それぞれの祝詞3
「それで?くーちゃんは、それ以来アマテラス様に、外に行きたいって言ってないの?」
「うん……。あーちゃん、とってもかなしそうだったから、くーちゃん、わがまま言っちゃいけないと思ったんだ。」
そのくーちゃんの残念そうな表情と、健気な理由に胸がいっぱいになり、思わずくーちゃんの布団に飛び込み、ぎゅっと抱きしめて、「偉いね~。」と言いながら、くーちゃんのさらさらとした長い黒髪を撫でてやる。
すると、くーちゃんはくすぐったそうにしながらも、にしし~っと笑顔を見せてから、私の胸に顔を埋めてくる。
「でも、たのしそうだね~、お外の世界。」
くーちゃんが胸の中で顔を上げ、私の目を見た。その瞳は、外の世界に対する好奇心と、憧れが混ざったたキラキラした瞳だった。そんな瞳を見て、くーちゃんが外の世界を行くのを応援したくなり、発破をかけてみる。
「やっぱり、もう一回アマテラス様にお願いしてみたら?次はOKって言ってくれるかもしれないよ?」
「でもでも……、あーちゃん、怒っちゃうかもしれないし、また、かなしそうなお顔されたら、いやだし……。」
さっきまでのキラキラした目は一瞬で消え去り、今は不安な表情のまま、隠れるようにモゾモゾと布団の中に潜ってしまった。
「でも本当はくーちゃん、外の世界行ってみたいんだよね?」
隠れているくーちゃんが見えるくらいまで、布団の裾を持ち上げ、本当にくーちゃんが何をしたいかをもう一度、問いた出す。そうすると、「でも……でも……」と悩んだ末に、コクリと動いたか、動いてないか微妙なくらいの動作で首が縦に振られた。そして、
「ほんとは……お外のせかい……行ってみたいよ。」
私の質問に、自信のなさそうな小声で答えた。そして、
「くーちゃん、”もっと自由にいろんな所に行って、いろんな事、知りたい!”」
今度は、力強く答え、その目は、さっきまでの活き活きとした目に戻っていた。
「でも、、やっぱりあーちゃんにわがまま言って嫌われるのイヤだから……。」
う~ん、困ったなぁ。外の世界に行ってみたいけど、アマテラス様の事が気掛かりで、本当の自分の気持ちが言えないって所かな?アマテラス様の事が大好きな、くーちゃんからしたら、嫌われる事は怖い事かもしれないけど、せっかく”もっと自由にいろんな所に行って、いろんな事知りたい”って気持ちがあるるんだから、自分の気持ちをアマテラス様に、真っ直ぐにぶつけてみたらいいのに……。
ん?もっと自由に?自分の気持ちを……ぶつける……?嫌われる事が怖い……。
その時、頭の中でモヤモヤした霧の様なものが少しずつ晴れていくような感覚と、まるで雷が落ちるように閃きが脳裏を走り渡った。
「そうか!分かったよ!くーちゃん。」
私は布団を飛び出し、うんうんと頷く。すると、くーちゃんが目をパチクリさせながら、「ど、どうしたの?ゆーか?」とビックリした表情で聞いてきた。まぁ無理もないよね、私自身も、突然の閃きで、どうして立ち上がったのか分からなかった。
「出来たよ!私の祝詞が!」
「のりと?」
「うん!くーちゃん、あのね……」
布団の中に隠れて、顔だけを出しているくーちゃんに近づき、優しく頭を撫でてやる。
「私はね、現世から届いたお願い事を、アマテラス様に叶えてもらうために、ここまで来たの。」
うん。と言いながら、くーちゃんは静かに頷く。
「それでね、明日、アマテラス様にお願い事を聞いてもらうために、カグラ勝負をしないといけないの。」
「かぐら……しょうぶ?ゆーかとあーちゃん、ケンカするの?ケンカはだめだよ!」
「う~ん、ケンカとはちょっと違うかな?儀式みたいな物かな?」
くーちゃんの誤解を解きながら、カグラ勝負がどんな事をするのか説明していく。説明が終わると、ケンカじゃないなら、許す!とくーちゃんからの了承も貰った所で、話しを元に戻す。
「でね、もし私が、アマテラス様に勝てたら、くーちゃんの外に行きたい、ってお願い事も一緒に言おう!」
「えっ!?で、でも……」
私からの提案にまだ悩んでいる様子だったので、畳み掛けるようにして言葉を続ける。
「私も頑張ってアマテラス様に勝つから、くーちゃんも勇気だして、もう一回アマテラス様にお願いしてみよ?私も一緒に言ってあげるから、ね?」
しばらくの沈黙。下を向いて、指同士をツンツンと突っつきながら、う~ん、う~んと悩むこと数十秒、顔を上げ、
「わかった!ゆーかが勝ったら、くーちゃんも頑張ってあーちゃんにお願いしてみる!」
と、意を決したように、私の方を見た。
そして、それからしばらくの間、どんな生活をしているのか、好きな食べ物は何なのかなど、お互いの事を話しながら、ゆっくりと近づいてくる眠気を感じながら、長々とおしゃべりをして過ごした。
さぁ、明日はいよいよ、アマテラス様とのカグラ勝負だ。頑張らないと!
程よい緊張と、睡魔に襲われながら、私は、落ちるように眠りに付くのであった。




