09話 加えられた遺言
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「豊臣家の未来は存外明るいやも知れぬ」
我が子の利発さに一途の光明が見えた秀吉であったが……
「然れど、若君は御年7歳……」
「然もありなん、聞く耳を持つ大人が如何程いようかのう……」
子供の言うことに大人が聞く耳を持たないのは現代もこの時代も変わらない。
「遺言を付け足してみるか……」
後日、諸大名に伝えられた遺言には以下のことが追加で記されていた。
『一つ、国之趨勢を決す大事之判断は自らのみを以て断ぜざるべからず。五大老五奉行、並びに秀頼公之御判断を仰ぎ、事之次第を決すべき事。又其の判断、何れよりか定むるべきや、これ五大老五奉行之合議を以て決すべき事。但し、五大老五奉行之過半の同心を以て決するものなり。斯くの如くして秀頼公之御裁断を仰ぐべきものとす』
難しいが、現代語訳するとこうである。
『国の行く末を左右する重大な判断は、個人のみの判断で決めてはならない。五大老五奉行、ならびに秀頼公の判断を仰ぎ、その結論を決めるべきである。また、それが重大な判断であるかどうかは、五大老五奉行の話し合いによって決定するべきである。ただし、五大老五奉行は過半数の同意が必要である。そのうえで、秀頼公のご裁断を仰ぐべきである。』
つまり、独断での判断が困難になり、五大老五奉行の過半数と秀頼の同意がなければ、国を左右する決定は下せなくなったのである。
五大老五奉行を主軸とするのには変わりないが、最終審査に秀頼の同意が必要となった。恐らく誰もが、これは形式的なもので、秀頼が決定したようにするパフォーマンスだと認識するであろう。
はたしてこの程度で、家康の野心を抑え込むことができるのか、効果はあるのか、今はまだわからない……。
弱冠7歳の子どもの言う事など、大人は聞く耳を持たない。それがたとえ主君であろうと、お座なりに流されるか、生返事ばかりで真剣に対応されないだろう。しかし、これによって、国の大事を左右するような決断は、否が応でも一旦は秀頼の目を通さなければならなくなったのである。
これが今後の歴史を大きく変える事になる……かもしれない。
次回、「浪速のことも夢のまた夢」