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四千年めの再会③-④

「ふっ、やはり遅いな」

 オービットは勝利の確信を口にした。ヴェネンニアの動きは一般的なレグキャリバーの域を出ない鈍重さだ。距離を詰めてしまえばこちらのもの。エネルギーソードを掻い潜って本体に攻撃を加えることなど造作もない。空いた右脇腹に必殺の刺突を繰り出し、

 ヴェネンニアの左腕からもエネルギーソードが発生し、スティルメンの剣を弾いて防御。両者の剣の激突によって火花が激しく舞い散った。思わぬ反撃に意表を突かれたスティルメンへと、ヴェネンニアが追撃を繰り出す。

 ヴェネンニアの動きは滅茶苦茶だ。両腕を突き出して、振り下ろして、横薙ぎする。子供が力任せに両腕を振り回しているようにしか思えない。しかし、一振りの剣に対して両腕からの連続攻撃という物量は、たったそれだけでも二倍の戦闘力だ。攻撃を防ぎきれず、スティルメンの全身が破損していく。

「馬鹿め、背中が疎かになっているぞ!」

 スティルメンの相手をしている隙を狙って、アイラザインがヴェネンニアの背後に接近していた。無防備な背中へと棘鉄球を振り下ろす。

 ヴェネンニアの肩当てが背中に回され、その先端が五つに枝分かれ。巨大な掌となった肩当てが棘鉄球を受け止めて防御し、力任せに引っ張ってアイラザインを引き倒す。

「出力でアイラザインを上回るのか!」

 驚愕を迸らせながら、アイラザインの巨体が大地に倒れた。

「貴様、これは意趣返しのつもりか?」

 鋭い突きとともに、オービットの詰問がゼヒナスに飛んできた。

「と言うと?」

「とぼけるな! スティルメンには剣で、再生怪獣には出力で。それぞれの得意分野で圧倒しようという魂胆だな!」

「手っ取り早く戦いを終わらせるには、心を折るのが一番なんでね」

 オービットは「なるほど」と頷いた。相手の戦力を奪う最初の一手に全裸を選ぶような輩だ。精神攻撃を常套してくると考えたほうがいいだろう。

「だが、貴様の目論見どおりにはいかんぞ! 貴様が両腕に剣を持つのなら、私は二倍、いや三倍の速度で攻撃するまで!」

 スティルメンの両腕が∞の軌道を描き、息も吐かせぬ怒涛の攻撃を見舞ってきた。目にも留まらぬ超高速攻撃だ。左右のエネルギーソードだけでは防御しきれず、剣の切っ先がヴェネンニアの本体を掠めていく。

「確かにキャリバー離れした動きだが……注意力が散漫だな」

 ヴェネンニアがひょいっと爪先を突き出した。スティルメンが足を引っかけられて盛大に転倒。大地を滑るスティルメンの巨躯が自軍の輸送車を滅茶苦茶に轢き潰していく。

「お、おのれ……剣術の勝負に足技を持ちこむとは……っ!」

「おいおい。一体どこの誰が、剣の勝負で足技を使うなと決めたんだよ?」

「ここの私がだ!」

 ゼヒナスの呆れ顔は、オービットの即答によって苦笑に変わった。

「なら聞くけど、どうしてお前は剣術に足技を組みこまない?」

「そのような邪道、私の剣術には相応しくない」

「お前ならそう言うと思ったよ」

 起き上がったスティルメンが再接近。ゼヒナスはオービットの愚直さに口の端を持ち上げて好意の笑みを浮かべる。

 しかしそれとこれは別問題だ。ヴェネンニアの両肩当て前方に回されて剣を防御し、跳ね上がってスティルメンを強打。両腕のバルカンからの斉射が零距離からスティルメンの全身に叩きこまれ、装甲が薄紙のように剥がれ落ちる。

「確かにお前一人が自分の騎士道に準じて死ぬだけならそれもいいだろう。だがな、お前は、お前の死によって後ろに控える何百何千人もの人々を道連れにすると分かっていて、それでも自己の矮小な矜持に殉じられるのかよ?」

 アイラザインが眼部からメーザーを放射。しかしメーザーの先にヴェネンニアの姿はなく、虚しく森林を薙ぎ払って炎上させるのみ。

 ヴェネンニアの姿は上、アイラザインの頭上で転地逆様となっていた。脚裏からオールトを噴射させ、曲芸じみた身のこなしでアイラザインの背後に着地する。

「それに、だ。騎士道精神旺盛とただの愚図は別物だ。お前の障壁のオールト、どうして防御にしか使わない?」

「なにを言っている? 障壁のオールトなのだから、防御に使うのが当前だろうが」

 ヴェネンニアはアイラザインの両手首を摑み、背中に足をやり、肩を破壊しにかかる。

「例えばだ、剣の刀身を保護して切断力を高める、面積の小さい障壁を飛び道具として放つ、相手の背後に障壁を作って退路を断つ、さらに発展させて相手の体を障壁で拘束する。少し考えればいくらでも使い道があるだろうが」

 アイラザインの尻尾が鞭のように翻り、ヴェネンニアは急速退避。しかし逃げた先にスティルメンが先回りしていた。一瞬の好機を見逃さず、大地を踏み締めたスティルメンが渾身の刺突を放つ。

 オービットの両目が呆然として見開かれた。ヴェネンニアの脇腹に突きこんだ剣は、装甲の隙間すら貫くことなく逆に砕かれてしまったのだ。女の悲鳴のようにいつまでも耳にこびりつく残響音が鳴り続けていた。

「このヴェネンニアは分解のオールトを張り巡らせた絶対の鎧に守られている。オールトをまとわないただの鋼の剣なんか、そもそも避ける必要がない」

 よくよく観察してみれば、ヴェネンニアは無傷だった。鉄球を受けたはずの肩当てにも、剣が接触した体にも、掠り傷の一つすら見当たらない。激突のたびに飛び散っていた火花は、一方的に剣が破損していたにすぎないのだ。

「お前が三倍の速度でくるなら、こちらは二倍の……さらに十倍だっ!」

 ヴェネンニアの全身から刃が飛び出す。腕の三連バルカンから三つ、巨大な掌となった肩当ての指先から五つ、さらに膝と爪先から二つ。それが左右それぞれ、都合二十本のエネルギーソードが発生していた。

「な、なん、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!」

 オービットの怒号を背後に聞きながら、一気に駆け抜けたヴェネンニアが足を止める。スティルメンは全身からの二十の火花を上げ、轟音と土煙を上げて大地に倒れ伏した。

 背後から凄まじく甲高い音が聞こえてきた。気付いたゼヒナスがヴェネンニアを振り向かせると、土煙を巻き上げて突進してくるアイラザインの姿があった。アイラザインの胸部には高速回転するドリル。音の正体だ。

 アイラザインが左腕の棘鉄球を振り下ろし、ヴェネンニアが肩当てで受け止め、右腕は左腕でいなされ、必殺のメーザー光波を放つべく開かれた口腔に岩石が突っこまれる。

 その攻防の一瞬を突いて、アイラザインの尾がヴェネンニアの両腕を縛り上げた。身動きの取れなくなったヴェネンニアへと、唸りを上げてドリルが接近。ヴェネンニアの胸部から溶鉱炉のように大量の火花が飛び散る。

 反してザンダの顔色は蒼白となっていた。押そうが引こうがアイラザインが動かない。アイラザインのドリルはヴェネンニアの胸部に収納された猛禽の嘴によって挟まれ、致命傷を与えるどころか逆に自由を奪われていたのだ。

 最初こそ滝のように火花を飛ばしていたドリルだが、すぐに回転が遅くなって、しまいには白煙を上げて完全に回転を止められてしまう。

 その瞬間を見計らったようにヴェネンニアが身をよじった。常識離れした出力によってアイラザインが体勢を崩し、尻尾の拘束が弛む。その一瞬でヴェネンニアは脱出し、逆にアイラザインの尻尾を摑んだ。ヴェネンニアの体が回転し、アイラザインの巨体が浮き上がって、円を描いて振り回される。尻尾が手放され、アイラザインは放物線を描いて投げ飛ばされた。

 アイラザインはスティルメンの隣に墜落。墜落死の激痛がザンダへと逆流し、喉から獣の叫び声が放たれた。

「こんな、こんな馬鹿な! スティルメンと再生怪獣の二体がかりで、一方的に負かされただと……」

 オービットは酸欠の魚のように喘いだ。オービットは横暴で野蛮な強奪犯を相手に、二度も敗北を喫したのだ。周囲からの信頼を裏切り、身命を賭した部下たちの犠牲を無駄にしたのだ。

 認めたくない。認められるものか。それでも、これが現実なのだ。敗北の屈辱を口に出して、自分自身に言い含めていく。

「動け、動けよアイラザイン! ここで動けなくなればあいつらが、あいつらが!」

 ザンダは半狂乱になって指示を送るが、アイラザインが動く気配は一向にない。再生怪獣の動力源は、操縦者たる怪獣人の精神力だ。アイラザインが動かない理由はザンダ自身が一番よく理解していた。ヴェネンニアの圧倒的な性能を目の当たりにし、その先にある一味の全滅を予感してしまって、ザンダの心が折れてしまったのだ。

「だから言っただろ。言って分からないから尻を叩かれるんだよ」

 指先一つ動かせなくなった二体を前に、腕を組んだヴェネンニアが傲然と見下ろす。

「さてと、それじゃあそろそろ、この間抜けな戦いを終わらせてもらおうか」

「なに? それはどういう……」

『こちらピグウス隊、アジト最深部に到達しました』

 オービットの疑問を晴らす間もなくスティルメンに通信が入った。遺跡の攻略を任せている大隊長の一人からだ。

「よし、それでは速やかに《ザンダ一味》を一人残らず征伐せよ」

『で、できません!』

 しかし返ってきたのは、指揮官が口にしてはならない言葉だった。

「……どういうことだ?」

『彼らは、彼らは無力な民間人です! 大人はおろか、女子供や老人までもが仲間を守ろうと、自分たちの家を守ろうと、武器を持って抵抗してくるのです』

 通信の後ろからは怒鳴り声や破壊音など、争う音が聞こえてくる。

『俺は両親に捨てられていく当てのないところを拾われたんだ!』

『私は夫の借金で死のうとしていたところを引き止めてくれた!』

『学がなくて盗みを働くしかなかった俺に勉強を教えてくれた!』

『毎日毎日野草を食べて川の水を飲んでいた僕に、温かい布団とご飯をくれた!』

 その後も次々と、次々と、ザンダを擁護する声が上がっていく。

『ここには、ここには悪逆非道な悪党集団など誰一人としていません! 彼らを手にかけることは《財団》の一員、いえ、一人の人間としてできません!』

「あいつら戻ってきたのか……逃げろと言ったのに……」

 ザンダは呆れと苦々しさを等分した表情を浮かべた。しかしその横顔は、どこか誇らしげで満足げだ。

「どういう……どういうことなのだ? それでは《ザンダ一味》の数々の悪事は、一体誰の仕業だというのだ?」

 対してオービットは茫然自失としていた。今の今まで悪逆非道な集団だと信じて窺わなかった《ザンダ一味》が無力な弱者の集まりだと知って、自身の常識が覆されたことに動揺を抑えられない。

「おい貴様、悪事とはなんのことだ? 我々はこの地でひっそりと隠れ住んでいただけだ。誰にも迷惑をかけるような真似はしていない!」

「戯言を……いや、貴様の言い分が真実なのか……?」

「つまりだ、お前らは二人とも一杯食わされていたんだよ」

 混乱し、白熱する二人へと、客観的なゼヒナスの言葉が冷水となって浴びせられた。

「《ザンダ一味》には難民の隠れ里と悪党集団という二面性があった。つまり、隠れ里である本来の《ザンダ一味》とは別に、《ザンダ一味》の名を隠れ蓑にした別の悪党集団がいるってことだ。

 そしておそらく、そのもう一つの集団は《ザンダ一味》の内部に巣食っている」

「そのとおりだ」

 三人の疑問に答えるように、その場に声が投げつけられた。横に向けられた視線の先、岩山の上に立つ男の姿がある。

「《財団》とザンダの激突に第三者が介入して、しかも第三者の一人勝ちでどちらも死なないだと? それじゃ困る、困るんだよ」

 裏切り者は黒服と帽子、目の下に濃い隈を湛えた男だ。裏切り者のありえない正体と、男の傍らに出現した人物の姿に、ザンダの目が見開かれる。

「《財団》とザンダと激突させて一方が死に、疲弊した生き残りを殺して首領の座を乗っ取るという、このバッハイグ様の計画が台なしじゃないか」

 バッハイグがシルヴィナの首に短剣を突きつけて人質にしていた。

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