないのだから)


 無理矢理正当化してしまう。


「いや、待てよ。二人とも、いまはそこじゃない。というか、そもそも話が嚙み合わなすぎてやしないか?」


 わたしがアムラン王国の血税の使われ方について心の中で賛否を問うていると、エルキュールが冷ややかな調子で割って入ってきた。


「エルキュール、だまっていてくれ。とにかく、きみの望みをかなえたかった。どれだけ金貨を使おうともね」

「使ってくれるのはうれしいわ。だって、あなたたちのお蔭で、慈善病院の運営がよくなりつつあるんだし」

「そうだろう? この調子で、わたしはきみの夢や希望をかなえるつもりだ。そして、どこの国のどんなレディよりしあわせにする。絶対にね。いまここで約束する。いいや。きみだけでなく、ありとあらゆる神に誓う。女神のような妻を蔑ろにする夫とは名ばかりの浮気性の男より、ずっとずっとしあわせにする」


 ジョフロワは、子どもみたいに両腕をブンブン振りまわしながら叫んだ。


 その子どもっぽい所作のお蔭で、ジョフロワの腕から解放された。だから、すばやく彼から離れた。とはいえ、エルキュールがすぐうしろに立っているので、そんなに離れることは出来なかったけれど。


「アイ、きみの居場所はここじゃない。ましてや、あんなろくでなしの男の側ではね。きみの居場所は、わたしの側が相応しい。王子妃としてね。ゆくゆくは、王太子妃、最終的には王妃になる。二人でアムラン王国を治めよう。もちろん、病や教育、その他もろもろの慈善活動や福祉政策にも力を注ぐ。アムラン王国内だけではない。きみの慈善病院など、他国の慈善活動にも積極的に参加しよう。きみがみずから指揮を執ってくれてもいい」


 ジョフロワは、いっきに言いきった。酸欠状態なのか、短く呼吸を繰り返している。


「アイ。あいつの側にいれば、かならずや不幸になる。さらには、慈善病院だって潰されるだろう。それが真実だ。それが、あいつといっしょにいることを選んだときのきみの未来だ。アイ、これでわかっただろう? だったら、いっしょに行こう。国境までもう少しだ。国境を越えれば、アムラン王国軍が控えている」


 ジョフロワは、こちらに右手を差し出した。


 その手をつかめ、ということに違いない。わたしがその手をつかみ、いっしょにアムラン王国に行き、慈善活動や福祉関係の仕事をする。そして、ジョフロワにしあわせにしてもらう。


 彼越しにフェリクスが見える。


 フェリクスは、馬上ただ静かにこちらを見ている。


 翡翠色の瞳は、まっすぐこちらに向いている。揺らぐこともさえぎられることもなく。月光の下、それがはっきり見えるのが不思議である。


 フェリクスは、この場面でもわたしに関心がないのかしら。


『きみが彼といっしょに行きたければいけばいい』

『きみの好きなようにしろ』

『きみには興味がない。だから、知ったことではない』


 そんなふうに考えているのかしら。


 それにしても、あの美しい翡翠色の瞳が気になる。


 なぜかわからないけれど、ジョフロワの提案よりフェリクスの翡翠色の瞳が気になって仕方がない。


 いいえ、訂正。翡翠色の瞳の持ち主のフェリクス自身のことが気になりすぎる。


「アムラン王国の王子、嘘をつくな」


 そのとき、フェリクスの黒馬の両脇から二頭の馬が飛び出してきた。


 すっかり忘れていたけれど、パトリスとピエールである。


 彼らは、フェリクスよりも前に馬を進めた。


「アイ様、その王子は嘘をついているのです」

「そうです。われわれは、彼らの事情を調べ上げているのです」


 ピエールに続き、パトリスが怒鳴った。


 木々の奥の方で、夜鳥の鳴き声とがきこえ、そのあとすぐに羽ばたく音が続いた。


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