小さな神様と幼い式神2
「うむ、お空、よく出来たぞ!」
アマテラス様が再び、頭を撫でてやると、くーちゃんは嬉しそうに、アマテラス様の方を見ながら”にしし”と笑顔をしてみせる。この、二人の関係は、神様と式神と言うより、親子って感じがする。
「まぁ、本人は自分の事を、くーちゃんと呼んでおるが、本当の名は、”猫柳空”と言うでの。」
「猫柳・・・空・・・。」
初めて聞いたくーちゃんの名前を、頭にしっかり入れるように、ゆっくり、飲み込むように、繰り返し復唱していく。
「そうじゃ、猫のように気ままで、柳のようにしなやかに、そして、空のように、大きく育って欲しいと願いを込めて付けた名じゃ!」
腕を組み、目を閉じ、うんうんっと頷きながら、説明をする。その姿を見るだけで、くーちゃんがどれほど大切にされているかが分かる。
「それで、やっぱりクーは、アマっちの式神なの?」
「そうじゃな。確かに、お空は、わらわの式神である事は、間違い無いのじゃが・・・、」
そう言うと、組んでいた腕を、ポンっと膝の上に置き、何処か遠い所を見るような目で、
「式神というよりは、家族、と言った方が良いのかもしれん・・・。」
と、少し寂しそうな雰囲気で、答えた。
「まぁ、それよりも、お主達の名を教えてくれ。いくら神様の中の神様、トップ・オブ・ゴッドと言うても全人類の名を知ってる訳ではないのでの。」
寂しげな空気は一瞬で消え、そして、少し照れくさそうにしながら、一指し指で頬を掻く。確かに、いくら神様とは言え、全人類の名前を覚えるなんて、さすがに無理だよね。
そんな事を思いつつ、アマテラス様に促されるまま、自己紹介を始める。
「はい。私は日暮夕華って言います。趣味は、お菓子作りで、得意なカグラ舞は水のカグラ舞です!」
「ほほ~う、日暮・・・”夕華”・・・か。そして、水のカグラが得意とな。なるほど、これは・・・もしや・・・。」
最後の方が聞き取れなかったけど、アマテラス様は、私の名前を聞くと、何か考えごとをし始め、しばらくすると、うんうんと頷き、何か、閃いたような表情をした。
「いや、すまんすまん、なかなか良い名前じゃったからの。続けてくれ。」
そう言って、紅ちゃんの方を見た。
「ん。十五夜紅趣味はお昼寝。火のカグラが得意。以上。」
「かっかっか!そうかそうか、やはり、十五夜家の者か!幼い頃と雰囲気がまったく変わっておらぬの!」
「幼い頃?どゆこと?」
紅ちゃんが困惑したような表情で、私の方を見てきた。いや、むしろ私のほうが聞きたい。
「かっかっか!まぁ、昔のことじゃ、お主はまだ幼かったから、覚えてとるか分からんが、わらわの妹、ツクヨミの新・補佐襲名式に、新たな補佐として出席しておったろ?」
「ん~、確かにそんな事もあったような・・・なかったような・・・。」
考え込む紅ちゃん。それより気になるのが、
「ねぇねぇ、紅ちゃん。何?新・補佐襲名式って。」
小声で話しかけると、
「ん。えっと、夕華は、ツクヨミ様の事は知ってる?」
もちろん、ツクヨミ様の事は知っている。確か・・・正式な名前は、”月読命”アマテラス様の実の妹で、神様の中では、アマテラス様の次に、ツクヨミ様の名前が出てくるほど有名である。
今は天界高天原にある、月の観測所で月の流れを研究している、ってアカデミーで習った覚えがある。
「うん。確か、月の観測所にいるんだよね?」
「そ。ツクヨミ様は、観測所に引きこもてって、時々、ストレスで暴走するから、それを止める役割をしているのが、私たち十六総家ってわけ。OK?」
「うん。それは分かったけど、その“新・補佐襲名式”って言うのは?」
「まぁ、あれだね。ウチのお父さんがもう年だから、ツクヨミ様を止めるのが難しくなって、」
確かに、紅ちゃんのお父さん60歳超えてたもんね~。
「それで、娘の私がその役割を引き継いだから、新・補佐襲名式ってのは、その引き継ぎ式みたいな物かな?だから今は、私が、十五夜家当主やってるんだよ。」
「なるほど、そういう事だったんだね。」
十六総家が名門で凄いって事は知ってたけど、まさかツクヨミ様の暴走を止める役割をしてたなんて、まったく知らなかった。
「コ、コホン!もう話を続けても良いかの?」
私が、会話を割って入ってしまったせいで、アマテラス様が話すタイミングを見失ってしまったようだった。
「あ~、ごめんなさい!どうぞどうぞ、続けて下さい!」
頭を下げ謝ると、気にするでない、っと、アマテラス様はにっこり微笑んでくれた。
「まぁ、それでじゃ、実際、わらわとお主は、一度、襲名式の時に会っておるのじゃ。しかも、お主は特に目立っておったから、良く覚えておるぞ!」
「目立ってた、ってどういう事ですか?」
「うむ、襲名式の会場での、一人だけ、じゃじゃ馬娘がおっての。会場のテーブルクロスは引き抜いて遊ぶは、グラスを逆さにしてピラミッドを作るは、それはもう大変じゃったのじゃ。」
あ~、なるほど。それが・・・。紅ちゃんの方を見ると、
「それ、・・・私じゃないよ?」
冷や汗を流しながらの、全力否定。いや、もうバレてるよ・・・紅ちゃん。
「いいや、お主じゃったぞ!遊んでおったのに、まったくの無表情じゃったし、お主のその長い赤茶色の髪と、真っ赤な瞳をハッキリと覚えておるでの。」
そう自信満々に言い放った。そして、さらに
「そして何より、そのお主の赤い瞳は、十五夜家の者の証じゃからの!」
言い逃れの出来ない、止めの一言だった。
昔、紅ちゃんがこの赤い瞳は、十五夜家の子の証だって言ってた気がする。
「今は、・・・じゃじゃ馬じゃ・・・ない。」
頬をぷく~っと膨らませ、そっぽを向く紅ちゃんが、また可愛らしかった。




