脳内チャット回
「ああいうのは苦手なので・・・事前に教えて貰えると・・・」
「ごめんね。まあ、知らないみたいだったから体験してもらおうと思って」
悪びれた様子もなくゼニキンさんが笑いながらそう言った。
「ごめんねコハマル君。ゼニキンさんが目で訴えて来てたから言えなかったよー」
「まあ、初見時の体験は知らない状態じゃないと経験できないからな。良い経験だったんじゃないか」
ギャーテーさんとジャンクさんはそんな事を言っている。
「目で訴えたのは確かだが、楽しそうだったぞギャーテーちゃんや」
「落ちる時、二人が笑っているのは見えましたよ」
「それは、すまなかった」
「あ、あはは。笑ってたかな」
ジト目で見ると、ジャンクさんは顔を背け、ギャーテーさんは苦笑いを見せる。
「ここが、ダンジョンの中なんですよね」
あたりを見回しながら尋ねる。
見た感じ、さっき居た場所とあまり変わらない森の中、と言った感じだけど・・・
先ほどと違うのは露店などはなく、木々に囲まれた森の奥・・・魔女の町があった所のような感じがした。
「だね」
ちらりと上を見る。
眩しいので直ぐに下を向いた。
「太陽がありますけど」
さんさんと輝く太陽が木陰から見えた。
「そういうダンジョンだからね。まあ別の場所にワープしたと考えてもいいかもね」
「なるほど」
色々な種類があるとか言ってたし、そういう物なんだろうな。
「そろそろちゃんとダンジョン攻略始めるぞー。リーダー仕切ってくれよ」
まあ、ここで会話してても進まない。
そう思ってか、ゼニキンさんがギャーテーさんにそう催促する。
「わかりましたー。じゃあコハマル君。今から喋る時は脳内チャットでお願いね」
「脳内チャットですか?」
「喋りながら歩いていたら草食系モンスター逃げちゃうからね」
「なるほど」
周りに聞こえない様に脳内チャットで話すわけか。
「わかりました」
「《というか脳内チャットやった事ある?》」
口を噤んだままでギャーテーさんの声が聞こえてくる。
「《一度だけですが・・・二人には聞こえてるんですか?》」
「《聞こえてるよコハちゃん》」
「《パーティ中の脳内チャットは相手を指定しない限り、パーティ全員に聞こえる仕様だよ》」
ジャンクさんとゼニキンさんの声だ
「《なるほど。了解です》」
「《じゃあレッツゴー! おー!》」
ギャーテーさんが腕を振り上げたので、真似をする。
「《おー》」
「《おー》」
「《おー》」
他の二人は腕を上げないでチャットだけ返していた。
「《ジャンクさんとゼニキンさんも「おー!」って言って腕を振り上げましょうよ~》」
「《すまん、ちょっと恥ずかしさが勝ってしまった》」
「《はたから見たら、無言のまま顔を突き合わせて片手を上げてるんだぞ。そういうの恥ずかしいお年頃なのよ》」
想像してみる。
無言で見つめ合いながら腕を振り上げる四人組。
何かの儀式かな? まあ、他人が見てたら引きそうな行為ではあると思う。
「《仕方ない人たちですね~。とりあえず進んで行きますか》」
「《了解です》」
「《おけ》」
「《先頭は任せた》」
こうしてダンジョン探索が始まった。
ダンジョン一階層目。
ここからは脳内チャット会話の内容です。
コハ「そういえばですけど」
ギャ「んん? なにかあるコハマル君?」
コハ「ダンジョンの攻略ってモンスター狩るだけですか?」
ギャ「一応その後でボスに挑もうと思ってるよ」
コハ「ボスですか」
ギャ「五階ごとにボスモンスターが配置されているダンジョンだから四階まで行って、PPとか大丈夫そうだったらやってみようと思ってるよ」
コハ「なるほど・・・階層とかあるんですね」
ギャ「入口みたいなドアノブがどっかに刺さってるから、それを探すのもお願いね」
コハ「わかりました」
ギャ「地面以外にも木とか石とかに刺さってたりする場合もあるからそういう所も見てみて」
コハ「地面以外にもあると」
ゼニ「本当にダンジョン初心者やねぇ、コハちゃん」
コハ「始めに言った通りですよ。モンスターも倒したことなしです」
ゼニ「ちゃんと斬れる?」
コハ「あー・・・・・・どうですかね」
ギャ「え、そこ心配なの?」
ゼニ「ダイブゲームだと、RPGみたいに間接的に敵を倒すんじゃなくて、自分の手で倒すわけだから、そう言うので躊躇する人も居るのよ」
ギャ「あ~、そういう事」
ジャ「PVP大会の時は普通に斬り捨ててたから平気じゃないか?」
ゼニ「人型は平気でも動物系は無理とかもあるからな」
ギャ「コハマル君、そういう性癖持ちだったりする?」
コハ「性癖って・・・・・・多分大丈夫だと思います」
ゼニ「無抵抗なモンスターでも倒せる?」
コハ「抵抗がないのは・・・・・・ちょっとわかりませんね」
ゼニ「コハちゃん、あれだよ。今日の俺たちは狩人だよ。狩人の仕事は獲物を倒して糧を得る事。今日のコハちゃんの仕事は遠距離攻撃で弱ったモンスターへのトドメ。無慈悲に行こうぜ」
コハ「はあ、なるほど・・・・・・あのこのゲームって剥ぎ取りとかするゲームでしたっけ?」
ギャ「無い感じのゲームです」
ゼニ「モンスターを倒すとアイテム落ちる系だね」
ジャ「俺は剥ぎ取りがないゲームだから、このゲームやってるって所あるな」
コハ「剥ぎ取り有りのゲームとかあるんですね」
ジャ「前にやった事あるけど、リアルに寄り過ぎてて俺には合わなかったな」
コハ「なるほど」
ギャ「あ、モンスター発見~、牛系二匹」
ゼニ「了解。じゃあお二人さん、うちらで鈍らせるからトドメよろしくな」
コハ「わかりました」
ジャ「俺が右やるから左を頼む」
コハ「了解しました」
ジャ「無理そうなら俺が二匹やるよ、コハマル君」
コハ「ありがとうございます、ジャンクさん」
ゼニ「撃つ合図ギャーテーちゃん頼むわ」
ギャ「了解です。秒読みして『ゼロ』でお願いします」
ゼニ「把握」
ギャ「3・・・2・・・1・・・ゼロ!」
ダンジョン二階層目。
コハ「ゼニキンさんの遠距離攻撃って弓矢だったんですね」
ゼニ「そうだよ。なかなか特殊でしょ」
コハ「飛斬覚えていないとか?」
ゼニ「一応覚えているけどさ、飛斬覚えるまで弓で戦ってたのよ。それに慣れちゃってね。愛着も沸いてるし今でも使ってる訳。矢を回収すれば元手もいらないしね」
コハ「心刀使いなのにですか」
ゼニ「そーなるね」
コハ「なるほど」
ゼニ「いやーしかし、コハちゃん」
コハ「はい?」
ゼニ「普通に倒せてたね」
コハ「そうですね。なんか普通に斬れました」
ギャ「スイッチが入る系だよねコハマル君は」
コハ「そうなんですかね」
ジャ「『ゼロ』でスイッチが入った感じだったな。危うく二体ともコハマル君が倒す所だった」
ゼニ「そこは譲っても良かったんじゃな~い、ジャンクちゃんや」
ジャ「いや、なんというか、見栄とかあるだろ・・・先輩的な意味合いで」
ゼニ「まあ、ダンジョン攻略では先輩ではあるな」
コハ「ジャンクさんのフォローがあるとわかってたから動けたと思います」
ジャ「コハマル君・・・めっちゃ良い人。見栄とか言ってる自分が恥ずかしくなるわ」
ギャ「コハマル君、ジャンクさんを攻略する」
コハ「何言ってるんですか、もー」
ゼニ「人たらし的な所はありそうだな」
ギャ「同心組だと『恋愛マスター』とか呼ばれてますよ」
ゼニ「はは、なんじゃそら。面白そうだからモンスター来るまでそこんところ詳しく」
ギャ「いいですよ」
コハ「ちょ、ちょっとギャーテーさん、モンスター居ないんですか」
ギャ「今の所居ないね」
ジャ「コハマル君、首振り回してるけど、大丈夫か?」
ギャ「コハマル君が恋愛マスターと呼ばれるようになった経緯ですがね」
コハ「モンスター早く来てくれー」
そんなこんなで二階攻略は進んで行った。
ここまでお読みいただき有り難う御座います。
脳内チャット回です。
楽。かなり書くのが楽でした。
説明文書くのが苦手なので、セリフだけだと捗ります。
次回もこんな感じの回です。よろしくお願いします。




