十五夜紅VS天照大神1
アマテラス様の始まりの合図と共に、紅ちゃんとアマテラス様は、お互いに一定の距離を保ちながら円を描くように走り出した。
走ると言っても、実際に走っているのは紅ちゃんだけで、アマテラス様は地面から少し浮いた状態で、まるでアイススケートでもしているかの様に滑らかに移動している。あれが神様だけが使える神通力っていうやつかな?
「まずは、様子見からで……それ。」
最初に動いたのは、紅ちゃんだった。
走りながら身体を半回転させ、右手に素早く火の玉を形成。紅ちゃんお得意の火のカグラ舞だ。
半回転だけで火の玉を形成できるのは、アカデミー内では紅ちゃん一人だけで、基本的に一つのカグラを形成するためには、一回転以上の舞を、精霊に奉納しなくてはならない。
それを考えるとやはり紅ちゃんは、十五夜家の当主として充分な力を持っている事が伺える。
そして形成された火の玉で、アマテラス様を攻撃。
「かっかっか!さすがは十五夜家と言うべきか、素早い形成じゃの!じゃが……。」
直撃するか、しないかの距離で、一瞬笑みを見せるアマテラス様。
次の瞬間、表情は一気に真剣なものに変わり、右腕を大きく振り下ろす動作をする。すると、紅ちゃんが形成した火の玉は真っ二つに割れ、蒸発した。
「んっ?なに?」
紅ちゃん自身も何が起こったか分からない様子だった。
「何が起こったか分からんようじゃな!今のが分からんようでは、わらわを倒すなど到底不可能じゃぞ?」
なぞなぞの答えが分からない子供を、楽しむような笑みを浮かべ、紅ちゃんを挑発する。
「……まだ、始まったばかりだし。」
紅ちゃんが身体を一回転させ、火の玉を二個形成。そして、もう一度アマテラス様に攻撃を仕掛ける。
「無駄じゃ!数を増やしたところで当たりはせんぞ!」
またしても攻撃が当たる直前で、今度は右腕を小振りに、十字に切るように振りかざした。
アマテラス様の動作と同じタイミングで、二つの火の玉は割れて蒸発する。
「何度やっても同じ事じゃ。」
「でも、そのカラクリは、分かった。」
「ほほぅ……、言ってみよ。」
「私の攻撃を無効化した正体、それは……コレ。」
そう言って、紅ちゃんは右腕を大きく一周させ、精霊に舞を奉納。そして、右手に形成されたのは、
「水の玉?」
私の問いに紅ちゃんはゆっくりと頷く。
「そう。夕華の得意な、水のカグラ舞だよ。」
でも、どうして水のカグラが?アマテラス様は、水の玉なんて形成してなかったのに……。
「アマっちは私、の攻撃が当たる直前に、右腕を振り下ろして水のカグラを形成してたんだよ。しかも、玉に形成する前に、水を飛ばして私の攻撃を相殺してたから、水のカグラとは判別しにくかった。」
なるほど、そうゆうことか。でも、水の玉が形成される途中に、攻撃を相殺するなんてかなり高度な技術のはず。
もし、一瞬でもタイミングを間違えばカグラ舞は不発に終わり、攻撃が直撃してしまう。
やはり、八百万の神々の頂点に立つ神様、天照大神の名は伊達じゃないってことだね……。
「かっかっか!正解じゃ、何故分かった?」
「私の、火の攻撃が蒸発する所からピンと来た。蒸発させるのは水しかないって。」
「うむ。中々鋭い所に目をつけたな。流石は、十五夜家の人間という事か。」
「どうも。」
アマテラス様が感心しているにも関わらず、紅ちゃんは汗一つ掻かず、冷静かつ、マイペースな様子で受け答えしていく。
「じゃが、一つだけ惜しい所があるの。」
「???」
紅ちゃんが何が惜しいのか分からず首を傾げる。もちろん、私も何が惜しいのかなんて分かってない。
「惜しい理由は――――――これじゃ!」
アマテラス様が、一気に紅ちゃんとの間合いを詰める。
「くっ!」
突然、距離を詰められた紅ちゃんは、両腕をぐるりと一回転させた後、パンッ!と一拍して、急いで土のカグラを形成して、土の壁を作った。
「この程度の壁!」
アマテラス様は、右腕を真横に切るような形でカグラを形成した。
「っ!」
形成された土の壁は、真横に切れ目が入り、ドドドドッ!と崩れ落ちた。
「わらわが惜しいと言ったのは、実際、水の玉に形成される前に飛ばす事によって、超圧縮された水の刃を作っておったのじゃ。現世では、ウォーターカッターと言うらしいの。呼び名が長いから、わらわは、”水刃”と呼んでおるが。」
「水刃……。」
私も、水のカグラ舞の扱いなら多少の自信はあるけど、水で刃を作るなんて芸当は初めて見た。まさか、主に防御で使用する水のカグラを攻撃用として使うなんて……。
「では、次はわらわの番じゃな!」
アマテラス様が、紅ちゃんとの間合いを詰め接近戦に持ち込むと、右腕を振りかざし、水刃を形成して紅ちゃんに猛攻を仕掛る。
「そうは……させない!」
紅ちゃんが両腕を左右対称に半回転させ、風のカグラを、足の周りに形成してバックステップをとり、一気にアマテラス様との距離をあけようとするが、
「わらわも、その程度の事できるぞ!」
アマテラス様も同じように、風のカグラを形成して追撃する。必死に距離をあけようとする紅ちゃんに対して、余裕の表情でアマテラス様は追い討ちをかける。
逃げては、追いかけ、逃げては、追いかけの動作が続き、次第に紅ちゃんの顔に疲れが見えてくる。
「あぁ……もう!」
このままでは、ジリ貧になると察したのか、紅ちゃんは風のカグラで距離をとりつつ、身体を二回転させ
火の玉を四つ形成する、これまた四つも同時に火の玉を形成できるのも、アカデミーで紅ちゃんだけだ。
そして、一斉にアマテラス様に向けて攻撃を仕掛ける。
「甘い!」
アマテラス様は、両腕に水刃を形成し、飛んできた火の玉を迎撃する。
「数を増やせば、わらわを止められると思うたか?」
まったくスピードを落とすことなく、アマテラス様は距離を縮める。
「んっ!」
それでも紅ちゃんは火のカグラで応戦する。
「無駄じゃ!」
紅ちゃんの無謀とも言える量の攻撃を全て迎撃し、火の玉を全て蒸気に変えていく。
そして、とうとう紅ちゃんは、ハァハァと息を切らし、地面に膝をついてしまった。元々、体力の少ない紅ちゃんからしたら、かなりの奮闘ぶりだ。
「もうネタ切れのようじゃな。」
ゆっくりとアマテラス様が、紅ちゃんに近づく。
「あ~、疲れた……。やっぱり無理はしない方がいいね。」
紅ちゃんが負ける!?そんな事を思っていると、後ろで退避していたくーちゃんが、私の方に近づいてきて、
「ゆーか、凄い霧だねぇ。」
と、周りをクルクルと見回した。
確かに、カグラ勝負に集中していたせいで気づかなかったけど、辺りは、火の玉を水刃で切り裂いた時に発生する蒸気で、まるで、霧の中にいる様な錯覚を起こす。
アマテラス様も霧に気づいたようで、驚いたように一瞬目を見開くと、
「ん?この蒸気の霧は……まさか!」
「そう。そのまさか。」
紅ちゃんは呼吸を整え立ち上がると、
「私が本当に得意とするカグラ舞を教えてあげる。」
いつもと変わらない、淡々とした口調で宣言するのであった。




