主人公による婚約者とヒロインに関する考察。
(22日目:月曜日)
今日も今日とて学校です!鬼のニーナとの予習復習のおかげで、授業にはついていけてるけど。
私達は授業後に音楽室を借りてアシュレイと歌と伴奏を合わせていた。
アシュレイは私の歌からとても綺麗な曲を作り上げ完璧に弾く。私の歌からここまで綺麗な音楽を作れるって、本当にすごいよ。感心しながら見つめる。
ピアノを弾くアシュレイは正直クラクラするくらい美しかった。窓から差し込む光をふんわりと纏って内側から発光してるかのように輝く白金の髪も、伏せられた長い睫毛も、その翳りの下の真剣なエメラルドの瞳もぞくっとするほど綺麗だった。まさに天使が奏でる天上の調べ。
ピアノも恐ろしく緻密で正確で上手だし、アシュレイはチートの塊だね!見た目だけでもチートなのに。神様……私もチート能力が欲しかったです。
「まぁ、こんなものかな?」
なんて事もないように振る舞うところもスマートだ。悔しい。
「アシュレイも一緒に歌ってくれればいいのに」
「絶対にイヤ」
目が笑っていないアルカイックスマイルを浮かべる。――ごめんなさいその顔怖いからやめてくださいもう言いませんから!!
「2人ともお疲れさまぁ、素敵だったよ!!」
エリーの笑顔にホッとする。
「ありがと!」
「小腹も減ったし、お茶にでもするか」
4人でお茶をしているとアシュレイがふと、思い出したように聞いてきた。
「そういえば、初日に『敵を知り己を知れば百戦殆うからず』とか言ってたけど、敵と己は知れたの?」
「ははっ。なんだよそれ!!」
ぎくっ。よく覚えていたなアシュレイ。
私は、格言について突っ込まれるといやなので、ルドをスルーする。
「ぼちぼちかな?」
アシュレイがゆっくりと目を細めながら微笑む。
こわいよー!なんで、こんなに無言の圧力を出すのがうまいのだろうか?小心者の私は観念した。
「ジーク様は、おそらく私のことを妹くらいにしか見えなくなっていたのでしょう。そこを、メアリーさんにつけこまれたものと推察します」
「ふうん?」
続けて?と目だけで促される。えーっ、終わらせてもらえないの?くすん。
ふぅ、と息を吐き、感覚で捉えていることをどうにか言葉にしようと、言葉を探しながら話す。
「まず、敵からですね。ジークハルト・マグノリア。彼は騎士団長を多く輩出してきた家系で育ち、女性に対して紳士的であろうと努めるタイプです。家族構成に母親以外に女性がいない点から考えるに、女性に対して夢を抱いている部分も幼いころにはあったと思います。なので、私が婚約者の座に収まることができたのでしょう」
一度ペロリと口を湿らす。
「ここからは、私の立てた仮説になります。――学園に入り、あの容姿ですから、ひどくモテたことでしょう。何もしていないのに女性から送られる多くの秋波に、最初は大きな戸惑いとほんの少しの喜びを感じたはずです。サロンを通じ否が応でも他の女性達と関わりあうことで、私の脳内のお花畑具合を心配になったのではないのでしょうか。騎士団に所属すれば家を空けることも多くなります。アメリアに任せても大丈夫なのだろうか、と。そんな中、自分の意見を持ちしっかりしたところのあるメアリーに惹かれた。……これは、メアリーさんがジーク様の前では少ししっかりしたキャラを演じているところからも間接的に証明されているものと考えます」
そうなのだ。この1ヶ月ただすれ違うだけではなく、私はきちんと視界の端で観察していた。もちろん、気のないふりをしながら。(ジーク様に対して、もう貴方に冷めましたアピールをしているのだ。こちらの興味など、絶対に欠片ですら感づかせてはならない)
「メアリーさんの事は当初見ない予定でしたが、アシュレイに絡んでくるので、開き直ってよく観察するようにしました」
私は、ヒロインのメアリーに対してある意味本気で尊敬している。――真似たいとは思わないけど!
彼女は嗅覚が鋭いのか、EQが高いのか…
相手の需要を正しく察知し、同じ集団の中にいるのに怪しまれない程度にキャラを使い分けている。
私には絶対に真似できない芸当。彼女は前世だったらものすごいキャバ嬢になっていることだろう。接客のスペシャリストになれる才能がある。
それに加えて彼女はなんとお互いの嫉妬心を刺激させ合うことにより、益々自分に夢中になるように上手く全員をコントロールしている。
だけど、4人もの人間――しかもいい男たち――をずっと1年以上自分の方に気持ちを向けておくのは並大抵のことじゃないはず!
はっ!!もしや、今の関係に新たな刺激を投入すべくアシュレイを必死に勧誘しているのか?
更なる嫉妬心を煽り、自分に夢中にさせるという!!
なんという事!私が娼館のオーナーなら、絶対にメアリーをスカウトする。優秀すぎる!
「ジーク様はハーレム要員を丸二年勤め上げ、そろそろ内心に少し焦りが生じ始めている、と私は勝手に予想しています。何故なら、来年の三月の殿下の卒業にあたり、他のハーレム要員が勝負に出てくることを危惧しているからです。――決定打もなく、本当に自分がメアリーの1番になれるのか、と。
もしなれなかった時のストックとしての私、アメリアに安心をおぼえている。けど、もし、メアリーから婚約破棄して私を選んで。と言われたら彼は迷いなく私を切るでしょう」
でも、ストックとしての私に安心感を覚えている…という事はまだ完全には切れてない。ここに勝機があると私は考えている。3%くらいね。
最初の方に覚悟は決めたから、やれるだけのことはやるつもりだ。みじめったらしくすがったりは絶対にしないけどね!
私が自分の思考の海に潜っていると、落ち込んでると勘違いしたのか、ルドがアシュレイを肘で小突く。
「おい。アシュレイ、流石に無遠慮すぎるぞ?リアが素直だからって、調子乗ってると嫌われるからな?お前、ペットとかに嫌われるタイプだろ。……ごめんな、リア。言いたくないこと言わせて。代わりにこいつに何でも命令していいから」
「え?」
アシュレイも思うところがあるのが珍しく少しだけバツの悪そうな顔をしている。
え…うそ。なんでも、って。
「じゃぁ、頭触りたい」
「「は?」」
「さっき、ピアノ弾いてたとこみて思ってたの。陽射しを受けて淡く光る金色が産まれたてのヒヨコみたいで綺麗だな。って」
「ぶはっ!!はははっ!ヒヨコ!!いいよ!いいよ!いくらでも触りなよ。ほら、アシュレイ」
アシュレイも黙ってあたまを少し差し出す。
少しぶすっとしてて可愛い。こんなアシュレイは初めてだ。年相応の反応が可愛くて仕方がない。
折角だから立ち上がって側に行く。アシュレイのつむじが見える。少し癖のある柔らかそうな髪さえもなんだか可愛い、そっと触れると思ってた通りフワフワでサラサラの猫みたいな撫でごこちだった。
「ふふ。やわらかい」
気持ちいい。撫でると指の間をサラサラと光を纏った髪が流れる。
しかし、普段尊大な態度のアシュレイが大人しく自分の手の下にいることに、なんとも言えない気持ちになる。
ふとアシュレイを見ると、照れているのか左斜め下を見つめ、少し頬がピンク色に染まっている。
か、可愛い!!!胸がきゅーんとして、呼吸ができない。
エリーを見るとエリーも目を潤ませて両手で口元を押さえながら悶えている。
わかる、わかるよ!!
はッ!これが、前世で言うところの萌えか!!!
「もう、いいでしょ」
ぷい、とアシュレイが身をよじって手から逃れた。
美少年が照れるとこんなにも破壊力があるのか。天使さえも嫉妬するような可愛さだ。
「それにしてもリアがこんなにも色々考えているとはな。正直、普段何も考えてなさそうに見えるからビックリしたよ」
「リアは、面白いでしょ?僕のお気に入りだからね」
――ペットとして。という事だろう。
やめてよね、君は美少年なんだから!一瞬キュンとしそうになったじゃない!
「それにしても、ルドとアシュレイは仲がいいのね」
エリーがキョトンと聞く。
「あぁ、まぁな。俺らは従兄弟なんだよ」
「ふふ、ルドの初恋の相手は僕なんだよ」
「おまっ!!それ言うなよ!!……仕方ないだろ、小さかったし、見たことないようなスゴイ美少女がいると思ったんだよ!!」
私たちは爆笑した。あのBLプレイはルドにとっては古傷を抉られているのだろう。アシュレイの容赦なさが小気味いい。
「幸せだなぁー」
みんなが、きょとんとしてこちらを見る。
「こうやって何気無い日常がすごく幸せ。色々あったけど、このメンバーと出会えて、こうやって笑いあえる。学園に入ってよかった」
本当に、この1ヶ月、辛いことも色々あった。もし一人きりだったら…もしサロンで忙しくなかったら…常にジーク様のことを考えてしまって、私はこんなに自分の気持ちをコントロールできなかっただろう。
エリーは破顔し、ルドは「それは、反則だろう」と呟く、アシュレイは無表情だけど瞳が揺れている。
…敢えて触れずにきたけど、アシュレイはきっと、バックグラウンドが複雑だったりするんだろうなぁ。こんなにも完璧なのに屈折しまくってるし。
最初は、アシュレイの個人的な部分に踏み込む気持ちなんて全くなかったけど、今はアシュレイも私の大切な友人だ。アシュレイが辛いなら頼ってほしいとも思う。毒舌だけどなんだかんだ優しいアシュレイのことを私は準親友くらいに思ってるんだから。
もし、何かあるのなら頼って欲しいと思う。
前話含め誤字等修正しました。ご指摘ありがとうございます。




