髪飾り(恋愛関係において自分が後生大事にしていた約束が相手にとっては路傍の石くらいの事がある。)
※すみません、タイトルかえました。
ブックマークありがとうございます。
ずっとエリーがそわそわしていたので、馬車に乗り込んだ後、先ほどのジークハルト様との会話の内容をかいつまんで話した。
「このリボンはね、婚約してから初めての誕生日の時にジーク様がくれたの。ジーク様は、女の子のご兄弟がいないから、何を買えばいいのかわからなかった、とか、選ぶとき恥ずかしかった、とか色々話してくれて」
頬を染めて、南国の海を切り取ったかのような青色の瞳を忙しなく動かしながら必死に弁明をするジーク様はとても可愛くて、普段とのギャップに幼かった私はクスクス笑っていた。
「それで、自分の瞳の色と同じだったからって、このリボンをくれたの。もっと大きくなってリボンよりも大人っぽいものが似合うようになったらまた違うのをプレゼントするから、それまではこれをつけててくれる?て言ってくれて」
嬉しかった。これから先もずっと一緒にこうやって過ごしていけるのだと思っていた。
「リアは僕の、っていう証だからって」
そう頬を染めて眩しいくらいの笑顔で笑いかけてくれて、私は本当に嬉しくて――このリボンを宝物にしようと思ったのだ。
「そうだったの…」
「うん。すごくうれしくって。それまではピンクとかパステルカラーが好きだったんだけど、青色も大好きになったの。だからリボンも大切にずっと使ってたんだけど。 …えへへ。贈った当の本人は、すっかり忘れていたみたい。 ほんと……よかった!今日気づかなかったら、私、馬鹿みたいにこんな子供っぽい大きなリボンを学校を卒業するまでつけていたのかもしれないもの。イタイ子になっちゃうところだったわ。ふふふっ」
「リア…」
エリーは、痛ましいものを見るような顔つきで、ハンカチを差し出してきた。
「え…。 あ…れ?」
「拭いて…? 私の前では強がらなくていいから…」
どうやら私はさっきから泣いていたらしい。
気づくと、もうこらえきれず、嗚咽まで出てきてしまった。
「…ありがとうっ………っく……う…」
私はしばらく泣いてしまった。エリーは黙って背中をさすってくれていた。
カーリーのお店につくなり、私は「大人っぽくて品がありつつも可愛い髪飾りをください!」と、勢いよく言った。お店のデザイナー兼オーナーのカーリーは少し驚いていたけど、私の赤い目元を見て何か思うところがあったのだろう。
「任せてちょうだい! ちょっと待っててくれる? すぐに持ってきてあげるから!」
と言ってアトリエの奥に入って行ってしまった。
カーリーは私のお母様が贔屓にしている新進気鋭のアーティストでオネエ口調のイケメンだ。大人可愛いデザインが多かったので、私はまだ彼の作品は買ったことがなかった。私は、お子ちゃまだったからゴテゴテしたのが好きだったのだ。
しかし私は変わるのだ!
ぐっばいお子ちゃまな自分。そしてこんにちは少し大人なわたし。なんちゃって。
カーリーは、赤と青のベルベットの箱を2箱大切そうに持ってきてくれた。
「ふふっ。ずっと、エデン伯爵邸にお邪魔するたびにアメリア様を飾り付けたいって思っていたのよ~。 はいこれ。まず、赤の方ね」
箱の中には――ローズゴールドをまるで絹糸のように操り、今にも溶けてしまいそうな雪の結晶のように繊細な透かし模様のレースワークで仕上げてあるバレッタがあった。ところどころにちりばめられたムーンストーンが動くたびに表情を変え、瑞々しい美しさを感じる。
大人可愛い…。さすがカーリーです。
「青の方はこれ」
こちらは、ホワイトゴールドで先ほどの物と同様に繊細な透かし模様を作り上げているバレッタ。小さくカットされたダイヤモンドとアクアマリンが冬の澄んだ夜空に浮かぶ星と星をつないだように綺麗だった。
思わず、感嘆の息が漏れてしまう。
「どっちもすっごく可愛い!! 絶対にどっちもリアに似合うと思う!」
エリーも目をキラキラさせている。
やっぱり女の子だもん、可愛い物とか綺麗な者の前ではテンション上がるよね!
「ありがとう。本当に素敵…。どちらも細工が繊細すぎるくらい繊細で、美しいわ。カーリーは素晴らしい技術を持っているのね」
「あら、うれしいこと言ってくれるわねぇ~!!」
「ちなみに…おいくら?」
私の発言に、エリーが目が零れ落ちそうなくらいに目を見開いている。
なんだろう?まるで死んはずのおばあちゃんが歩いてるのをみた!みたいな。…決して友達を見るような目ではない。そして、ちょっとおもしろい。
「赤いケースの方が30万ログで、青いケースの方が50万ログね」
ちなみに、この世界の通貨の単位はログ。1円=1ログぐらいで、カフェのコーヒー1杯が230ログぐらいだ。
バレッタ、かなり、高い。
でも、毎日つけるからいいもの買いたいしなぁ。
前世の私はこんな高いアクセサリーなんて持ったことも無かったけど、今は伯爵家の娘なのでお小遣いで買えてしまう。
「そうですか、学校で使用するのであまり高価なものも……今回は赤いケースの方をください」
ちょっと見栄を張りました。ごめんなさい!
「はい承りました。それにしても、少しお会いしないうちに急にしっかりなされて…。なんだか、私、胸がいっぱいよ。お母様には開店当時からお世話になっているし、20万ログにしとくわね」
「そ、そんな「いいからっ! 人の厚意は受け取っておくものよ。ね?」…はい。ありがとうございます。こんな素敵な作品…とっても嬉しいです。大切に使いますね」
「ふふっ。その子もアメリア様の手に渡れて幸せだと思うわ。お母様にもよろしくお伝えして頂ける?」
「もちろんです!」
綺麗に包装された袋を受け取り、カーリーのお店を後にしたけど、エリーがずっと何かを考えているのが気になった。