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1-11 狂う人間と、平常運転の東テレ

『ゾンビが走ってる歩いているだけじゃないのか』

『拡散希望、夜中はゾンビが狂暴化、注意してください』


 気を取り直してつぶやきを見ると、ピーコが言っていた事と同じような事がつぶやかれている。やはり彼女の言う事を聞いていて正解だったようだ。


 つぶやきは良くも悪くも規制というものがない。最低限のルールはもちろんあるがゾンビである事を前提に話しているのでそこは助かるな、と思った。


『生中継で食われてる』


 そんなコメントにリンクが貼られており俺はそれを見てみる事にする。


『やっべ、まじやっべ!』


 動画はそんな若い男の声から始まった。画面が上下左右にぶれて見づらいがどうやら走りながらスマホで撮影しているらしい。場所はわからないが鳥取ではまず見られない高層ビル群があるあたり都会のようだ。


 道路はあちこちで車が乗り捨てられ事故を起こしたのだろうか、黒煙を挙げながら燃え盛っており動画の奥のほうでも煙が立ち込め至る所で建物の窓ガラスが割られている。ゾンビは集団で逃げまどう人に笑いながら群がってその肉を食らおうとしているようだ。


 しかし何故ゾンビは笑顔をしているんだ? ゾンビが病気であるのならそれが原因で笑みを浮かべるくらいの幸せな感情を抱いているのか、それともただ単に筋肉が弛緩してこんなふうに見えているのだろうか。いずれにしても俺は専門家でないのでわからない。


『えー、ゾンビが人喰ってます! まじパネェ! ウホッ! この動画いくらで売れるかな?』


 動画はかなり凄惨な映像だが投稿者の語彙力の無さに俺は少しだけ失笑してしまう。どうやら彼は事態を深刻にとらえていないようだ。事実、そうでなければ死の危険を冒してゾンビの群れのど真ん中で動画など撮影しない。彼にジャーナリズムがあれば別だが後半のセリフで本音が駄々洩れだった。


(……しかしこれは。連中は別に人の肉を食べているわけじゃないのか?)


 俺はその映像に違和感を覚えた。ゾンビと言えば人の肉を食う存在だ。が、ゾンビ映画を見て常々思うのだが奴らは脳味噌も、内臓も、骨の髄に至るまで、農業高校の学生並みに徹底して残さず食べている。しかしゾンビになるはずの人間は跡形も残っていないはずなのに映画では何故だかゾンビは増えている。


 だがこの動画を見るとゾンビは人にかぶりついてはいるが貪ってはいないように見える。つまり食べていない、という事だ。考えてみれば今まで出会ったゾンビも負傷はしていても肉は食い千切られていなかった気がする。噛みついて感染させる事だけが目的なのだろうか。そもそも連中にそんな意志があるかは知らんが。


 ただこの動きの激しい乱れた動画を見ただけでは人が襲われている状況をはっきりと確認出来ず断言出来ない。しかしこれはかなり重要な事なのでまた今度検証してみよう。


『ウヒョー! 祭りだ! バズるなこれ、って、モルゲガボボガアァッ!?』


 そして動画の最後では男が歓喜の声を上げたあと文字に起こしにくい断末魔の声を上げ、画面が大きく揺れると、カメラが回転しながら空を映したあとスマホが地面に叩きつけられる音がする。


 地面に倒れ画面の向きが90度変化した映像には無数のゾンビの手が男の足を掴む光景が映し出され、彼は全身をバタバタと動かして悪あがきをするがそれもすぐに動かなくなり、映像はそのまま何の変化もなく終わってしまったのだった。


 よく見ると動画の再生回数は1万回を超えている。彼のお望みどおり今の世界の人口の割にはまあまあバズったらしい。よかったな。貴重な情報提供をありがとう。さて、引き続きコメントを確認しよう。


『なんかゲームに出てきそうな化け物がいるんだけど!?』

『こっちは半魚人だぞ ゾンビだけじゃないのか!? 本当に異世界から誰か侵略してきたのか!?』

『お前ら何言ってんだ ただのタチの悪いドッキリだろ 俺はこんなの認めない』

『現実見ろカス 世界はもう終わったんだよ』


 そんなつぶやきに画像が添付されている。見てみると……前者は頭が食虫植物のようになった人間で、もう一つは遠くから撮影されていたため画像が乱れていたが半魚人のようだった。


「こんなのもいるんだね……」

「俺の隣にもいるがな。お前も分類するならコボルトとかじゃないのか」


 不安そうにニュースを見るピーコもやはりこうした手合いなのだろうか。


『拡散希望ゾンビや怪物の中には意志疎通が出来る人間もいます殺さないでください』

『拡散希望ゾンビや怪物は意思疎通出来るという人がいますがそれは左翼のデマです信じたら死にます』

『ゾンビは人間です、殺すのは殺人です、本当にあなた達は狂っています』

『こういうエセ人道者がいるから犠牲者が出るんだよボケ』


 生き残った人間も人間で不毛な争いを繰り広げている。しばらくこれが続いたので適当に流して読む。


「ゾンビ……やっぱりあの人たち意識があるのかな……」

「発症していない人は感染したが自我を保っているとも解釈出来る。怪物は……言うまでもないよな」


 彼女は特にこの辺りを真剣に見ている。自分の事に関わる事なのだから当然だろう。


『化け物が殺されてたけど、なんかゾンビより怖いんだけど』


 そのつぶやきにはリンクが貼られ、血なまぐさい動画が流れるかもしれないと少し躊躇いつつも見ておく必要があると思い俺はクリックした。


『そっちだ、そっちにいる!』

『違う、俺は人間だ! 殺さないでください、お願いします! 何でもしますから!』

『殺せ、殺せッ! 感染させるなッ!』


 画像はスマホで撮影され、画面はせわしなく動きブレブレだったが、全身がトカゲのような緑色の皮膚の人間が暴徒に囲まれ鉄パイプやバットで殴られている。暴徒は全員目が血走っており怒声を挙げて一心不乱に狂気を振り下ろしていた。


 そして動画の最後……両手足があらぬ方向に曲がり、血だまりに沈んで動かなくなったトカゲ人間が映っていた。


 さらに調べてみると各地で同じような事が起こっていたらしい。だがこれ以上は俺もピーコも見たくなかったので飛ばして読んだ。


「トオル君。この人はゾンビだったのかな……」

「……さあな」


 俺は震えるピーコの肩を抱き寄せ、どうにかして落ち着かせようとする。


 あのトカゲ人間がゾンビかどうか。そんな事は重要ではない。どのような事実があろうとそれらは異質で自分たちに害をなす存在であるとこの暴徒たちは認識し、正しい事をしていると信じてこのような行動をしているのだ。


 不意に、俺は同じようにリンチされ変わり果てた姿となった彼女の姿を想像してしまい吐きそうになった。今のはあくまでも想像だがそうなる可能性は十分にある。


 自分たちが正義と信じ頭に血が上った連中には何を言っても無駄だろう。その時はピーコを連れて逃げるかもしくは戦うしかない。場合によっては相手を殺す必要もあるだろう。


「安心しろ、お前は俺が護る」

「……うん」


 俺がそう言うと、少し安心したようでこちらにさらに体を寄せてくる。俺は黙ってそれを受け入れた。


 だが心優しい彼女は知らない。俺が、例えこの手を人の血で染めても彼女を護ろうと考えている事を。


 あとで耳としっぽを隠すため2階の服屋で帽子とコートを見繕うことにしよう。おそらく彼女にとってはゾンビだけでなく異形の存在を敵視する普通の人間ですら危険な存在となるだろうから。


『外国人が集団であちこちの店を襲ってるらしい、気を付けてください』

『中国の研究所がゾンビハザードの原因で、あの爆発はウィルスを除染するための爆弾だった』

『このバイオハザードは政府が増えすぎた人類を減らすために行ったんだよ!』

『な、なんだってー!』

『空気嫁』


 こんな感じの事も書かれている。多分デマだ、見る価値もないので適当に流し読みする。しかし社会が混乱し日本は無政府状態になっている事は念頭に置いたほうがいいだろう。


『受験生やら就職戦争やらの勝者爆死 真面目に生きてきたのに残念だったね~税金払ってないニートは勝ち組だぞ』

『不謹慎ですよ 自分は受験に備えて勉強します 今なら倍率が下がってチャンスですから』

『ふざけんじゃねぇクソが こんなの馬鹿げてる 俺は仕事に行ってくる』

『社畜の鑑だな』

『今なら店で物取りほうだだぜ 俺も近くのコンビニ行って100万くらいゲットしたぞ笑いが止まんねぇですはい』

『アホか金なんか役に立たないぞ』

『もう疲れました死にます』


 このあたりのコメントは興味がないので適当に流している。いろんな人間がいてこの現実に適応したものと受け入れられないもので別れているようだ。


「真面目に生きていても死ぬときは死ぬんだけどな。連中はそれを知らない。いや、知らないふりをしてるんだ」

「……うん」


 お互いその現実を知っている人間として黙り込んでしまう。これ以上コメントを見たくないが知らなければならないのだ。生き延びるのに役立つ社会の情勢を。


『政府は国会の地下シェルターに、一部の上級国民だけを選び避難しているらしい』

『俺たちには生きる権利すら与えないのかクズどもが』

『皆さん、今こそ立ち上がる時です、新たな時代は私たちが創りましょう!』


 やはりこれもどうでもいい情報だが、さらに読み進めていくとそれを信じた人間が徒党を組み暴徒として国会を襲撃したようだ。こちらも動画を配信していたので折角なので見ておく。


『殺せ! 殺せ! 殺せ! この豚どもがッ!!』

『ぶっ殺してやるッ!!』


 動画では暴徒がまるでゾンビのように国会になだれ込み、その圧倒的な物量で警備の人間をなぎ倒していく。警備の人間が放った弾丸は肉の壁に阻まれ、言論の府であるその場所は為すすべもなく蹂躙され、後半では国会議事堂の頂点の国旗の支柱の下に誰かが立ち、群衆が大歓声を上げたところで俺はそれを見るのを止めた。


 しかし先ほどニュースサイトで国会が暴徒に襲われ臨時政府が壊滅したと書かれていたが、これが事実だとすると襲ったのはゾンビではなく記事通り本当に暴徒だったようだ。


 つまり自分たちを助けてくれる人間をデマに踊らされた暴徒は自らの手で殺めたのだ。それは未来を断つ事にほかならない。まったく少ない生き残りで何をやっているのだろう。あまりにも愚かで馬鹿馬鹿しいなと俺は失笑する。


 日を追うごとに情報量は減っていく。人はゾンビの餌食となり、あるいは生存者に殺されて……生き残った人間もSNSをする余裕もなくなっていったのだろう。


 そして新しくなるにつれ大した情報は無くなっていった。5日目あたりから俺は面倒くさくなったので読むのを止めた。だが最後に、


『東テレが普通の再放送に切り替わった草』


 という書き込みを見て俺は何故だか安心した。わずかではあるが日常が戻ったのだ。俺は取りあえず、現状で出来る考察をしピーコに考えを述べた。

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