月末のサロンの日。
途中三人称視点はいります。
(27日目;土曜日)
今週も、平穏に過ぎた…と言いたいところだけど、平穏に過ぎたと言うにはいささか私の精神が削られ過ぎた。
理由は詩の授業に遡る。
今週も生贄が1人誕生か、と私は憐みの目で当てられた男子生徒をぼーっと眺めていた。
少年が立ち上がり、詩を読み上げる。
「世界が俺を置いていく
…いや、ちがう
世界が俺について来れていない…のか?
孤高の存在となりし私は、
世界が穢れていることに気が付いた」
やーめーてー!!
口許がひくひくしちゃう!!
詩の授業が中二病の発言をあげていくスレに乗っ取られた!!
教室の男子からは「やべぇ。パネェ。」「秀逸だな。」などの囁き声が聞こえる。
はっ!!る、るど??
少しわくわくしてない?
アシュレイは…無事か。
よかっ・・いや、罹ってるところ見たくないけど見たい気がする!
私は、中二病の発病者は前回の彼だけだと思っていたのだ。
恐ろしい程の感染力で教室の男子が、病に侵されていく。
なんて強力なウイルスなんだ中二病!!
「はじめに言葉ありき」という言葉がある。
解釈に諸説あって、正確な理解は前世の残念な私の頭ではできなかったのだけれど、前世の不確かな解釈によれば、言葉があって初めて人がそれを見える・認識できるという意味らしい(前世も賢くなかったので、間違っている可能性が高い)。
例えば「鯖」という言葉がない世界においては、それは「よくわかんないけど美味しい魚」としか認識されないのだ。
この世界ではまだ「中二病」にあたる言葉がない。故にみんな無自覚なのだ。若い時になんとなくそういう物を好む時期があったような無かったような、という風にしか認識されない。
なんて偉大なんだ、「中二病」という言葉を造った人は。
無自覚にクラスが中二病に侵されていく…。
だれか至急ワクチンを!!このままでは私の腹筋がもたない。
彼は哀れな生贄などではなく、私への刺客だった。
その、無駄にテーマに沿った大喜利のごとく中二言語を羅列することを今すぐ止めてほしい!!
頼むもうやめて!!私のHPはもうとっくに0なの!!!
・・・この日から木曜日の詩の授業は私にとって死の授業と化した。
笑ったら貴族令嬢として死ぬ。 そんな授業だ。
・・・さてそんなこともあったけど、今日はついに月末のサロンの日。
私は昨日からずっと緊張している。だいぶなれてきたとはいえ人様の前で歌うのは…やっぱり恥ずかしいし緊張する。
前日には予め参加予定の人たちから来訪を告げるカードが届くので人数の把握はすんでいる。第1学年のほぼ全員、第4学年のうちの5分の1、その他の学年は法学の女子の先輩が友人を5人連れてくるとカードが届いた。
なので、いつもの場所とは違い、大きい教室を借りてのサロンだ。すでに、集客率が学園で4番目くらいになっているが、上位2つが抜きんでているのでこれからもっと頑張らなくてはならない。
「おはようみんな。」
「おはよう、あとはお客さんが来てくれるのを待つだけよ。リアはもう前の方でスタンバイしてくれてたらいいわ。」
今日はルドとエリーが受け付け担当、私とアシュレイは後から登場の予定だ。
ルドとエリーが来客全員の席への案内を終えると、アシュレイと私が前から登場する。
「皆さま本日は私達のサロンにお越しいただき誠にありがとうございます。 来ていただいた皆さまに、ささやかながらアメリアと私の方から音楽をプレゼントさせていただこうと思います。 皆様に少しでもお愉しみ頂くことが出来ましたら光栄に存じます。」
いたってありきたりの挨拶なのに、アシュレイの声変わり前の少年だけが出せる天上の調べのようなボーイズソプラノで発せられると、あまりにも美しくてそれだけで、ぼーっとしてしまう。
「心を込めて歌わせていただきます、どうか皆様の心に残ることができますように。」
お互いに位置につき目を合わせる。
アシュレイが頷くのと同時に歌い始める、最初は独唱、途中から伴奏をいれ歌い上げる。
二曲め三曲めを歌い、最後の4曲めを歌う。
*************
「ほんと、歌ってるときのリアは、いつもにもまして輝いてるよな。表情豊かで」
「そうね・・・なんだか遠いところにいってしまったみたい…」
「そんなことないだろ」
ルドがくしゃりと笑い、エリーの頭をなでる。エリーもクラスの女子では1番背が高いが、ルドとは頭1つ違った。
「…あなたは兄弟が多かったりするの?」
「下に2人だな。」
・・・本人は無自覚なんだろうが、女性に対しスキンシップが多いことを注意すべきだろうか?と考え、自分が意識されていないだけだろうと思いいたったので、小さくため息をつくことでエリーは言葉を飲み込んだ。
だから次の小さなルドの呟きはルド以外の誰の耳にも届かなかった。
「あれだけリアが輝いてるから、アシュレイが少しは自由に動けてるんだろうな。」
**************
歌い終わると、学年のみんなはもちろん、他の人たちも全力で拍手してくれた。
「ご静聴、ありがとうございました。この後もどうぞお楽しみください。」
アシュレイが挨拶をすると、私をエスコートしながらお客様の方に挨拶に向かう。
「エデン嬢、スチュアート君、素晴らしい音楽と演奏だった!!初めて聞く全く新しいメロディーに感動したよ。」
「エデン様スチュアート様!!本当に素敵な演奏でしたわ! 歌詞も素敵で胸が熱くなりましたわ。もっと聞きたくて…定期的な演奏会はございませんの?」
「まぁ、ありがとうございます。」
「ふふ。実は毎週のサロンで…」
アシュレイのセールストークの隣で、私はニコニコと営業スマイルだ。下手に話すと彼の段取りをぶち壊しかねないと思い、大人しく愛想を振りまくことに徹する。
なんとか無事に終わり、反省会の時にはアシュレイを除きみんなクタクタだった。
「流石に今日は神経を使った…」
「私も…」
「俺も…」
「お疲れ様。 おかげで上手くいったよ。 反省会用に、南マルベニ産の苺をたっぷり使用したイチゴのタルトを頼んでおいたから、食べるといいよ」
「わぁ! アシュレイのそういう気配りができるところ大好きよ!!」
「エサやりは飼主の義務だからね」
天使の微笑みで頭を撫でてくれるのでニコニコとする。
「リアはそれでいいのかよ」
私は変なところが鈍いからあんまし何言われても腹が立たないのだ。
「まぁ、そこに友愛があると信じてるから!」
「バカは度を超すと可愛いということに僕も最近気づいたんだ」
アシュレイが微笑む。
「そういえば、来週は水木金が中間テストだから、週末のサロンは第1学年の皆を呼んで打ち上げにしましょ」
「「そうだね(な)」」
え?
「ちょっと待って、てすと?」
こんな早く?
皆が信じられないものを見る目で見てくる。
信じられないのはこっちだ、いや、信じたくない。




