7-10 オーバーフロー
「・・・・で、原因についてなんだが」
稔さんがコーヒーを啜りながら話を切り出す。シューミルは今も簀巻きのままソファーの上で気絶している。
一応布団を縛って固定していた縄は解いてあるが、全く動き出さない。魔力が切れるとそうなるのだろう。
「獣人が魔力適性が低いことが多いのは知ってるな?」
「はい。その代わり魔力の流れを何となく察知できるって話も聞きました」
「それが何を意味するか。言ってしまえば自分と魔力の境界線が薄いってことなんだ。邪神の地と呼ばれるここは魔力の濃度が濃い。つまり外から入ってくる魔力量が多いんだ」
つまり外から魔力が入ってくる一方で抜け出ないからたまってしまったと。中々難儀なことだ。
「普段から魔力を行使する上に魔力との親和性も悪い俺たちには何の問題もないが、獣人だと周りの魔力濃度に左右されてしまうんらしい。その結果魔力過多となってああなったんだろうな」
魔力の回復が早いことは知っていたが、獣人の場合はそうなるのか。と言うことはモーガンさんの吸魔の奪撃は使いすぎると危ないということだろう。
「対策としては・・・・しっかり事情を説明して定期的に魔法を使わせるのがいいだろうな。ほら、起きたらしいから説明してやれ。俺はもう一回寝なおすかな」
稔さんは大きな欠伸をしながら部屋に戻っていってしまった。
「おはよう、シューミル。具合は大丈夫?」
「・・・? 言われてみれば少し頭痛がします」
様子を見るに覚えていないらしい。ユートはここ数時間での出来事を説明した。一部省略してもいいかとは思ったが、驚かされた分の仕返しだ。こっちの把握不足だった点の責任についてはスルーした。
「―――――――ッ!!」
話を聞くにつれ顔がだんだん赤くなり、ついには恥ずかしさの余り布団にもぐってしまった。反対側からしっぽだけ出ているのが可愛い。
「すみ・・・ません」
布団の中からくぐもった声が聞こえてきた。本当に申し訳なく思っているのが伝わってきて、こっちまで申し訳なくなってきた。単に笑い話にするつもりだったのだが、失敗したと思った。
「いや、こっちもそんな風になるとは知らなかったし、把握ミスでもあるさ。ってことで、定期的に全部じゃなくていいから魔法を使うようにしてくれ」
「はい・・・・・」
時計を確認すると、そろそろ起きる時間だった。
「どうする? 俺たちも寝なおす?」
「いえ、私は大丈夫です。もしよければ、魔法を教えて頂けませんか?」
射撃を教えた記憶も残っていないので、また使えなくなっているのだろう。ほかの魔法を教えてもいいが、魔力量を好きに調節できる射撃がやはり一番だろう。
「それだったらトレーニングがてら外でやろうか」
先ほどと同じく、庭のほうへシューミルを連れ出し、一通り説明をする。やはり全く記憶に無いようで、真剣に聞いていた。
射撃は的に狙いをつけるイメージと、魔力を固めて勢いよく発射するイメージが肝心なので、また稔さんのくれたゼンマイ車を使うことにした。無事なものはあと3つ残っているし、そもそも魔力を込めすぎなければ壊れるほどの威力は出ない。シューミルにあれを破壊するのは不可能だろう。
「射撃・・・・射撃・・・うーん、うまくいきません。疑うわけではありませんが、私は本当に一度で成功させたのでしょうか?」
「うん。あの車に興味津々だったから最初は飛びつこうとしてたけど、魔法を教えたら喜んで仕留めてたよ」
「確かにああやってちょこまかと動かれると少しだけ捕まえたくはなりますが・・・・あの、よければ手を握っていてくれませんか? そっちの方がうまくできると思います」
「うん? 構わないけど」
シューミルの左手を握り、もう一度ゼンマイ車を走らせる。シューミルは大きく息を吸い込み、
「【射撃】」
パン!と魔力が弾け、地面を抉る。命中こそしなかったけど十分すぎる、というより魔力過多と言えるレベルの威力だった。
「・・・大丈夫か?」
また魔力切れを起こしていないかと確認したが、平気そうだった。自分が魔力を発射した跡をしげしげと眺めている。
許可を貰って、〈鬼神の魔眼〉。
シューミル /女性-15歳 奴隷
体力 112/112
魔力 5/11
腕力 43
知力 45
敏捷 72
耐性 73
スキル
《短刀術Lv5》(体力小強化)
「なん・・・・・だと!?」
この短時間で魔力が2も伸びている。加えて、射撃を発動する前に魔力が満タンになっていたと仮定しても、6しか消費せずにあの威力を出したことになる。
「【射撃】」
試しに発動してみるが、普通の威力しか出ない。魔力に若干の意味が入っていて、何らかの属性を持っていたとか・・・・?
どちらにせよ、答えが簡単に出るものではない。こういう時は一番魔法を使っている気がしたゼフィーに聞いてみることにしよう。




