感情のチカラ。(後半アシュレイ視点)
(7月6日 土曜日:97日目)
今日は、1週間にわたる期末テストも終了し、テスト返却も終えたサロンの日です。
テスト結果は上位5人は変わらず・・私は7位になりました!ヒャッホゥ!
今日は、またもや第1学年のみんなで打ち上げみたいなサロンにして無事に終了。来週は金曜日に成績表を頂いて、実家に帰省することになっている。
お父様達元気かなぁ~なんて考えながら寮に向かって4人で歩いていると、ジーク様が1人で立っていた。
「アメリア、少しいいかな?」
エ、エデン嬢じゃなくなったーーー!!!!!!!!
表面上にはおくびも出さず、私は心の中で叫ぶ。
「はい。」
喜びは絶対に出さないけど、今日はコンビニ店員モードではなく、対クラスメイトモードにシフトチェンジする。
皆には先に帰ってもらって2人きりになった。…2人きりになるのなんて何年ぶりだろう。でも、空気は甘くない。むしろピリピリしている。
「アメリア・・手紙は届いたか?」
「はい。3通届いています。」
ジーク様が形のいい眉をよせ、不愉快そうに睨む。
う、美形が怒ると怖い・・・。
「・・・なぜ返事をしない?」
「・・・申し訳ありません。」
場を沈黙が支配する。
ピリピリとした空気。
睨む美形。
こ・こわいよ~!!おかあさ~ん!
泣きそうになるが、微笑みを湛えたまま穏やかな目で見つめる。
負けちゃダメ!アメリア!!
沈黙は金なり、よ!!
「・・・っ!!もういい!!!・・見損なった。
時間を取らせて悪かったな。」
そう言って去っていく。
残された私は、大きく息を吐く。
こ・怖かったーーーー!!!!!
泣きそうだ。
実は、ジーク様が怒ってくることは、この前PDCAサイクルを回した時にロールプレイ済みだ。
でも、だからといって大好きな人に「見損なった」と言われれば泣きそうになるし、言い訳したくもなる。
ふらふら、と近くのベンチに腰を掛ける。
もう一度ため息をつく。
そう、手紙を無視したときに私は2パターン想定してた。
①気を引くために愛情表現をしてくる
②怒りをぶつけられる
・・・①が正解で②が不正解
と、いうわけではない。
辛いけど、②も正解なのだ。
感情で経済が動くといったような本が前世でたくさん書店に並ぶほど、感情は大きな力を持っている。怒りとはその感情の中でも激しいものだ。
別に、「なんとも思われないくらいだったら、嫌われる方がいい!」なんてとち狂ったことを言うつもりはこれっぽっちもないし、私には怒られたいとかいった趣味嗜好もない。
名誉の為に言うが、前世の私はイケメンに優しく甘く叱られたいといった嗜好があったようだけど、私はまったくない!!イケメン相手でも怒られるのはいやだ!嫌われたくない!
・・前世の自分がよくわからない。
話を戻すと、純然たる論理的思考に基づき、ここでジーク様が怒るということは、それだけ私に興味があることの表れなのだ、と判断している。決してヤンデルわけではない。
不安だったり、憤りだったりそういった感情がごちゃ混ぜになり、怒りという形で私を動かそうとしたのだ。きっと、さっき私がごめんなさい、違うの!!とか言って慌ててすり寄ってしまったら、アメリアはやっぱり僕のことが好きだった、と安心して私への興味は失ってしまっただろう。
こうなることは分かっていたけど、辛いものがある。頭でわかっても心が押しつぶされそう。
「私は大丈夫…。大丈夫…。」
泣きたいけど、ここでは泣けない。寮に戻りたいけど今は動き出す力もない。目を閉じて唇を噛む。
「ねぇ、今どんな気持ち?」
懐かしい台詞だ。目を開けると天使のような美少年が立っていた。
「あしゅれい…。」
アシュレイがくすり、と笑う。
「捨てられた小動物のような顔だね。」
「どうして…?」
「ルドがエリーと2人きりになりたいだろうと思ってね。置いてきた。」
「ふふ。」
相変わらず分かりづらい優しさだ。本当は心配して戻ってきてくれたんだろうに。
アシュレイが優しく撫でてくれる。気持ちよくて思わず目を瞑る。
「まあ、駄目だったら僕がもらってあげるから。」
「ふふ。ありがと。でも、アシュレイも好きな人と一緒になった方がいいよ?」
「僕は好きな人なんて出来そうもないし。リアは居心地がいいから。結婚するならリアでいいよ。」
アシュレイがにっこりと笑う。
「『で』って。リアがいいならトキめいたのに。」
くす、と笑いながらアシュレイが隣に座る。
「人を好きになった事がないからわからないけど、何でそんなに執着できるの?非合理的で非生産的だ。あまりにも馬鹿らしい。」
「自分でも分からない…理屈じゃないんだと思う。」
「愛する人を傷つけても欲しいと思う?」
「?」
「別に、今のは気にしなくていい。」
「思ってしまうのかな…。分からない。いや、私は今そうなのかも…。」
ジーク様を不安にさせて、自分の事を考えさせようとしてる。
その後もアシュレイはただ黙って側にいてくれた。
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(アシュレイ視点)
最初は、面白い玩具だと思った。
次に、次々と予想外の言葉や展開を見せる面白いペットだと思うようになっていった。
リアは変わっていた。
普通の人間は僕を特別視したり、僕になんらかのキャラクターを勝手に期待したりするんだけど、リアにはそれが全く無かった。僕がどれだけ辛辣なことを言っても怒ることもなくケロッとしている様は馬鹿な小動物がお腹を見せて足元で転がる様に似てひどく落ち着いた。
次第にどこまで許してくれるのか試したくなってしまった。
「そういえば、初日に『敵を知り己を知れば百戦あやうからず』とか言ってたけど、敵と己は知れたの?」
リアは素直に全てを話す。思っていた以上にきちんと考えていたようで興味深い。
・・・さすがに他人の事情に立ち入りすぎてルドに窘められたけど、リアは怒る事なく「頭を撫でたい」などと言う。
仕方ない、と思って触らせてやる事にしたけれど、正直、伸ばされた手から逃れたい一心だった。
僕には頭を撫でられた記憶が無い。
だから、あんなにも気恥ずかしくて、くすぐったいような落ち着かなくてそわそわした気分になるなんて思わなかった。
その後すぐに「幸せだなぁ…」なんて言う。
一緒にいるだけでシアワセ?
日常がシアワセ?
意味が分からない。
喉の奥に魚の小骨が刺さったような小さな不快感を胸に抱く。
「わぁ!アシュレイのそういう気配りができるところ大好きよ!!」
こんなにも軽い大好きは初めてだった。
好きだの愛してるだのは重くドロドロと黒いものが纏う、沼の底の泥よりも酷く醜悪なものだ。
こんなにも軽く、こんなにも見返りを求めないようなモノでは決して無いはずだ。
「エサやりは、飼主の義務だからね。」
こんな言葉を投げつけても能天気にニコニコしている。
「まぁ、そこに友愛があると信じてるから!」
・・・友情とか愛情とかいったものは『小さな親切をしてやり大きな親切を返してもらうための契約』では無いのか?
リアの何の裏も無い笑顔がまた胸に小さな不快感を作る。
その後もリアは見たことのない激しい歌や踊りを披露して見せたり、クラスで忠犬を獲得したりと退屈させない。
そんなある日、メアリー・スティントンがリアのもとへ来た。リアにちょっかいをかけられる事に、言い知れない不快感を抱く。リアが作為的に涙目を作ろうとしているのは分かったけど、自分以外の人間がリアの瞳を潤ませる事に苛立ったので退場してもらう事にした。
そして今日だ。
「まあ、駄目だったら僕がもらってあげるから。」
自分の口から自然と出ていた。でも、自分で言ってそれもいいかと思う。生涯独身でいるつもりだけれど、リアとだったら結婚してもいい。一緒にいるのは楽だし、今や可愛い僕の大切なペットなのだから。




