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2-13 鳥取やマ〇バズどもが夢の跡

「そらよ」


 ここも空振りだった。


 俺はピーコを助手席に乗せてバンを運転し廃墟の街を行く。時折見かけるふらふらと歩くゾンビを余裕があればはねては7の看板が目印のコンビニを漁っていたがどうにもブツは見当たらない。


「うう、まだ慣れないなあ」


 彼女はゾンビがぶつかる瞬間思わず目をつぶって縮こまる。申しわけないと思いつつも俺はゾンビを撃破し続ける。例え雑魚でも連中を一匹でも多く倒せばそれだけ周囲が安全になるからだ。


 続いて市街地から少し離れた場所にあるところにあるコンビニに到着しガラス戸から漏れる明かりを頼りに物色はするが目当てのちくわカレーはない。しかし手ぶらで帰るのももったいないので食糧や飲料など適当に見繕ってリュックに入れた。


 7のつく看板のコンビニは最近まで鳥取にはなかったが近年数店進出してきたのだ。あのコーヒーチェーン店と並び多くの県民がそれを待ち望み店が出来た時は県民が歓喜の声を上げたものだ。


 そしてなにかしらの店が初出店するたびに島根県はてめぇのとこにはセ〇ンやロ〇トはねぇだろ、鳥取県民もてめぇもア〇メイトねぇだろと、そのたびにマウントを取り合って見下し見下されてきたのだ。


 その不毛な争いを政令指定都市がある広島や岡山はどっちも松〇もないくせに可愛いらしいなあと生暖かい目で見ていたのだろう。ちなみにア〇メイトはちょっと前に島根にようやく出来たらしい。


 さて、次はアオンの近くにあるとこに向かおう。ただあの周囲には大量のゾンビがいるので本音を言えば出来れば行きたくない。


 そもそも、コンビニのある場所自体大抵は人が集まる場所だ。ちなみに駅の内部にもその店はあるが絶対に避けるべきだろう。間違いなくゾンビだらけのはずだ。


 リスクのあるアオンの近くに向かう前にちくわカレーを見つけたかったが仕方ない。向こうからゾンビが流れていなければいいのだが。


 車を運転し市街地と郊外の境界当たりの場所に戻る。やはり市の中心部から少し離れるとゾンビがほとんどいないのでそこは楽だった。


「ゾンビいないねー」

「ああ。ゾンビハザードにおけるサバイバルでは実に快適な環境だ。東京はどうなってるんだろうな」


 平時には人口が多いと税収も増えなにかとメリットは多いが今はデメリットのほうがはるかに多い。人口最小県でよかったとしみじみと思ってしまう。


「……そういやここにマ〇バズがあったんだよな」


 俺はあのコーヒーの専門店があった跡地を眺め無性に寂しい気持ちになる。あの店は全世界ではそれなりに売り上げはあるが今は鳥取どころか日本のどこにもない。


「そういえばあったね。いつの間にか潰れてたけど」

「ドライブスルー型の店舗は鳥取が全国でも初出店だったんだがな。残念ながら鳥取県民は家ではたくさんコーヒーを飲むがあまり外では飲まないんだよ。いつか車を持ってドライブスルーで注文するのが夢だったのに……」


 それが俺は悔しくて仕方がなかった。どうしてだ、どうして鳥取なんかに初出店したんだ。


「もっと大都市なら事業的にも成功して日本に残れたかもしれないのに。俺はあの店のコーヒーが本当に飲みたかったんだ。どうして……どうして鳥取なんだよッ! こんな結末わかってただろッ! なんでこんな茨の道を選んだんだッ! だが俺はその勇気に敬意を表したいッ! 鳥取に夢をくれてありがとう、マ〇バズッ!」

「あ、うん、そうだね」


 俺は男泣きをしながらコーヒーに対する愛を語るがピーコは慣れた様子で受け流した。


「って、トオル君、左に曲がらないと!」

「おっと、そうだな」


 コンビニへの道中ピーコが慌てて指摘し、俺は道路のど真ん中で道交法をガン無視してUターンする。このまままっすぐ行けば大量のゾンビがいるアオンと市役所の真ん前に行ってしまうところだった。危ない、危ない。


 無駄に広いコンビニの駐車場に停車し俺はさっそくバットを装備して店内に向かう。そしていつものように索敵すると店内には二つの反応があった。だがその反応に俺は少しばかり顔をしかめる。


「ゾンビが一匹と、もう一人は人だな」

「え、誰かいるの? ゾンビと一緒に? 危ないよね?」


 ピーコは俺の言葉を聞いて不安そうな顔で言った。俺はその人間が敵対行動をとるかと思って警戒していたが彼女は全く違う事を心配していたのだろう。


「まあいい。とりあえずゾンビを倒してから考えるか。ちょっと入り口で待っててくれ」

「うん」


 たとえ害をなす人間だとしても俺なら対処出来るだろう。俺は店内に入り様子をうかがう。


 ゾンビの反応と人間の反応はすぐ近くにある。俺は息を殺して店の奥のパン売り場に向かった。


 早速棚の前をふらふらとメガネをかけた虚ろな目で歩く人間を発見する。服装からして女子高生のようだ。あれがゾンビなのだろう。


 俺はすぐに狙いを定めそいつに向かってバットを振り下ろした。


「へ? ひぇいッ!?」

「ッ!?」


 だがそのゾンビは俺に気付き咄嗟に右腕を頭の前に持ってきて防御反応をした。


 こいつはゾンビではない! 俺はすぐに力を抜く。だが間に合わなかった。


 ゴスン、と右腕を殴打する鈍い音がして相手は後ろに倒れる。そしてすぐそばには、


「うぱー」


 とぼけた顔のウーパールーパーに似た謎の生命体がいたのだった。ゾンビの反応はこいつだったらしい。


「と、トオル君、どうしたの? って」

「ぬおおお、腕が、腕がぁ……!」


 ピーコは腕を押さえて悶絶した少女と能天気な顔のウーパールーパーのゾンビを見て、そして最後に俺のやっちまった感満載の無表情な顔を見て全てを察したらしい。


「やっちまったの?」

「やっちまったんだ!」


 俺は凍り付いた笑顔で言った。だがこのままボーっとしても仕方がない。俺は倒れた少女にしゃがみこんで話しかける。


「えーと、大丈夫か」

「大丈夫なわけないでしょ! 絶対ヒビいってるよ!」

「だろうなあ。途中で加減したが頭蓋骨を粉砕する程度の力で振り下ろしたからな」


 少女は憤慨していたようだが俺はとりあえず生きてはいた事にほっと胸をなでおろす。いつかこの手で人を殺す日が来たとしてもこんなしょうもない理由で殺したくはなかった。


「で、勘違いの原因のゾンビのこいつは」

「うぱー?」


 ウーパールーパーのゾンビはサイズ的にはオオサンショウウオのようだ。これもがんめんちゃん同様抱き枕のようにデフォルメされたボディをしていてのほほんとした顔からは敵意は一切感じられない。例の如くゾンビ要素は一ミリもなかった。


「これもなんか可愛いね。ゾンビなのかな?」

「気をつけろよ」


 ピーコは愛くるしいその姿に興味津々なようでとてて、と近寄った。彼女はぬるぬるした身体を気にすることもなくべたべたと撫でている。


「うぱー」


 ウーパールーパーは鳴き声を上げると俺たちには一切関心を示さず逆方向に移動し、そのままのっそりと弁当のコーナーに行き生ゴミになったそれを漁っていた。無視をされたピーコはちょっぴり寂しそうな顔をしている。


「ああ、このへんに住んでるよくわからないなにかだよ。私たちはうーぱさんって呼んでるけど別に害はないしただのかわいいやつだから殺しちゃダメだからね。殺伐とした世界での貴重な癒しなんで。こちとら徹夜で寝てないんだよ」


 つまり彼女はものすごく疲れていたのでゾンビのような動きをしていただけのようだった。勘違いで殺されていたかもしれないと考えると彼女としてはたまったものではないだろう。


「ああ、それはわかった。けどすまん、いきなり襲い掛かって」

「はい、その、ごめんなさい」


 俺が謝罪しピーコも頭を下げる。殴られた女性は不満そうな顔をしてとりあえず立ち上がろうとしたが、


「痛ぇッ!?」


 動いた事でケガをした部位を刺激したのか、負傷した右腕を押さえ再び悶絶する。


「仕方ない、一旦拠点で治療をするか」


 それが最低限の責任だろう。今は病院には行けない。適切な治療をしなければ後遺症が残る可能性だってあるのだ。


「そうだね。あ、でもその前にちょっと待って」

「?」


 ピーコはおもむろにレジに向かい大きめのレジ袋を調達した。


「これをこうして、はい!」


 そして戻ってきた彼女はそれを負傷した少女の前に持ってきて、


「ちょっと動かしますね、痛いですけど……」

「あ、は、はい……」


 あっという間にレジ袋は三角巾に変わり腕を安定させる事に成功させる。気休めではあるが応急処置なら十分だろう。


「相変わらずのサバイバルの知識だな。それじゃあすぐに向かうか」


 コンビニに来たのはちくわカレーが目当てだったが今はそれどころではないだろう。俺はそう言ってモンキに戻るのだった。

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