ぶっ飛んで居酒屋
「へいらっしゃい!!」
私の職場は居酒屋。平日は5時から、休日は4時から深夜2時まで営業している下町の人気店。
「いらっしゃいポリップさん、今日は何食べる?」
「いやー、今日はトゥイちゃんの顔見に来ただけから軽く一杯でいいよ」
「わかりました!じゃあボトル取ってくるね」
私の名前は坂本由佳子、今の名前はトゥイレート・ケイパー。日本から急に現れた一般人で、優しい女将さんに拾われた運がいいやつ。
「トゥイちゃんごはん食べたんね?」
「まだですけどお客さんいるし…」
「ええんよ、ポリップさんもええかね?トゥイちゃん一緒に食べても」
「いいよいいよ、ちゃんとした時間に食べないとキレイなラインが崩れちまうからね」
女将さんは居酒屋を開店したばかりで、人手が足りないからと住み込みで雇ってくれた。初めて出会った時に「トイレットペーパーを探してたら…」という説明を、私の名前だと勘違いしてしまい、やっと言葉が通じた時にはトゥイレート・ケイパーとして皆に知られてしまっていた。なんかもう面倒になったし、トゥイちゃんと呼ばれるのにも愛着がわいてきたこともあって、私はそのままトゥイレート・ケイパーとして過ごしていた。
「いただきます!」
「おや?トゥイちゃんそれ新しいやつかい?」
「そうなの。お肉とケッパの根っことコンニャクを甘く煮たの。名付けて肉じゃが」
この居酒屋は最初はピコピコという名前だったんだけど、ピコピコとは日本でいうウサギのような可愛い生き物のことで…おじさんが多い下町ではあまり親しまれないということで、一緒に考えたのがネコガミヤ。
濁音が気に入られたようで、メニューも日本の居酒屋にあったものに家庭料理を追加して酒のつまみとして大ヒットしていった。
「ポリップさんも食べる?」
「え、いいのかい?ありがとうよ」
うまい!とポリップさんも大絶賛。女将さんはこっちの家庭料理、私は日本の家庭料理と簡単な居酒屋メニューを担当している。
最初は結構こっちの好みの味付けに苦戦したけど、なんとか美味しいをもらえるくらいには。
「じゃあ俺はこの辺で帰るよ。嫁さんに怒られるからね」
「今度は奥さんと一緒に来りゃええね」
「そんなことしたら嫁さんのが常連になっちまうよ!ごちそーさん」
「ありがとうごさいましたーー!」
ポリップさんが帰ると大体11時を回った頃だった。そろそろお客さんが引いて行く頃ですねー、なんて女将さんと話していると、外がガヤガヤと騒がしくなってきた。
「あらまあ珍しいんちがう?」
「ですね、なんだか今月は懐があたたかくなりそうな予感」
「ふふふ、トゥイちゃん…お皿とフォークしっかり準備しといてんね」
「女将さん、もう準備してるよ……へいらっしゃい!!ネコガミヤへようこそ!」
この後2時まで営業のはずが、営業時間を5時までに延ばして延長料金とサービス料と王宮の騎士の方々だったのでチップという気持ちもいただいた。
「トゥイちゃん明日はお休みにするけ、しっかりおやすみね」
「はい女将さん!おやすみなさい」
こういうことがあると次の日はお休みっていうのは、とってもありがたい。
女将さんは地方から来たので微妙な標準語を使うんです。ちょっと訛ります。