第5章 日常2~3人の旅の様子
インターミッション
たび、ってもっと、胸がわくわくするものだと思っていた。
少なくとも、ドキドキするような出逢いがあったり、知恵と勇気と友情で困難に立ち向かったり、そういうものの連続だと思っていた。書庫で読んだ写本や巻物は、みんなそんな感じだった。
なのに。なのに。
「ただ歩いてるだけなんて、つまんないよぉぉぉぉぉ~! 疲れたよぅぅぅ~! 僕もうやだよー! 足痛いよぅ~」
ともすると、視界から消えてしまいそうになるくらい前を行くラリサに泣きを入れた。
ラリサは振り返ると、溜め息をついて、肩を竦めた。
「だぁら、靴を履けっつったんだよ! 蒸れるとか擦れるとか、文句ばっかり言いやがって! 裸足で歩くって自分で決めたんだから、根性見せろ根性!」
泣きべそをかいているシドに向かって、びしっと喝を入れ、彼女は再び歩き出してしまった。
シドが泣き喚くのももう何度目のことか。
最初は景色を楽しむゆとりもあったのだが、次第に「ただ歩いている」という行為に飽きてしまったのだ。そうなるともう、意識は足の痛みと「休みたーい」という泣き言に集中する。
「ラリサ……少しくらい、休ませてあげたら如何ですか? 流石にシドだって、こんな長距離をいきなり歩くのは初めてでしょうし……貴女がメルス村から早く離れたいのは承知していますよ、故にこんな荒れた旧道を行こうとしているのもね」
エステレルはシドの肩を持ってくれた。
やさしいなあ。シドはほろりと涙を浮かべた。
「ですが、シドはまだ旅に慣れていないのですし、こんな悪路をいきなり長いこと歩かせるなんて……」
不自然な山吹色の、ばさばさの髪を、軽く押さえるエステレル。そこには有翼リスのティキが翼を畳んで収まっているらしい。
エステレルの不自然さは、時間と共に際立ってきた。靴が見えないほど長く白いローブを、引き摺るように歩いているのに、足元が全く汚れてこないのだ。汗をかいている様子もない。
シドはこんなに汗だくなのに。足なんてじんじんして、まめが幾つも出来ているのに……。
「お前なぁ。そうやって甘やかしてっと、いつまで経ってもシドが成長できねぇぜ」
呆れたように先頭のラリサがまた溜め息をついた。
「おんぶして~とか言い出さなくなったのは評価してもいいがな。だが、よく考えてみろよ。ここに戦士(バルテオ)は俺だけだ。子連れで、更に机上の魔術師とかいう無能男の警護をしなくちゃならんときている。ここの領を出るまで、気ぃ抜くわけにゃあいかねんだよ!」
「無能男だなんて酷いですよ! 私は薬師なんです! ちょっと、亡きお師匠様のお取り計らいで、儀礼魔術師のお免状を頂いただけで、魔術師だなんて自分からは名乗ってもいませんし……!!」
ラリサの毒舌にエステレルがいちいち反応する。
「大体、貴女に護っていただかなくても、危険が近づいたら、ティキが私を護ってくれます! 私はいつもこの子と一緒に、旅を続けてきたんですから!!」
ああああああ。また始まったよぅ。
シドの疲労が倍増した。
この二人、口喧嘩好きだなぁ。
折角の旅なんだから、もっと仲良く出来ると思ったのに……。
「勘弁してよぅ~」
シドはその場にへたり込んだ。




