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喜劇的☆マ☆テキテキ  作者: 村崎羯諦
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カイキテキ・マ・テキテキ 21

 後ろからあの男の怒鳴り声が聞こえてくる。だけど、そんなことに構ってられるか。止まれって言われて、止まるほど俺は馬鹿じゃないからな。あの暴力男に捕まったらマジで殺されちまう。というか、あんなにぼこぼこに殴らなくてもいいじゃんか。まあ、奥さんと付き合ってるのは悪いっちゃあ、悪いけどさあ。


 そんなことを考えながら俺はとにかく走り続けた。噴き出す汗を手首あたりでぬぐってみるが、服を着ていないから、ふき取ることもできない。ただ手首あたりがべっとりと濡れただけ。そして、拭ったついでに先ほど何度も殴れられた口元に手をあててみる。手が触れた瞬間、鈍い痛みがぶり返し、思わず顔をしかめてしまう。まだ腫れが引かず、思うように口が動かないような気さえする。


 くそったれ。このまま腫れが引かなかったらどうしてくれんだ。えーと、あれだ。裁判所とか言うところに訴えてやるからな。


 とりあえず人が行きかう商店街に入ろう。なんてったって、人に紛れたほうが見つかりにくいからな。そういえば、先ほどから男の声がしなくなった。後ろを振り返ってみると、あの男の姿はない。追いかけるのをあきらめたのか、それとも単に距離が開いただけなのか。だけど、とりあえずは一安心。


 体力も限界に近づいていたこともあって、走るスピードを緩め、小走り程度の速度で歩く。呼吸を落ち着かせ、ようやく興奮が冷めたところであることに気が付く。パンツ一丁で商店街を歩く俺を、すれ違う人が物珍しそうに見つめてくるのだ。あー、面倒だな。普段からよく来る商店街だし、出禁になりたくもない。仕方ない。こそこそと隠れるように、商店街の横道へと入り、狭い路地へと逃げることにする。


 人がいないところまで進んだところでようやく足を止めた。抱えていた荷物と服を足元に置き、汚いビルの壁にもたれかかる。まったく、ひどい目にあった。大丈夫だからって何度も言われたから、家にお邪魔したのに、なんでタイミングよく夫が帰ってくるんだよ。旦那が留守の昼下がりっていうシチュエーションは興奮したけどさあ。


 そう不平不満を漏らしていると、先ほどのセックスが頭の中で再生され、反射的に股間が熱くなるのを感じる。おっと、まずい。パンツ一丁のまま勃起したら、バレバレじゃないか。手で股間を押さえつけながら、足元に置いておいたズボンをつかみ、急いで履く。もう汗も引き始めていたので、流れのついででお気に入りのアロハシャツも着る。これで誰かに通報されることもないだろう。


 俺がそう満足げに鼻をなしたその時、ふとあるものを発見する。いつも持ち歩いているリュックサックと一緒に、見覚えのないビニール袋が置いてあったのだ。


 こんなもん持ってたっけ、と疑問を抱きながら中をのぞくと、そこには小さな若葉が植えられた三つのポリポットが入っていた。その中身を取り出しながら、何とか心当たりがないか思い出そうと試みる。うーん、わからない。いつも色んなものをバックに入れて持ち歩いているから、知らないうちに荷物が増え、すっかり忘れていた持ち物に驚いてしまうことなんてしょっちゅうだしな。最近なんか、バックの奥に食べかけのハンバーガーが入っていて仰天したっけな。


 でもだからと言って、こんな大きいものを持ち歩いていたっけ? 幸恵さんの寝室にあったものを間違えて持ってきたのか? いや、俺が寝室に入ったときはそんなものなかった気がするな。さすがの俺だって、これにすぐ近くにリュックやらを置いたとしたら覚えてるだろうし。


 困った。いつ買った、あるいはもらったのかもわからないし、なんで持ち歩いているのかもわからない。俺は腕を組み、考えた。見覚えのない、突然現れた荷物。


 そうだ。俺はひらめいた。慌ててリュックの小ポケットに手を突っ込み、そこからしわくちゃになった紙を取り出す。









  拝啓。九条隆之殿。

 突然お手紙を差し上げます失礼をお許しください。けれども、あなた様に深く関係する火急の用があったため、このように連絡させていただきました。用件とはこうです。私がこの手紙に添えた、あるいは今後お送りする予定の贈り物を何も言わずにお受け取りください。これらは私が厳選したものであり、必ずやお気に召していただけると思います。お送りしたものをしっかりと読み込み、ぜひ自らの血肉としていただきたいのです。

 追伸 贈り物は私の気持ちが込められたものです。必ず目を通し、ゆめゆめお捨てにならないよう。私自身は九条殿を信頼申しておりますが、仮にそのようなことがあれば、災いが訪れるやもしれません。











 真相を悟り、思わず身震いする。あの文字がいっぱい並んだ本やらを俺に送り続けてきた正体不明の人間の仕業に違いない。


 そういえば、郵便受けとか以外にも、いつの間にか本がリュックの中に入れられてたこともあったな! 本の代わりに、今度は植物を送ってきやがったんだ!


 もう一度苗木を観察してみる。改めて見てみると、なんかまがまがしい形をしている苗木だ。見たこともない形だし、心なしか先ほど見た時よりも一回り成長してような気さえする。


 いや、待て。苗木の一つを手に取って観察してみる。


 さっき見た時は数センチの小さな双葉がひょっこりと顔を出していたはずだ。それなのに、いつの間にか葉っぱの数が八枚になって、その高さも十センチほどに伸びている。


 俺の記憶が間違っているのか、いや、そんなわけがない。九九がなかなか覚えられないからって言って、数分前の様子を忘れることなんてあるか! 残り二つの苗木も観察してみるが、やはりどちらも同じように成長していた。俺は途端にその苗木が何か不吉なものであるかのように思え始める。


 捨てよう。今すぐに。


 俺の見間違いだったとしても、こんなものをいつまでも持っておく理由はない。三つの苗木をビニール袋に入れなおし、この場に残したまま立ち去ろう。しかし、その瞬間、先ほどの手紙の文章が頭の中をよぎる。







 追伸 贈り物は私の気持ちが込められたものです。必ず目を通し、ゆめゆめお捨てにならないよう。私自身は九条殿を信頼申しておりますが、仮にそのようなことがあれば、災いが訪れるやもしれません。







 歩き出そうとした足が無意識に止まる。


 前、俺が送られてきた本を捨てた時、どんな目に遭った? バットを持った謎の覆面人間い追いかけられ、しまいには川に落とされたじゃないか。あれが、まさに手紙に書いてあった災いじゃないのか?


 それでも、こんな気味が悪いもんを手元になんか置いておきたくない。俺は周りを見渡し、あの覆面野郎がいないことを確認する。もちろん不審な人物の姿は見えなかったが、それでも胸のざわめきは抑えられない。


 いやいや、四六時中俺を見張っていることなんてありえない。ありえないよな、きっと。そう繰り返し言い聞かせるが、なかなか不安は消えない。


 どうしよう、どうしたらいいんだ。やっぱり持って帰った方がいいだろうか。そんな考えが頭をよぎったその瞬間、この上なく素晴らしいアイデアが思い浮かぶ。


 そうだ! 誰かにやっちまえばいいんだ!


 俺はもう一度あの女からの手紙を読み返す。手紙には捨てては駄目としか書かれていない。ということは、だ。誰かにあげることはいいんじゃないのか。


 その、あれだ。いわゆる反対解釈とかいうやつだ。これ以上の解答なんてないんじゃないか?


 そうと決まれば、話が早い。よし、次にここを通った人間にこれを渡そう。そいつがもらってくれないなら、その次にここを通った人間に頼めばいい。これを手放すまで何度だってやってやるぞ。


 そう意気込み、商店街の方向へと目を向けた。そして、俺の目に映った光景に思わず飛び上がりそうになる。


 俺が顔を上げた先、商店街の方向から、ある一人の女の子が歩いて来るのが見えたのだ。


 なんてラッキーだ!。俺の決意とともにこうもタイミングよく人が現れるなんて!


彼女の年は俺と同じくらい。スタイルは子供っぽく、俺の好みではないが、十分に端正な顔立ちだと遠目からでもわかる。いやいや、何を言っているんだ俺は。ナンパをするんじゃないんだから、そんなものは関係ないじゃないか。とにかくこの苗木さえもらってくれればいいんだ。


 俺は覚悟を決め、少女が近づいて来るのをじっと待った。そして、声が届く範囲に近づいてきた瞬間、俺は可愛く魅力的な彼女に声をかけた。


「てぃとっとお。ほじょうえうえん」





















 以上。終わるでも続くでもなく、振り出しへと回帰カイキする。

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