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5-2 丁重な策略




「・・・・・・・という訳なんだ」


シューミルは話を聞いて、青ざめている。当然だろう。何らかの危害を加えられようとしていることは確かだし、逃げることも難しいのだ。


「ってことで、さっさと逃げ出「逃げたぞぉぉぉぉぉっ!!!」・・・・やべっ」


見回りに来て、気づかれたのだろう。男が叫んで回っている。最初に発見したのはユートの居た部屋の方らしい。すぐに男が来て、シューミルも居なくなっていることを報告していた。


下の方では、どたどたと走る音が聞こえる。中に混じっている金属がぶつかるような音は、武器だろうか。


どちらにせよ、これでより馬車に対する警備はきつくなっただろうし、電撃戦も仕掛けづらくなった。四面楚歌とはこのことだ。


「シューミル、昨日天井に張り付いていたって言ってたよね? その時にこの辺の天井の構造とか調べたりした?」

「すみません。幾らどこでもいいと言われたとはいえ勝手に天井裏に上がるのはどうかと思いまして・・・」

「いや、謝ることじゃないよ。そう言われてみればそれが常識だ」


天井の板がいくつか外せるのは上ってくるときにわかったので、部屋をまたいで降りることも可能だろう。


「一旦ここで騒ぎが落ち着くのを待って、そこから行動開始しよう」

「はい。それでは私は聞き耳を立ててますね」


__________________________________________



「——————よし。もうそろそろ出よう」


誰もいないことを確認してから天井の板を外し、辺りの様子をうかがう。


しばらく暗闇の中にいたせいか、眩しい。本当はすぐに逃げ出したかったが、目を慣らすのに少し時間がかかってしまった。


外を見るに、もう昼時なのだろう。そのせいか人影は勿論声なども聞こえなかった。


シューミルを引き連れ、離れの出口へと向かう。靴は乱雑に放られて転がっていた。


「裏の方から出よう。馬車は町の入り口に留めてあるはずだから、柵を乗り越えて外から回ったほうがいいかもしれない」


ちなみに、この村の周辺には他に人が住んでいる施設はないので、馬車を捨てて逃げるという選択肢は無い。


しっかりと確認しながら、外へと出る。相変わらず村人が警戒気味に歩いていたが、すぐ近くに柵があったので、安全に村の外に出ることが出来た。


「よし。それじゃあ馬車の方へ向かおう。それと、一つだけ覚悟しておいて欲しいことなんだけど」

「はい。なんでしょう」

「向こうも、俺たちが馬車を必要としていることを知っている。つまり、そこにも見張りがいる可能性があるんだ。それで、そいつらをうまく撒ければいいんだけど、駄目だったら・・・・・戦うことになるかもしれない」


覚悟を決めてほしい、と大仰に言ったが、本当は自分が覚悟を決めたかったのだ。


向こうは自分を殺すか、それに近いレベルの危険に晒そうとしている。


けれど、自分にはそれに対抗しうる決心があるとは断言できない。


生き延びたい。その意志は強くあるはずなのに、いざという時に迷ってしまいそうな気がする。


「・・・・・ご主人様は、優しいんですね」


シューミルが微笑む。すべて、見透かされていた。


「臆病なだけだよ」

「そんなことはないです。無抵抗の人間を殺した私が言うんですから」


その微笑みは、すぐに自虐に歪んだ。シューミルは何かに耐えるように、じっとこちらを見つめている。


「———まあ、その時はその時だ。まずは馬車まで辿り着かないとな」

「はい。そうですね」


馬車の見張りをはがす方法として、一つ策を練っている。


「〈喚命術—暗闇—〉、幽霊(レイス)


前に偵察用に召喚した幽霊を呼び出す。確か最初に魔法で攻撃してきたはずなので、陽動はできるだろう。


指示を出し、馬車から出来るだけ遠い所で放てるだけの魔法を放てと命じる。


しばらくして奥の方から、わっと声が上がる。


「今だッ!!」


馬車の方へ走る。村人はみな向こうに気を取られているようだ。


急いで馬をつなぐ縄を切り落とし、荷台に誰も居ないことを確認して飛び乗る。


馬に鞭打ち、逃走を試みる。


「動いたっ!!」


後は村人に気づかれるまでにここを逃げ切り、気付かれても弓などに注意するだけ・・・・


そう思った矢先。


ゴトンと大きな音を立て、左右の車輪が外れる。どうやら留め具を緩められていたらしい。


「シューミルッ、荷台は諦めるぞっ!」


馬に直接乗れる自信は無いが、もうそうするしかあるまい。


そう思って馬と荷台をつなぐ金具に手を伸ばしたその時。


「私たちも、そう古い手に引っかかるほどバカじゃあないんでね」


そう笑う男と、槍を構えた村人に、ぐるりと囲まれていた。


完全に、罠にはめられたのはこっちの方だった。


この数では、強行突破は不可能だろう。


「それでは、大人しくまた縄について下さい。もう準備は整っていますよ」


一斉に槍を喉元まで突きつけられ、ユートはまた捕縛されるのであった。





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