終了(2)
これで終わりです。途中何度も改変しました。この結末は最初か決めてた通りです。
スタンドでは競羅が天美に駆け寄っていた。そして、顔をしかめた。
「あんた、お手柄だけど、何をやっているのだよ。あーあ、人様にまで迷惑をかけて」
「ざく姉、そう言うことでなく、その人、手に持ってる器械よく見て!」
「器械だって?」
競羅が復唱したとき、数弥も追い付いてきた。天美は、その物体を男から取った。悪しき心を持っていた故に、すでに、男は弱善疏に堕ちていたからだ。
「そう、この器械、この人さっき、これ使って、キャッチャーの捕球邪魔してたの。だからボール見失って、一塁行かせちゃったでしょう」
彼女は思い浮かべながら答えていた。先程、背後から目に映った、あの青白い光の正体を、この器械は肉眼では見えないが、ある物質を照射する。照射されたターゲットの目は刺激を受けてひるまされる。このセラスタでも使われたことがある夜戦兵器の存在を。
「あの振り逃げ、こんな代物を使っていたのか」
「それだけじゃない、表のときの王者のキャッチャー暴投も、この器械、原因だったの」
「なるほど、そうだったんすね。だから、あの一塁への悪送球が起きたんすね」
数弥も同調するように答えた。そのあと数弥は笑みを浮かべながら、
「それで天ちゃん。これからすけど、これで堂々と屯倉選手と接触ができますよね。九回の死闘、五時間四十五分の決着をつけたボールすから、向こうも喜んで応対してきますよ」
「始めは、そう思ってたのだけど、もう、そんなレベルじゃない!」
ところが、そう答えた天美の目は厳しかった。
「どういう意味すか?」
「この人こそ、事件の冷徹な暗殺者、裏ラスタの関係者」
「えっ、暗殺者だって、裏ラスタって、あんたのよく言っている、あの!」
競羅がそう驚いて聞き返した。
「そう、その通り、数弥さん言ってたでしょ。高速道路の爆死と、海に車飛び込んだ事件、両方とも、この器械使って、目くらまし、して運転あやまらせたと考えられるよね」
「あ、そうか、そうだね」
「だいたい、この器械、かなり、狙撃の腕前ないと使えないのよね。それに、もとは軍用というだけに、ものすごく高価なものなの。だから、そんなの、いくつか持ったり、扱える人、雇う訳にはいかないから。この人が、今までの殺人事件の実行者」
「それを、天ちゃんが今捕まえたんすよね」
数弥の目は笑っていた。
「それだけでない。この器械、もう一つ使い道、今回あったみたい」
「えっ、もう一つの使い道だって?」
「その前に、なぜ、屯倉っていう選手、こんな鮮やかなホームラン、打てたと思う?」
「それはもう、こっちも奴には脱帽してるよ。百六十キロの上に浮き上がる速球を打ち砕き、数弥の提案通りのサヨナラホームラン、そいつを、やりとげたなんてね」
「だけど、それだって、あらかじめ、くるコース球種わかってたから、打ちやすいよね」
「そのことは、さっきも話に出なかったかい。プロの投手の生きた球を打つのだよ。ほかのところに目線がいったら集中ができなくなるという話じゃなかったかい。この右中間に目線なんて合わせてたら、百六十キロの球、打てるわけないだろ」
「確かにそうね。ここなんかに、目線合わせてたら」
「何か、含みがある言葉を言うね」
「屯倉選手、ずっと見てたけど、バッターボックスで打つとき、右足中央に出るよね」
「ああ、それが、どうしたのだい? それだけで、ボールは見分け何てできないよ。百五十キロ以上の球が、逃げたり、落ちたり、浮かび上がったりするのだからね」
「それで、その四種類の球種、この器械で教えてたの。つまり、右足を中央に出すということは、右足、左足両方に、器械から出た電撃当てることできる。その足も、もも、ひざ、かかと、最低三つの部分に当てることできる。計六か所以上は確実に」
「あ、あんた、何を言ってるのだい?」
「だから、この器械から発する軽い電磁波ね。軽いといっても、当たった感触ぐらいは、わかるように、それを、屯倉選手の足に当てて、ボールのコース球種、教えてたら」
「つまり、あんたは!」
「そう、足に電磁波当たった感触で、ボールすでに、どこに何来るか、わかってたの、右足が外角、左足が内角、逆かもしれないけど、決め事だからどっちでもいいし」
「そうすか、そうだったんすね。その方法で四種のボール、コースを知ってたんすね」
数弥がそう納得したように答えた。
「なるほどね、それなら合点がいくよ。でも、なぜ、わかったのだい?」
「だって、試合中、サイン盗みの話してたことあったでしょ。そこで、もし、ここからならと思ったの、サイン丸見えだから。でも、バッターに教えることはできない。ずーと思ってた時、あの器械の発した青白い光、目に映ったの」
「そんなの気が付かなかったけどね」
「それは、ざく姉たちグラウンドの方見てたもの。わったしには経験あったし。それに、この青白い光、熱のこもった光もれるの背後だけだからだし」
「そうなのかよ」
「そう、レーザーと違って、前方から全く光のようなもの出ないから誰も気づかない。だけど、照射された人間だけは程度な痛み感じる。調節によって、一瞬だけど、電気が走ったビリビリ感から鈍痛まで、車のガラスぐらいなら、その電磁波は突き抜ける」
「片岡さんたちは、それを、夜間、高速運転中に当てられたんすね」
数弥はそう確認してきた。
「そういうこと、有効距離五百メートルくらいかな」
「恐ろしい道具だね」
「だから、裏ラスタ、たち悪いの、こういう軍用兵器、すぐ、暗殺道具に改造しちゃうから! もう、ホームランボールなんてどうでもいい。この器械、警察に差し出すつもりだから。この暗殺者に強い方のちから、おまけにつけてね」
「そんなことしたら、プロ野球界は、この先!」
競羅はたしなめようとしたが、天美は真剣な目をして言葉を返した。
「それが目的だったのでしょ。ホームランボールより効果あるもの手に入っただけ!」
「あーあ、これは、本当に明日から、えらいことだよ」
競羅はグラウンド内で、激しい報道陣のフラッシュの嵐の中、慣れた口調で、
『はい、相手は化物みたいなピッチャーでしたが、八回のまずい守備でこんな展開になってしまったので打席が回ったときは、必死の気持ちで、打ってやろう、と思っていました』
とヒーローインタビューを受けている屯倉選手を見つめていた。
「もう、止める気ないよね。わったしから力ずくで、この器械奪うことできる?」
天美の言葉は挑戦的であった。
「わかってるよ。何人も死んだ事件、うやむやにできないことは、やはり、あんたは天魔だよ。将来の子供たちや、ささやかな大衆の夢よりも、そっちを選ぶのだから」
「何て言われても、こんな暗殺兵器使った人たち、絶対許すわけいかないから! 数弥さん、しっかりたたいてね。片岡っていう人の無念晴らさないといけないからね」
「むろんす。さすが、僕の見込んだ天ちゃんす。特大スクープすね」
二人の会話を聞きながら競羅は暗澹した気分で思っていた。自分がずれているのか? それとも、この二人がずれているのか? 彼女は初回に五対一の大差がついたとき、このような展開になることを予想していなかった。だから、軽口をたたいておれたのだ。八回、同点になったとき、さすがに胸騒ぎがしたが。それでも、このような結末になるとは…




