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6-18 夜想




「しっかし、よく生き延びたもんだ・・・・」


ベッドに寝転がり、大きく息を吐き出しながら、今日一日を振り返る。


ユートが今まで生きてきた中で、ダントツトップで一日が長かった気がする。


けど、こうやって生き抜いた。もちろん、夏芽さんやゼフィー、稔さんのお陰なのだろうけど。いずれにせよ、今自分はこうやって命を繋ぎ、その上同じ日本人に出会い、こうして日本にいるのではと錯覚できるくらい、よく作られた環境にいる。


これを奇跡と呼ばず何と呼ぼうか。その分色々あったり、こうやって徹夜をすることになっているけれど、結果オーライとしか言いようがない。


少し冷える夜を退けるように熱を返してくれる布団は、のしかかる疲れを快楽へと変換し、ユートは眠りに誘われ・・・っと、いかんいかん。危うく寝てしまいそうだった。


ユートは眠気を振り払うべく体を起こし、水色のカーテンを開けた。窓の外には来た時と変わらず薄ぼんやりとした赤黒い光景が広がっている・・・と思っていたのだが、予想とは違い、来た時よりも少し明るかった。


原因は、多分空にある青白く光る発光体だろう。昼間は太陽が無かったのでてっきりここには太陽が無いものだと思っていたが、あれが太陽なのかもしれない。


月の光よりも青白い、不思議な光。地球では到底見ることのできない、超常現象だ。


こんな光景を見ていると、どういった原理だろうとか、これは何でできているんだろうといった疑問の前に、やはり神はいるのだという発想に至ってしまう。宗教が興る理由が何となくわかった気がした。


稔さんから聞いた話で女神の信憑性のなさは十分に承知したつもりだし、何よりあのスキル〈死の欲動(トーデストリープ)〉の幻覚作用の一件から、信じられそうなものが裏切ることも学んだつもりだ。


けれども、あの女神が本物で本当に世界を創造したのかといった疑問は抜きにして、やはり神はいるのだと思う。・・・・ただ、あの女神以外にも神がいるとしたなら、先週会った占い師女神の予言通り、「災難の神様」と「幸運の女神」の両方に愛されてしまっているのだろうが。


「もっと平和に暮らせますように」


窓を開け、青白い無機質な光に本心を語る。


解決しなければならない問題や、日本に帰る方法など、色々考えることはあるけど、少し休みたい。それが心からの望みだった。


「失礼します」


ドアをノックして、シューミルが入ってくる。肩にかけたタオルと蒼混じりの黒髪は、しっとりと濡れていた。シューミルはさっきまで、夏芽さんと一緒にお風呂に入っていたのだ。


「今上がってきたところ?」

「はい。とっても不思議な体験でした。くいってしたらお水がたくさん出てきたり」


シャワーのことを言っているのだろうか。身振り手振りで説明しようとするシューミルは、マジックを見せられた時の幼い子供のように見えた。


「夏芽さんとはどうだった?」


一緒にお風呂に入ってもらったのはもちろん色々なものの使い方を覚えてもらうためだが、シューミルの夏芽さんに対する警戒心を解いてもらうためでもあった。


何しろ、シューミルによると初対面が脅迫じみていて、挙句の果てに血だまりを作り出して中から現れた血人形に襲われたとか。そりゃあ怖がるわ。


「えっと・・・物の名前とか、使い方とかを教えてくれて、とっても親切にしてくれました」

「うんうん、よかった。仲良くなれそう?」

「・・・多分、できると思います。けど、夏芽さんは、えーっと、思ったより大変で・・・」

「??」


途中からぱたぱたと手を振って困っている。何が言いたいのだろうか?


すると、また部屋がノックされた。


「猫耳ちゃん、いるかしら? 開けるわね」


そう言って入ってきたのは夏芽さん。昼間着ていたゴスロリドレスから、ごくごく一般的な寝間着へと着替えていた。


「途中で逃げ出しちゃ髪がぼさぼさになるし、風邪をひくわよ?」


手に持っていたものを持ち上げて見せる。ドライヤーだった。


シューミルはいつの間にか後ろに隠れている。どうやら、ドライヤーが嫌いだったらしい。


確かに、この世界には風呂はあるけどドライヤーは無いし、髪が濡れたらタオルで拭いて櫛をかける程度だ。理由も原理もわからない未体験を警戒する気持ちはわかる。


「あのなシューミル、これはドライヤーって言って、熱い風で髪を乾かす道具で、全く危なくないし髪が整ういい道具だ」


それでもぷるぷると首を横に振る。何が嫌いになる原因なのだろうか。


「さっきまで乾かしてあげてる途中だったんですけど、この猫耳ってどうなってるのかなーって、考えてたら少し当てすぎちゃいまして、少し熱かったみたいで・・・」


後ろでシューミルがコクコクと頷いている。


「うーん、それなら自分でやってみたらどうだ? それなら加減もできるだろうし」


やはり首を縦には振らない。音が大きいのも苦手らしい。


「まあ、人それぞれ苦手はあるわけだし、ま、いっか」


と妥協しかけたその時、また戸が開いた。今度は稔さんだった。


「話は聞いたぜ。ちょっと貸してみな」


夏芽さんからドライヤーを受け取り、「そういや冷風機能つけてなかったな」と検分する。


「んじゃ、〈思機通和〉〈化学変性〉っと。これで完成だ。冷風の方は少し性能が落ちてるが、かなり静かになってるはずだ」


受け取ったドライヤーはスキル発動と同時にバラバラになり、またすぐ元の形に戻る。新しいドライヤーには猫の顔があしらわれたスイッチがついており、どうやらそれで温度を調節できるようだ。


試しに電源を入れてみると、冷風モードだととても静かだ。性能が落ちているとは言っていたが、そう違いがわかるものでもない。


「じゃ、俺はもう風呂入っちまったから、次入っていいぞ」


稔さんはそう言って部屋を出て行った。やだ、かっこいい・・・


シューミルは恐る恐る新しくなったドライヤーを受け取り、風に当たる。どうやらまんざらでもない様子だ。


これは余談だが、それからシューミルの髪のツヤが増したことは言うまでもない。






次で今章は終わりです。

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