ハッピーエンドは最後にキスで締めるのさ。【B】
「リア?・・返事が欲しい。好きだ。こんな俺だけど、婚約者でいてくれるだろうか?」
しびれそうなほど熱を孕んだ青い瞳が私だけを見つめる。
嬉しい…筈なのに、頭にアシュレイが思い浮かぶ。
え、あれ? ――なんでなんだろう。
確かにドキドキはする。だけど、馬車の中でアシュレイの翠の瞳に見られた時の方が、愛しくて、守ってあげたいと思った。
何であんなにアシュレイに踏み込みたかったの?前は頼ってくれるなら踏み込んでもいいと思ってただけだったのに。
ルドは大切な友達…エリーも…あしゅれいは?
商人の人達の中に入っていけたのも、あそこで堂々としていられたのもアシュレイがいてくれたから。アシュレイといると安心する。私が私のままでいられる。一緒に未来描きたいと思う。わたし・・わたしがずっとそばにいたいのは。傍にいて欲しいのは。
涙が溢れる。
「――ぁ、ご、ごめ…なさっ…。」
私、いつからか、ただ取り戻す事に必死になってた?
好きじゃなくなってた?
いつも、アシュレイからバカバカ言われてたけど、本当に私は馬鹿だ。こんなタイミングになるまで気がつけないだなんて・・。アシュレイに会いたい。アシュレイと一緒にいたい。
「受け取れません。」
「そうか…。」
ジーク様が悲痛そうな顔をする。
「全て…俺が悪かったから、気にしないでくれ。」
ふるふると首を振る事しか出来ない。
「アメリア・・婚約は・・・白紙に…?」
「・・・はい。ごめんなさい。」
苦しい。大好きだった人。本当にごめんなさい。
「・・・そうか、両親に伝えておく。」
「私も…。」
ジーク様はそのまま帰っていった。
私も家族に伝えて、婚約は白紙になった。
***************
どうしてもアシュレイに会いたくなって、もうすぐ夏休みも終わるのに、またアシュレイの領地に来てしまった。
「りあ…?どうしたの?」
「アシュレイ!!」
思わず駆け寄ってしまう。姿が見れただけで嬉しくて泣きそうだ。
近づくと視点が前と違うことに気づく。前は私よりも少し上くらいだったのに。
「身長伸びた?声も枯れてる?」
「エスパルマから戻って来てから毎日ミシミシ骨が軋んでる。声はここ数日。」
「声変わり!もう、ボーイ・ソプラノは聞けないのかぁ。」
ちょっとだけガッカリしてしまう。成長期到来か。可愛いアシュレイも見納めだなぁ。会いに来て本当に良かった。思わず笑顔になる。
「…それで?今度はどうしたの?またどこかに行くの?」
アシュレイが小馬鹿にしたように言ってくる。
ぐっ。ちょっと意地悪な顔にキュンときてる自分に恋の病の恐ろしさを感じてしまう。
「…違う。その、…アシュレイに会いたくなっちゃって。」
急に恥ずかしくなって、足元を見ながら伝える。顔が熱くなってきたのが分かる。不安になって見あげると、無表情のアシュレイがいた。あ、ヤバイ。これやっちゃったかも…ドン引きされた?不安で泣きそうになる。
アシュレイが溜息をつく。
「・・何かあったの?」
「何も無いけど…。」
アシュレイが真顔だ。怖い。美形の真顔は怖い。
「リア?その残念な頭では分からないんだろうけど、さっきの台詞といい、表情といい、勘違いされてもしょうがないからね?」
目が全く笑って無い笑顔でにこりと微笑まれる。
「ち、違うの!アシュレイにしか言わないもの!」
アシュレイが一瞬固まり、ため息をつきながら腕を組む。
「ペットに懐かれるのは、飼主としては本望だけど?本当に捨てても捨てても戻ってくるバカは…厄介だ。」
「バカは愛しいんじゃなかったの?」
縋るように見てしまう。アシュレイが私を食い入るように見つめたあと、切なそうに美しい顔を歪める。
席を立って私の隣にとす、と座る。長い脚を組んでその脚の上に肘をついて首を傾ける。
「リアは、僕をどうしたいわけ?」
美少年の挑戦的な視線にキュンキュンする。
「可愛がって欲しい。」
するっと思いっきり欲望がそのまま口から出た。しまった、どうして私はこう迂闊なんだ!
「や、ちがう。あ、あのね!」
「ふうん?違うんだ。」
意地悪そうな顔をしたアシュレイが私の視界いっぱいになるくらい、その端整な顔を近づけて、ゆっくりと私の顔の横の髪の毛をその長い指でそっと優しく耳にかける。
エメラルドの瞳が嗜虐的に細まり、そのまま顎をクイっとされる。ドキドキとして固まっていると、
とん、とアシュレイがおでことおでこをくっつけて苦しそうに目を瞑る。
「りあ…お願いだからちゃんと拒否するか避けて…。」
「?」
熱を孕んだエメラルドの双眸が私を射抜く。ずくん、と体の芯が熱くなるような気がした。
「脅かそうと思ったけど、こんなにも無防備だと不安になる。リア、どれだけ他人を煽れば気がすむの?」
「あおる?」
ドキドキしすぎて思考が空転する。
「僕も男なんだよ?」
「わかってるよ?」
「分かってない。」
アシュレイが明らかに不愉快そうな顔をして、体を離す。
「それで?可愛がってほしくて来たんだっけ?頭でも撫でればいいのかな?」
にっこり、と微笑まれる。
は!そうか、先に欲望が口から出てしまったからすれ違ってるんだ!!
「違うの!あのね、私婚約白紙にしたの。」
「…へえ。」
「ジークさま…マグノリア様からもう一度やり直したいって言ってもらえたけど、その時に分かったの。私取り戻す事に必死になってた。いつからか好きじゃ無くなってた。
・・私アシュレイが好き。異性として好き。だから、その…さっきのも嬉しかった。ドキドキして、動けなかった。」
どうしよう!勢いで思ってること全部言ってしまった。
恐る恐るアシュレイの顔を見ると、見たことないくらい真剣な顔をしていた。新たな格好良さに胸がキュンとする。
「僕は…僕もリアが好きだよ。「友達」じゃなくね。だけど、僕の想いはすごく重いよ?」
アシュレイが胸を抑えながら頬を染めて悲痛そうな顔をする。完璧な美少年の悩ましげな姿にクラクラして、心が歓喜するのを止められない。
「それって、それって両想い…って事だよね?嬉しいよ?そんなに想ってもらえたら。」
「リアは分かってないんだ。僕は君を閉じ込めて自分だけのものにしたいくらい好きだ。エスパルマから帰って来た時、どんな気持ちで君を帰したと思ってるの?君がまたこうして戻って来てしまって僕は自分の衝動を抑えるのに必死なんだ。」
まさかのヤンデレ発言。これで、美少年・天使ショタ・腹黒・ドエス・毒舌・チートの塊・隣国の王弟・ヤンデレとアシュレイは完全搭載だ。…ショタはもう少しで消えてしまうけど、もう何が増えたって驚きはしない。
思わず、くす、と笑ってしまう。
それに、そこまで思ってもらえたら女冥利に尽きる気がする。
「私だって、ジーク様に浮気されて…だけど、そんなに好きでいてくれるなら安心だよ。流石に監禁は嫌だけど…アシュレイは本当に嫌がるような事はしないから大丈夫だよ。アシュレイはなんだかんだ優しいから。」
アシュレイの陽射しを受けて輝く新緑のようなエメラルドの瞳が、穴があきそうなくらい私を見つめる。ゆっくりと手を伸ばされてそっと抱きしめられる。
「いいの?もう絶対に離してあげられないよ?」
まだ素直になれないアシュレイが可愛い。
「うん、いいよ。アシュレイのそばにいたいの。」
アシュレイの腕に力が入って痛いくらいに抱きしめられる。私も抱きしめ返すと、アシュレイの体が少しビクリと強張る。さするように手を動かすとアシュレイが熱い溜息を吐き、顔を私の頭にすり寄せる。
「バカだ。本当にリアはバカだ。…もう絶対に離してあげないからね?」
「うん。…ふふ。2人で一緒に幸せになろうね。」
アシュレイがまたおでことおでこをこつん、とくっつける。熱に浮かされたような顔がすごく色っぽい。
「今、幸せすぎて怖いくらいだよ。リア…もう一度好きって言ってくれる?」
愛しくて胸がぎゅっとなる。
「大好きだよ、アシュレイ。」
アシュレイが魂まで蕩けそうな甘美な笑みをこぼす。
キラキラしすぎて息ができない。
「リア、アメリア。大好きだ。……僕の愛しい人。」
最後だけ消え入りそうなくらいの声でぽつりと言った後、ちゅ、とおでこにキスをされる。
込みあがってくる想いに涙が浮かぶ。幸せすぎて泣きたい。伝わる体温が愛しくてアシュレイにぎゅっと抱きつく。どうしよう、愛しくて愛しくてしょうがない。
しばらく無言で抱きしめあってると、おもむろにアシュレイが隣に座っている私の腰を持ち上げて自分の膝の上に横向き抱き上げる。どうしたの?と思ってアシュレイを見ると、くすり、と笑う。
「僕に可愛がって欲しくてわざわざこんな所まで来たんでしょ?ご希望には応えてあげないとね。」
う、そう言われると恥ずかしいけど嬉しい。ちょっと小ばかにされてるのにキュンとしてしまう。どうしよう、このままだと私Mにされてしまうかもしれない。
アシュレイが愛しそうに頭を撫でてくれる。出会って最初の頃はすごくぎこちなかったのに、なんでもそつなくこなすアシュレイは、今となっては撫でるのもすごく上手だ。気持ちよくなって、目を閉じると、ちゅ、とこめかみにやわらかい感触があって目を開ける。アシュレイがとても嬉しそうに微笑んでいた。
アシュレイがゆっくりと瞳を閉じて真剣な表情になる。
「リア…僕はリアがくれる信頼の全てに応える。リアが僕の事を優しい人間だと言うのなら、優しい人間である。リアが悲しむようなことは絶対しない。だから・・僕とずっと一緒にいて欲しい。」
「うん…っ。うん、ずっと一緒にいる。」
嬉しくて、幸せ過ぎて、感情が溢れて涙が止まらない。アシュレイがくすりと笑う。
「リア、『友達として』じゃないからね?」
「っ…わかってる。」
長い綺麗な指で優しく涙を拭いてくれる。
「どうして泣くの?」
「そういうアシュレイだって目が潤んでるよ。」
「そうだね、感情が溢れると涙に変わるなんて知らなかった。僕に涙腺があることも。」
同じ気持ちでいてくれることが嬉しくて、すごく愛しくなってアシュレイにギュッと抱き着く。
「リア。」
優しく名前を呼ばれて顔を上げると、アシュレイが幸せそうに微笑み、そっと頭に手を添えられる。ゆっくりとその綺麗な顔が迫ってお互いの唇の柔らかさを確認するようにそっとキスをした。
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お読みいただき感謝しかありません!
本当にありがとうございます。
読書感想文以外で長い文章なんて初めて書いて、人に読んでもらえて沢山幸せ感じました。
本当に心からお礼申し上げます。




