第一話 追放されたので追放ギルドに就職したら追放されました
第一話 追放されたので追放ギルドに就職したら追放されました
ナーロウがその町へ辿り着いた時、彼はまず巨大な看板を見た、そこには金色の文字で「ようこそ追放自治区へ」と書かれており、その下にはさらに「今月の追放者数一二三万四五六七人達成!」という謎の横断幕までぶら下がっていたため、思わず二度見した。
「多くない?」
通行人が答える。
「最近は普通だぞ」
「普通なの?」
「少ない月だ」
「多いって何だよ」
ナーロウは頭を抱えた。
町を見渡す。
追放者。
追放者。
追放者。
どこを見ても追放者。
パン屋の店主も追放者。
鍛冶屋も追放者。
宿屋の女将も追放者。
犬まで追放者だった。
「犬は何をやらかしたんだ」
「パーティを追放された」
「犬パーティが存在するのか」
「勇者と猫と犬で組んでいた」
「まずそこを説明しろ」
犬は遠くを見つめながら吠えた。
どこか哀愁があった。
だがたぶん気のせいだった。
その時だった。
ドゴォォォォン!
突然空から男が落ちてきた。
派手に地面へ激突する。
土煙が舞う。
通行人達が拍手した。
「今日も元気だな」
「誰だよあいつ」
「追放された奴だ」
「さっきも聞いた!」
男は立ち上がった。
満身創痍だった。
しかし目だけは死んでいない。
「くそっ……俺はSSSランク付与術師だったのに……」
「始まった」
周囲の人々が椅子を出し始める。
ポップコーンまで売り始めた。
完全に慣れていた。
「追放されたんだな」
「なぜ分かった!」
「テンプレだからだ」
「うぐっ!」
男がダメージを受けた。
物理的ではなく精神的に。
すると向こうから別の男が走ってくる。
「大変だ!」
「どうした」
「AAAランク回復術師が追放された!」
「またかよ!」
「今度は人格者らしい!」
「最近の流行ですねぇ!」
野次馬達が盛り上がる。
ナーロウは理解できなかった。
「何なんだこの世界」
すると背後から老人が現れた。
白いヒゲ。
ローブ姿。
いかにも賢者っぽい。
だが首から「追放ギルド職員」の名札を下げていた。
「若者よ」
「なんですか」
「初めてかね」
「何がです」
「追放ものは」
「町全体がジャンル名みたいになってる」
老人は頷いた。
そして真面目な顔になった。
「昔はな」
「はい」
「追放されることは悲劇だった」
「そうだろうな」
「だが今は違う」
「何が違うんだ」
「追放された瞬間から人生が始まる」
「すげえ価値観!」
老人の説明によれば、追放自治区は元々行き場のない人間を受け入れる場所だったらしい、しかし追放された人材が次々と成功してしまったため、いつの間にか「とりあえず追放されれば何とかなる」という思想が広まってしまったらしい。
「ひどい」
「逆転劇は人気だからのう」
「それは分かる」
「理不尽に扱われた者が認められる」
「うん」
「頑張りが報われる」
「うん」
「読んでいて気持ちがいい」
「うん」
「だから流行った」
ナーロウは少し感心した。
ギャグみたいな町だと思っていたが案外まともな話だった。
その時だった。
鐘が鳴る。
ゴォォォォォン。
ゴォォォォォン。
町中がざわつく。
「来たぞ……」
「来月の新連載か!?」
「違う!」
「大型追放だ!」
「何それ!」
広場へ人々が集まり始めた。
ナーロウも流されるように向かう。
そこには巨大な舞台が設置されていた。
勇者パーティらしき集団が立っている。
中央には王冠を被った勇者。
無駄に顔がいい。
無駄にキラキラしている。
無駄に風が吹いている。
「なんか腹立つな」
「主人公補正じゃ」
「便利な言葉だな」
勇者は前へ進み出た。
「聞け!」
群衆が静まる。
「我々は今ここに」
緊張が走る。
「メンバーを追放する!」
歓声。
拍手。
クラッカー。
紙吹雪。
「おかしいだろ!」
誰も悲しんでいなかった。
むしろ祭だった。
勇者は隣の男を指差す。
「お前は役立たずだ!」
「言われた!」
「だからパーティから追放する!」
「来た!」
「テンプレだ!」
「王道だ!」
観客達が沸く。
スポーツ観戦か何かだろうか。
追放された男は俯く。
周囲が静まる。
感動シーンが始まる空気だった。
男はゆっくり顔を上げた。
「ありがとう」
「え?」
「実は独立したかった」
「え?」
「資本金も貯まった」
「え?」
「では株式会社追放商会を設立する」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
翌瞬間。
城より大きいビルが生えてきた。
意味が分からなかった。
看板にはこう書かれていた。
追放ホールディングス。
株式上場予定。
「早い!」
「準備万端だったな」
「追放され待ちだったのかよ!」
勇者が青ざめる。
「ば、馬鹿な!」
「どうした」
「お前がいなくなると困る!」
「遅いわ!」
観客全員がツッコんだ。
老人までツッコんだ。
犬もツッコんだ。
町が一つになった瞬間だった。
ナーロウは妙に納得する。
「なるほど」
「何がじゃ」
「別に追放そのものが人気なわけじゃない」
老人は頷く。
「うむ」
「追放された後が大事なんだな」
「その通りじゃ」
理不尽。
失敗。
挫折。
そこからの逆転。
昔から物語にある普遍的な面白さだった。
ただ形が追放だっただけなのだ。
ナーロウが感心したその時。
突然黒いローブの男が現れた。
いかにも怪しい。
いかにも次回への引きだった。
「ナーロウ」
「誰だお前」
「私は流行管理局局長」
「初登場だな」
「追放の流行を調査していたな」
「してた」
「なら次はざまぁだ」
空が暗くなる。
雷が鳴る。
なぜか背景に巨大な「ざまぁ」の文字が浮かび上がる。
「演出過剰だろ」
男は意味深に笑った。
「断罪裁判所で待っている」
「嫌な予感しかしねえ」
すると突然どこからともなく巨大なアンケート用紙が降ってきた。
第一話の人気投票結果発表。
「気が早いな!」
一位 犬
二位 追放商会社長
三位 老人
四位 ナーロウ
「主人公!」
五位 勇者
「なんで!?」
空から「来週の順位もお楽しみに」という文字が降ってきた。
ナーロウは天を仰いだ。
「この世界絶対おかしいだろ」
だが誰も否定しなかった。




