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***




 卓上に提供されるのは、ビールが主だった。居酒屋の中は、むさくるしい職人の男が大半だったが、ごくわずかに、シュッとした徒弟と思しき若者が混じっていた。


 日没に近い頃合いだった。日は沈みかけており、店の客は皆、労働に精を出した後だった。ほぼ全ての卓上にビールが提供され、男たちは、黄金色の液体の注がれた木製ジョッキを口元で大きく傾け、その爽快感にクラクラした。


 居酒屋の扉が開き、入ってきたのは、リネンのチュニックを来たゴドリックだった。いらっしゃいませ、と給仕の若い女が迎えた。


 彼は盛況の店内をザッと見渡した後、カウンターに行き、でっぷりした体格の主の男と面と向かった。


「いらっしゃい、ゴドリックさん」


「情報収集がしたい。よそから来た客はいるか?」


「おられますよ。あちらに」


 そう言って、店主は一隅にある、四人がけのテーブル席を目で示した。そこには、小柄で背の曲がった老人と、老人ではないが、白髪交じりの短髪の男が座っていた。彼等は同じテーブルにいるから、仲間同士のようだが、その実たまたま同席した他人同士かも知れなかった。


 ゴドリックは店主に簡便に礼を述べると、ビールを三人分持ってきてくれと注文し、例のテーブルまで向かった。




「ごきげんよう」、とゴドリック。「ここ、よろしいですか」


 そう尋ねられ、来訪者の二人は顔を見合わせ、一瞬だけ迷う様子だったが、了承した。老人の方は、顔に皺が多く、眉毛や髪の毛に焦げ茶色にすすけている部分があった。別の男は、引き締まった体で、表情がキリッとしていたが、一方で堅物そうだった。


 ゴドリックは座ると、彼等に「どちらからお越しになったんですか」、と重ねて尋ねた。


「ヴァイサー・フェルスからです」、と男。


「あぁ、主教様のおられる」、と、既知らしいゴドリックが返す。


「白い石灰岩の山上にあるんだが、来たことはあるかい」、と老人。


「えぇ。一度だけ。ずいぶん昔になりますが……」


 そう返すゴドリックは、(昔、礼拝のために四日ほどかけて徒歩で行き、ずいぶんくたびれたなぁ)、としみじみ回想した。


 ふと、給仕がトレーを運んで来、はきはきした声で「ビール、三つです」、と言った。


 来訪者の二人がきょとんとしていたが、ゴドリックはテーブルに置くように目配せし、ジョッキが全て置かれ、給仕が一礼して去ると、「わたしの奢りです。ぜひ飲んでください」、と勧めた。


「よろしいんですか?」、と男。少し疑わしそうだった。


「えぇ」、とゴドリック。「よからぬ企みなどありません」


 老人は手が早いようで、ゴドリックの勧めの後すぐにビールに口を付けた。


 老人が赤らんだ顔でフゥとため息し、少し酩酊しているようだった。


 彼に続く恰好で、ゴドリックと男もビールを飲み、その後は、三人は和気あいあいと楽しんだ。


ゴドリックは全て勘定するつもりでおり、来訪者に対して、まずは世間話で懐に入り込んだ。アルコールの効果は大きく、ゴドリックはすぐに、彼等と馴染み、彼等が炭焼きと猟師のコンビであることや、その生活の苦楽について聞き知った。


 自分が鍵師であり、日々金属を加工していると話したゴドリックは、仕事が伸び悩んでいると打ち明けた。


「どこかに新種の鉱石があればと思っているのですが、何かありますか?」


 そう聞かれ、二人は渋い顔になって唸った。


「同業者じゃないので、鉱石についてはよく知らないんですが」、と男。「ここから馬を走らせて四日ほど、北の山脈を越えた辺り――つまり雷霆の谷付近で、青く光る石があったと聞いたことがあります。ただ、その時町に立ち寄った旅人のした話なので、信ずるに足るかどうか……」


「青く光る石」、とゴドリックは小さく呟いた。彼の知識に、そういった特徴の石はなかったので、関心が惹かれたが、同時にうさんくさがるところが、ないではなかった。


 老人はすっかり酩酊し、腕組みしてうなだれた格好で、うわ言を口走って、寝かかっていた。


 確かに、ゴドリックは興味を持ち、噂の石が果たして実際にあるかどうか、また、あったとして、仕事の進展に寄与するのかどうか、定かではなかったけど、頭打ちの今、信じてみる価値はありそうだった。


 ただ、ゴドリックにとって、(また、天牢教界の主教がいる町の住民である男にとって)、話に出たその旅人が、不可侵の禁足地とされている雷霆の谷のそばまで行ったらしいことは確実であり、気になることだった。


「雷霆の谷は神聖なのだ!」、と寝かかっているはずの老人が突然声高に叫び、拳をテーブルに打ち付けた。ジョッキが少し跳ね、店内の客、店員、店主が皆振り向いた。


「神は怒っておられる! 我々はまごころの贖罪と来世に広がる無限の幸福のために貞節に生きねばならんのだ!」


 老人の目はらんらんと輝いていた。「そうだ」、と共鳴する反響があれば、白い目で見ている者がいた。


 老人はその後しゃっくりすると、帰るとベロベロの口調で言い、一人立ち上がり、仲間の男は少しオロオロして遅れて立ち上がり、ゴドリックに感謝すると、後を追う恰好で退店した。




***

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