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エピローグ

「レナート様! もう起きていらっしゃたのですか?」

「ああ、アリア。なんだかそわそわして眠れなくてなーー」

「もうっ! 駄目ですよ、きちんと睡眠は取らないと! お医者様にもあれ程……」

「済まないアリア、今晩はそうするようにするから……」


 王都から馬車で1時間もしない郊外にある、レディオール王家の離宮。

 美しく整えられた庭で、元王は元王妃に降参とばかりに手をあげてみせた。


「本当にお気をつけなさって。『次はない、絶対にない!』と口酸っぱく言われているでしょう?」

「ああ分かっている。もうアリアにあんな思いはさせない」


 あの日。王は耐えきった。

 病に倒れ、侍医も「あとは陛下の体力ばかり」と匙を投げる状態だったが、夜明け近くに目を覚ましたのだ。


 そこから王は少しずつ回復をした。

 結局、足と手に不自由な部分は残ったが、杖を使えば歩ける程度にまではなる。

 侍医からすれば、「あり得ないこと」だった。


 とはいえ、もう王としての政務に耐えられる体ではなくなった王は、予定より早く息子王子のコニーに王冠を譲る。


 そうして王妃と共に離宮に引っ越した王。

 彼は城の人々の頼みに応じて、時折政に関する助言をする他は、これまでが信じられないほどゆっくりとした時間を過ごしていた。


 突然の譲位で心配されたレディオール王国。

 しかしコニーは優秀だったし、東隣の大国ヴィセルの国王が早くから彼を支持し、王女との縁談まで取り持ったことで、混乱は最小限に抑えられた。


 アリアは突然の政略結婚を心配したが、それも杞憂だったようだ。

 国王コニーとその王妃は、前代に負けず劣らないおしどり夫婦として知られるようになっていた。


 そして、今日はそんな現王と現王妃の間に生まれた王女に、レナートとアリアが会いに行く日だった。


 可愛い初孫に、すでにメロメロの2人。

 寝不足の元王を叱ったアリアだが、彼女だって大概寝ていなかったりする。


「アリア。せっかく起きたのだし少し散歩をしようか? ちょうど百合が綺麗に咲いている」

「まあっ! 昨日の朝は蕾だったのにーーそうしましょうか?」






 早起きしすぎた朝の一時。元王と元王妃はゆっくりと広い庭を回る。

 やがてアリアは小さな声で馴染みのメロディーを口ずさみはじめた。


『恋か歌かは選べない

 貴方が恋を選ぶなら 貴方は何かを失うでしょう


 恋か歌かは選べない

 貴方が歌を選ぶなら ここで貴方とお別れよ』


 弾む音色は可愛いワルツ。

 結局、歌も恋も捨てられなかった女が、今際の際に歌った歌だ。


 なんだかんだでアリアは1曲歌い切り、その美しい歌声にレナートは盛大な拍手を贈る。


 アリアは質素な散歩着の裾を広げて大仰にお辞儀をしてみせ、それから二人して笑った。


 レディオールの民は皆、知っている。


 それは悲恋の歌だ。でも、それを元王妃が歌った時、その曲はまた違った意味の曲となるのだと。

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