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日常。

(5月27日 月曜日:57日目)


 あの後メアリーのハーレム軍団からなにかあるかもしれないと、私は少しビクビクしていたけど何事もなく過ぎ去った。


 何事もなく?ちょっとした事はあった。


 先週の木曜の詩の授業では、無自覚の中二病患者のために、そんなに好きならと、昔のビジュアル系バンドの曲を歌ってあげた。


 歌い始めるとすぐにクラスの男子の目が輝いていく

 クラスの熱気が上がっていく

 なんとなく私のテンションも上がっていく

 クラスのテンションが更に上がっていく

 熱いパトスがほとばしる

 涙する男子が現れる


 最後は病に(かか)った男子たちからの熱いスタンディングオーベーションに包まれた。


「尊い。」

「神だ。」

「「「「神だ。」」」」

「アメリア様ー!」

「アメリアさまあああ!!」

「アメリアサマァ!!」


 感染したウイルスが急発したかのように鳴り止まないコール。


 ここに中二病の教祖が爆誕した。


 

 と思ったけど、アシュレイから「二度とやらないでね?」とゴミを見る目で言われた。



 さて、そんなこともあったけど、月末のサロンは大盛況だった。学園内で3番目の規模になったらしい。上の学年のサロンの雰囲気が悪いおかげで、私たちのサロンが穏やかに過ごしたい人のための避難所となっているようだ。

 アシュレイが、上の学園に万年発情期の女がいてくれたおかげだね。と楽しそうに話していた。


 この前の連休以降、私は、月曜から水曜の授業後は図書館で消滅時効制度に関する論文を書き、木・金は授業後に詩の授業で発表した新曲に関してアシュレイとピアノであわせたり(先週のV系は却下された)、振付を考えてみたり・・下校時刻になると寮へ戻り、寝るまでニーナと授業の予習に復習と忙しくしているおかげで、ジーク様のことはあまり思い出さずに済む。


今日も今日とていつもの4人で図書館に来ている。


 4人がけのテーブルに座る。私の隣にはエリー、エリーの向かいにはルド。必然的に私の向かいはアシュレイだ。私は論文を、エリーは復習を、アシュレイは本を読んだりと思い思いに過ごす。ルドは深緑の目でエリーを見つめている。


「ちょっと、ルド、こっち見てないでなにかしなさいよ!」

「なんで?」

「なんでって。やり辛いからに決まってるでしょう?」

「お、ここ間違えてるぞ。」

「え?どこ?ここ?何で?」




「なるほどね〜。」

「よく理解できました。」


 そう言ってルドが子供を撫でるみたいにエリーの頭を撫でて、そのままエリーの長いダークブラウンの髪を自分の方に掬う。


「ちょっと、、やめてよ!」


 恥ずかしいのか、困ったように眉を寄せながら、伏し目がちに拒否するエリー。


「無理だな。エリーが可愛いから。」


 ルドは思いっきり楽しそうだ。


「お世辞はやめてってば!」

 

 エリー、そんな瞳を揺らしながら言ったら…。


「世辞なんて言うわけないだろ?」


 ルドが小さめに囁きながら蕩けるような笑みをみせる。


「エリーはすごく可愛い。笑った顔もすきだけど・・今みたいに恥ずかしがってる顔が、たまらなく可愛いな。」



 ゴチソウサマデス。ルドは愛情表現がストレートなので、近くにいる頭でっかちの恋愛戦闘力0の私はいつも流れ弾で瀕死状態だ。


 エリーは顔を紅くして涙目で小刻みに震えている。時々、声にならない声が「あ」とか「う」とか漏れている。エリー、ルドはその顔が好きなんだと思うよ、ひたすら満足そうだもの。


 この前からずっとこんな感じなので、アシュレイと私は完全にスルーを決め込んでいる。気にしたら進まないからね。


 しばらくして資料を見たくなり、本棚のところに行くと、どこからともなくキースとライナスが現れて本を探すのを手伝ってくれる。…これも最近のお決まりなので、スルーだ。彼らは喜んで本を取ってくれるし、机まで運んでくれる。ちょっとストーカーか?と思わなくもないけど、エリーとベティーの許可を得てやっているとのことだ。おかしくないか?許可をするのは私ではないのか?


「アメリア様はもう論文を書いてらっしゃるなんて素晴らしいですね。」

「お美しいだけでなく、努力家で、優しく、聡明であられる。天使ですね。妖精でしょうか?」

 

 2人が蕩けるような顔で言ってくる。これも、最近のいつもの事なのでスルーだ。2人は、なにかにつけて私をヨイショする。やめてください、とお願いしたけど、やめてくれないので気にしない事にした。気にしたら負けだ。妖精って。あ、ダメ…気にしちゃ。


 机に戻り、ふとアシュレイを見る。窓から入る光を受けてアシュレイのヒヨコみたいなプラチナブロンドの髪が淡く光り輝いてとても綺麗だ。『エスパルマ王国法 注釈第2版』…随分とマニアックな物を読むんだな。エスパルマ王国は最近列強に名を連ねたばかりの新興国だ。法律に関しては他の国からいいとこ取りして作った急拵えのものだったと思うんだけど。


 その後図書館の閉鎖時間となり、寮に戻る。エリーと2人きりになるとエリーがいたずらっ子のような顔で話しかけてきた。


「ねぇ、本当に、リアが言ってた通りにジーク様この前行動してきたわね!次はどうなるとリアは考えてるの?」


「うーん、きっと、また私の心の所在確認をしてくると思うわ。」


「ふふ。つぎはどうするの?」


「しばらくはまた一緒のつもりだよ。『もうあなたなんか知りません』アピール。」


「そっか。…でも、この前声をかけてきてくれたんだから、だいぶ気になり始めてくれたんじゃないかな?」


「んー、どうだろう?私のイメージでは、今回私に声をかけてあんな態度を取られた事で、ようやくジーク様の中で私の存在を思い出した程度だと思う。石ころにつまづいてあれ?こんなところに石ころがあったかな。てちょっと思ったような、小さな気づき程度…。」


「そんな小さな感じなの?ずいぶんシビアね。私にはもう少し大きく感じたけど…。」


「自分で言うのもなんだけれど、恋に冷められてしまった人間が復縁するのに、起死回生の一発とか、一撃必殺とかいった方法は無い気がするの。じっくり時間をかけてるしか・・・。」


 前世の(クズ)も『飽きた男にはとことん興味がなくなる。どこで何してようが本当どうでもいいんだよね~』と言っていた。あ、泣きそう。自分で思い出して、自分で心を折りそう。これが因果応報ってやつか。


「だ、大丈夫!!きっとリアなら大丈夫よ!!それにしてもこの前のアバズレには本気で腹が立ったわ!」


 エリーが私が落ち込んだのを察知して話題を切り替えてくれた。


「そうだよね!私も一瞬あの人が何を考えてるのか分からなかったもの。」


「それにしても、正直・・・アシュレイにはかなり驚いたわ。」


「すごく怖かったよね。前から有無を言わさないオーラとかあったけど…ねぇ……アシュレイって何者なのかな?」


「私も分からないわ。あの後調べてみたけど、ルドの従兄弟で子爵家の唯一の後継者…ご両親はもう亡くなっていて、祖父母の方がアシュレイの後見人となっている、ということしか。」


「そっか。」


 エリーで分からないなら私が知る方法なんて無いな…。

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