<4>
***
町の一隅にある、尖塔の立った教会にゴドリックは訪れていた。彼は教会の最奥、長椅子が整列している内部の終端に置かれた聖像の神の前に拝跪し、祈っているようだった。
その聖像は、天牢教界のシンボルの一つだった。筋骨がたくましい男性の像であり、際立った特徴があって、まず、頭はあるのだが顔がないこと、そして、鉄鎖に繋がれていることだった。神は咎人たち全ての代表者であり、彼が繋がれている鉄鎖は、受難及び、未来の幸福を意味していた。聖像は不気味であり、多くの信者は神に畏怖し、その畏怖が信心を厚くする部分があった。
(天にまします御神よ、わたしが近々雷霆の谷に踏み入ることをどうか許したまえ。これはわたしにとって苦渋の決断であり、仕事のため、到るべき人生の道の終点へと近付くためなのです。)
目を瞑っているゴドリックはそのように敬虔に祈ると、目を開け、立ち上がった。肉体労働に鍛えられてがっしりした体付きのゴドリックに対してさえ、聖像の神は更に大きく、屈強そうだった。
◇
春の麗らかな一日。風は柔らかく、春の花々が方々で笑っていた。
「アレク」、とゴドリックは息子に対して呼びかけた。
アレクは工房のテーブルで椅子にやや猫背になって座り、細かい部品で成る金庫の鍵の内部構造を組み立てているところだった。
彼は作業を中断し、部品を持ったまま、背後で腕組みして立っている父の方へと振り向いた。
「数日間、新しい材料を手に入れるために旅に出る」
「あぁ、そう」
息子にとって、父の遠出は、これといって珍しいものではなかった。彼はよく仕事で使う材料の採取のために、旅行に出た。アレクが幼い頃は、よく伴われていったものだが、修行期間に入った今、彼は工房の作業に専念し、鍛錬しないといけなかった。
「その間、工房のことは頼んだぞ」
「分かった」
アレクは平静にそう返すが、ゴドリックの目には、彼の不安が透けて見えるようだった。アレクはまだ半人前、一人で工房の全てを切り盛りするには、知識も経験も不足しているので、彼が不安になるのは仕方のないことだった。
――母がいれば、息子の励みになったことだろう。だが、母、彼が幼少の頃に、グラウ・タールに降りかかった災害によって不運の死を遂げることになった――グラウ・タールは、一度災害より復興した町だったのである。
アレクに、母の記憶は全くといってよいほどなかった。そのくらい、彼は小さかった。あの災害と彼の母について知り、彼を不憫と思う比較的高齢の町人の多くは、彼に対して同情を寄せていてやさしく、仮に彼が単独でする工房での仕事が多少まずかろうと、あまり厳しいクレームが入ることはきっとないだろう。
***




