後日談① 少年の受難。
(ジークハルト視点)
夏休み中、何回かアメリアと王都で2人で出かけたりして、幸せな日々を過ごしていた。時間をかけて誠意を見せていけば、もう一度アメリアの家族からの信頼も得られると思っていた。
まぁ、それ自体は間違いでは無いと今も思っているけど、まさかこんなにも他に伏兵がいるとは思っていなかった。
* * * * *
秋学期が始まり、女子寮の前でリアを待っていると、俺と同様に誰かを待っている一学年の男子生徒2人がいて微笑ましく見ていた。
女子寮の方から人の来る気配がしたのでそちらを見るとリアだった。思わず、口許が綻んで声をかける。
「り「「おはようございます、アメリア様っ!!」」
は?
アメリア待ちだったのか!?
2人がリアに向かって駆け寄っていく。
「おはよう2人とも。久しぶりだね。」
「お久しぶりです。荷物持ちますよ。」
「いや、それはいいってば。周りから見たら嫌な女になってしまうから!」
「りあ…?そいつらは?」
「ジーク様!おはようございます。クラスメイトのキース・ルルド様とライナス様です。」
「初めまして。マグノリア先輩、私はキース・ルルドと申します。 ファンクラブ会員で、朝と帰りのアメリア様の護衛をしています。」
「ファンクラブ? ごえい?」
リアを見ると、サッと視線を逸らす。
「・・・リア?」
「ジーク様、深くは突っ込まないでください。 私も、ファンクラブ(笑)と思っていますが、周りの人達のノリと勢いで出来てしまったのです。 やめて欲しいとお願いしたのですが、月末のサロンに来てくれる人たちのための情報収集及び発信のネットワーク的なものと結びつけた鬼畜のせいで入会者が増えてしまって、やめるにやめられず。 まあ、キースとライナスは過保護なクラスメイトです。」
「そんな事ありませんよ? 皆さんアメリア様を慕ってますよ?「うん、それはキースとライナスだけだと思うんだ。」」
その後もキースとライナスというやつが一緒について来る。 おい、なんでだ。
「これからは、僕が寮まで毎日送り迎えするから大丈夫だよ?」
「え? あ、大丈夫ですよ。 いついなくなるかわからない人のために、システム変えるわけにはいきませんから。」
思わずピシリ、と自分が固まるのが分かる。一応、微笑んで聞く。
「どういう意味かな?」
「いや、先輩は忙しいですし、毎日は無理なんじゃないかと、純粋に思っただけです。」
「ーー。」
本当に他意なく純粋に言われて、また一瞬固まる。
「本当に毎日出来ますか? 2回4回1回これが何の数字かわかりますか?」
「「?」」
俺もリアも何を言ってるんだ?と首を傾ける。
メガネがため息をついて、言葉を紡ぐ。
「水、物、人です。「え、いみわからない」」
アメリアの食い気味の突っ込みに、穏やかに微笑んでライナスというやつがつづける。
「アメリア様を気に食わない女子からの水攻め未遂2回、同様に物をぶつけようとする傷害未遂4回、片思い拗らせ系からの刃傷沙汰1回、です。 で、先輩はそんな事も知らずにメアリーとかいう人を追いかけていたわけですが。
それはさて置き、本当に毎日欠かさずにできますか? イベントがあって生徒会の仕事が忙しいときも? 体調不良は? 僕は1日も欠かさずに本当にできるかどうかを聞いています。」
「え、私にもそんな恋愛展開変化の種があったなんて…。 え、まって、私って女子から嫌われてたの?」
リアが半泣きになっている。
「いえいえ、反感をもっている女子はごく一部ですよ? しかもスチュアート様と仲が良いことに対する嫉妬ですから。」
「まさかのアシュレイのせいとは! 知らなかった。全く気づかなかった。 キース、ライナスありがとう。」
「いえいえ。」
「当然ですから。」
「…とりあえず、行くか?」
立ち止まってるのもなんだしと思って、リアに右腕を差し出すと小さくて綺麗な手を添えてくる。結局4人で通うことになった。…まあ、時間をかけて行動で示して信頼してもらうしかないな。
アメリアの教室に近づくと、プラチナブロンドのやたら綺麗な男子生徒が歩いてきた。
「アシュレイ!?背が伸びたね。」
「おはよう、リア。へえ…婚約者奪還かな?」
そう言って天使のようなキラキラとした微笑みをみせる。成程こいつがアシュレイか、と思っていると自然な動きでリアの頭を撫でる。婚約者の目の前でいい度胸「でも、気をつけるんだよ?バカと浮気癖は死ぬまで治らないって言うからね。」
そう言ってクスリ、と笑う。おい本当にいい度胸だな。
「大丈夫だ。 もう二度とアメリア以外見たりしない。」
アシュレイが目が全く笑っていないのに、くすくす、と天使のように笑う。
「先輩は面白いですね。 リア、僕はこんなに軽い言葉を聞いたの初めてだよ。 まだ嵐の中の枯葉一枚の方が重そうだね。」
こいつ!!
「ジーク様!あの、アシュレイは毒舌だけど本当は優しくてすごくいい子なの。」
優しくてすごくいい子??
…リア、本気で言ってるのか?
「アシュレイも、私のこと思って言ってくれてるのはすごく嬉しいけど、これからも長い付き合いになるし、ジーク様と仲良くして欲しいな。」
「僕としては、こんな節操のない犬のような人間と親しくなんてしたくないけど、可愛い「友達」のお願いだからね。…しょうがない。」
そう言って、アシュレイがリアに向けて女神のように美しく笑った。…コイツはこんな顔もできるのか、と思わず凝視してしまう。しかし、その顔を向けているのがリアなのが気に食わない。リアを自分の方へ引き寄せる。
リアは「友達…。」と小さく呟いて感無量といった感じだ。
アシュレイはニコリと嗤い、手を差し出す。
「〝本当は優しくてすごくいい子〟なんで末永く宜しくお願いしますね、先輩?」
「あ、ああ。」
リアに期待のこもった目で見られれば、仲良くなんてしたくないけど、手を差し出さないわけにはいかない。しかし
「ちょっと待て。末永く?」
「僕のことはアシュレイと呼んでくださって結構です。 僕は、駄犬先輩と呼ばせていただきますね。」
「あ゛!?」
思わず、腹の底から低い小さな声がでた。リアの細い肩がびくり、と跳ねる。…しまった。
「ふふ、やだなぁ。 冗談ですよ、ジーク先輩。 リア、怖かったね、教室に入ろう。 ではまた。」
「あ、あしゅれい!! じゃぁ、ジーク様送って下さりありがとうございました。」
「あ、ああ。」
ぺこり、と頭を下げてリアが教室に入って行く。
おい、本当にあんなヤツと宜しくやってかなくてはいけないのか?そして、リア。全然優しくていい子じゃないぞ?お前の基準はどうなってるんだ?
自分の教室の席に着くと、思わず深いため息がでる。
「どうしたの?ジーク。 何か悩んでるの?」
甘い声が後ろからかけられ、思わず眉を顰める。この声はメアリーか。ちょうどいい機会だと考えて振り向く。不自然じゃない程度に教室内に届く声で切り返す。
「スティントン嬢。 夏休み前に、これからはクラスメイトとして最低限しか話さないと伝えた筈だ。 僕に話しかけないで欲しい。 僕は婚約者のアメリアを大切にしたいんだ。」
「そんなっ…ひどいわ…。 心配しただけなのに。」
目に涙を溜めて胸の前で手を握っている。他所からみたら完全に俺は最低な男なんだろうな。
「もう、呼び捨てにしないで欲しい。 ただのクラスメイト以下の関係なのだから。」
ポロポロと涙を流されるけど、本当は強かな彼女の性格を知ってしまった今となっては嫌悪感すら湧く。周囲から屑だと思われようが、もうアメリアに対して誤解を招くようなことはしたくない。メアリーに冷たい視線を送る。
「じゃあ。」
離れるために席を立つと、教室の端でニヤニヤしているヴィンスが丁度目に入ったので、そちらに避難する。メアリーが泣きながら教室を出ていった気配がし、興味津々で見ていたクラスメイト達も何事も無かったかのように動き始めた。
「新学期早々、随分なスキャンダルだな?」
ヴィンスがニヤニヤしながら言ってくるので軽く蹴飛ばす。
「まあな。 随分な悪役っぷりだったろ?」
肩を竦めて言うと、ヴィンスがハ、と鼻で笑う。
「普通だったらそうなんだろうけど、残念ながら相手がメアリーさんだからな。 女子は完全に「いい気味」「ざまあ」「ナニコレ飯うま」「朝からいいもん見たわー笑」状態だったし、男子は「お疲れ」「今更か」「ち、気付いちまったか」状態だったな。」
「男子の方が酷くないか?」
「酷いのはお前だ。アメリアはかなり傷ついたと思うぞ。 俺もお前のことは何度か殴りたかったしな。 まあ、そういう訳で、これから信頼回復頑張れよ。 一学年からは相当恨まれてるから。」
ぽんぽんと肩を叩かれる。
「まあ、それは今日既にすげー実感した。」
「ちなみに、俺の妹は去勢してやりたいと言ってたぞ。」
「…。」
授業後、生徒会に顔を出すとメアリーが居た。もちろん他のメンバーもいたけれど。
「ジーク、女性を泣かすとは最低だな。」
会計でオレンジの髪に緑の瞳のイーサンが真っ先に非難してくる。
メアリーが俺を見ると、ビクリと震えて殿下に縋り付く。ため息が出そうになるのを堪えて、なんてことの無いように答える。
「自分の婚約者を大事にしただけだ。」
「それはいいことだな?」
銀髪に紫の瞳のエドワードが片眉をあげて応えてくれた。
「ジーク、お前がいるとメアリーが悲しむ。だから、生徒会には顔を出さないでほしい。」
殿下がメアリーを宥めながら言う。
は?本気で言っているのか?エドワードも少し目を見開いている。
「生徒会から外れるということでしょうか?」
「そうしてもらった方がいいかな。」
俺としてもこのメンバーとのつながりはあった方がよかったけど、そこまで重要ではないしな。
「分かりました。では、お世話になりました。」
微笑んで一礼して生徒会室を去る。
頭の中で今後について考える。すぐに広がるだろうしリアに報告しなきゃな、と考えて・・・小バカにした顔のアシュレイが頭をよぎる。あいつの前で言うのはなんか屈辱的だ。なんなんだあいつは。
リアの教室に着くとアシュレイと2人でいて、もやもやとした感情が胸に湧く。
「ジーク様?お早かったですね。」
「・・ああ。今日クラスでメアリーに話しかけてこないで欲しい、と言ったら・・色々あって生徒会を辞めることになった。」
「――――え?」
アシュレイがくすり、と笑う。
「へえ、それはそれは。 リアに泣きつきにでも来たんですか?」
「まさか。 別に俺の家にとっては、生徒会のメンバーとどうしても仲良くしなくてはいけないわけでは無かったしな。」
「そうなんですか?」
リアが目をぱちぱちとさせるのが可愛くて頬を撫ぜる。
「ああ。 そこそこマグノリア家は力を持ってるからな。 流石に第一王子とは喧嘩したくないけど。」
「そんなに!?」
アシュレイが溜息をつく。
「そこの罷免先輩のお家は『武の名門』なんて呼ばれているだろう? 騎士団長を多く輩出してきたからだけじゃない。 領地の兵士たちが馬鹿みたいに強いんだ。 質は王都の騎士団よりも高いし、兵士の数は国で制限されているけど、武者修行の人間も多いから潜在的な軍事力は下手したら騎士団並みなんだよ。」
アシュレイが説明した後、ふわりと笑う。
「まあ、脳筋が多い領地なんだ。」
「お前は俺の事を落とさないと気が済まないのか。」
「気が済まないと思えるほど先輩に興味が無いので安心してください。」
天使のような微笑みが逆に神経を逆撫でてくる。
「そっか。 だとしたら殿下って相当・・」
「馬鹿なんだろうね。」
「恋は盲目という事か。 恐ろしいね、アシュレイ。」
「そこら辺はつい最近まで馬鹿2号だった先輩に聞いてみたら?」
「もう! アシュレイはちょっと毒舌すぎるよ。 私は何言われてもあんま何とも思わないけど、普通の人は怒っちゃうよ?」
「・・・善処するよ。」
「お前はリアの言う事なら聞くのな?」
「可愛い友達だからね。」
「・・・そういえば、朝、末永くとか言ってたけど、どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ?」
アシュレイが嬉しそうに微笑む。嫌な予感しかしない。




