兆し。(後半ジークハルト視点)
(6月16日 日曜日:77日目)
前回手紙をもらってから丸2週間。
先週はエカテリーナ様との対談もあったし、昨日はサロンもあったけど、割と穏やかな日々でした。
しかし、今日、なんと・・・
ジーク様からまた手紙が来ました!
わーい!
嬉しくてニマニマしてしまう。
内容は見たいような見たくないような・・。どきどき。
女は度胸よ!
ペーパナイフでえいや!と封を開ける。
結論から言うとセーフだった。
要約すると、
「この前の返事がなかったから心配しています。学園生活で何か困ったことはありませんか?」
とのことだ。
よかった~怒ってなくって!
この手紙書いてる間だけでも、私のことを考えてくれていると思うと嬉しくてたまらない。
ふふふ。その光景を想像するだけで、食パン10枚はイケる!
ジーク様のことを思い浮かべる。普段は辛いからなるべく思い出さないようにしていたけど、今日くらいはご褒美でいいだろう。
キラキラと輝く南国の海のようなサファイアの涼やかな瞳、すっと通った鼻梁、厚すぎず薄すぎない形のいい口・・昔は王子様みたいだと思っていたけど、どちらかといえば今は皇帝っぽい雰囲気だ。年を重ねるごとにどんどんかっこよくなっていくし、何よりも色気が…。
あああ!!!
もうだめだ!!
そんな彼が私のことを考えて手紙を書いてくれるとか!!どんだけ!!!
興奮してクッションをバシバシ叩く。
私はその手紙を読みまくった。そして、丁寧にたたみ直し、クローゼットの奥にしまった箱を取り出し丁寧にしまう。もともと置いてあった水晶を箱の上に置き、パンパンと手を合わせる。
神さま仏さまご先祖様どうぞ恋愛運があがりますよーにっ!
返信は・・しませんっ!
もっと不安になって、私のことで頭がいっぱいになればいい。
P計画=引く。急に離れることで執着心を煽るため。
D行動=気のないふりをする。話しかけられても塩対応。手紙は無視。
C評価・・・好調といえるだろう。だいぶ私に対しての関心が高まってきた。
A改善・・・まだないな。とりあえず、このまま続行。
PDCAサイクルを回しPに戻る。
計画は続くよどこまでも。5W1Hを意識するんだったかなぁ?
私は脳内でロールプレイをする。
恋愛は理不尽の巣窟だ。それは、前世のダイジェストから学んだこと。普通の人間関係を築くときのように、好意をもって接すれば、好意を返してくれるなんてことは無いのだから。
だいたい、メールやLIN●の返信は早い方が誠実で真摯的なはずなのに、恋愛関係を築きたい相手には即返信がタブーであることからして理不尽の巣窟の証明だ。
恋人の気持ちが離れ始めている時に、相手に尽くせば飽きられ、逆にそっけなくすれば気を引ける。
なんて、理不尽なのだろうか。尽くす方がいい子なのに。
そもそも、相手が喜ぶことを先回りしてやってあげる…つまり、尽くせば好かれるかのように思ってしまうけれど、それは違うのだ。それは、自分が勝手にやってる自己満足でしかない。男女で違いがあるから、女性は尽くされると絆されることもあるようだけど。
尽くすのも相手のことを思いやってしている事なので間違いではないのだけど、頑張る方向性が少し違うというか。
尽くして尽くして飽きられてマンボウによく似た女に取られるという前世のダイジェストを見たことで追体験した私が得た真理の1つだ。
もちろん、両想いでこれから愛を育んでいくような人達は、尽くすのはありだし、きゃっきゃウフフすればいい。私は哀れな失恋番長なのだ。尽くしたりしたら、一瞬でジーク様の私に対する興味はなくなる。
尽くすのではなく、相手の立場に立ってこれをしたらどう思うのか?をひたすら検証する。
基本的に男性は狩猟本能がある・・出所は知らないがそんな風に言われているのでそれを利用しようと試みているのだ!
*********************
(ジークハルト視点:6月9日~6月15日)
手紙をだしてから丸一週間が過ぎたが、返事はなかった。届かなかったのか?そんな訳はないはずだけど。
なぜ、返事が来ない?今までほとんど気にならなかったアメリアを、つい目で追いかけてしまう。返事がこなくてこちらが気にかけてやってる間も、学園で見かけるアメリアは楽しそうに過ごしている。・・それがどこか腹ただしいような焦燥感のような…微かな不快感を心に作る。
アメリアは、第4学年からもかなり人気があるようで、よく婚約者であることを羨ましがられる。…よかった、この分なら婚約を白紙にしても、すぐにいい縁談があるだろう。
・・・なのに、何故かもやもやとした気分になる。出所不明の微かな苛立ち、焦燥、憂鬱、不安、嫉妬、虚しさ、そのどれともつかないけど、そのどれでもあるような重く鈍い感情が心の奥底にわだかまる。
すこし前からメアリーが俺によく話しかけてくれるようになっていた。今までは近くにいるのに、掴もうとすれば手元からするりと逃げてしまう蝶のような存在だったのに。
殿下たちよりも一歩リードできたようで嬉しい…。そう、嬉しい…はずなのに、素直に喜べない。後髪を引かれるような後味の悪さのようなものを感じる。
なんだ?今更アメリアに罪悪感でも感じているのか?
「よ、浮かない顔だな?」
「ヴィンスか。」
そういえば、こいつは妹とアメリアのサロンに顔を出してるんだったか?
「妹のサロンはどうだ?」
「上手くいってるな。学内でもう3番目だぞ?優秀な妹だったが・・まぁ、アメリアのおかげだろうな。」
3番目!?しかも、
「アメリアの?」
「なんだ、気になるのか?ちょっとだけ見てこればいいじゃないか。たぶん近くまで行けば聞こえてくるだろうからさ。場所は・・・」
ヴィンスがニヤリと笑って肩を組んでくる。
聞こえてくる?何がだ?
土曜日のサロンのときに、見回りと称して少し抜け出す。ヴィンスに教えてもらった場所に近づくと澄んだ美しい少女の声が聞こえた。
それは、歌だった。
聞いたことの無いメロディー、心にささるような歌詞。
この声は・・胸がドキドキして駆け寄る。近づいて覗くとやっぱりアメリアだった。
愕然とした。歌っているアメリアは表情が豊かで・・正直ぎゅっとしたくなる程可愛かった。最近は、無表情なのに。いや違う、俺にだけ無表情だ。昔から整った見た目だったが、あんなにも可愛かっただろうか?きらきらと輝いているようにみえる。サラサラの金髪は艶やかな絹糸のよう、瞳はブルージルコンのようにキラキラとして、アメリア自体が1つの美しい宝飾品のようだ。
自分たちのサロンに戻るとメアリーが寄ってくる。
「ジーク?どうかしたの?」
「いや、何でもない・・・。」
そういって俺の服の裾をちょんと掴む。少し前までは抱き寄せたい衝動に駆られるような行動だったのに、今は心が鉛のように重たい。
夜、名状しがたいこの感情をスッキリさせたくてアメリアに手紙を書いた。
前の手紙は届かなかっただけかもしれないから。




