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ハズレスキル《帰り道》しかないF級探索者、遭難したS級パーティを全員連れて帰ったら救難依頼が殺到しました  作者: 忘却の筋肉痛


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第72話 探索者じゃない人たち

六人を見つけたからといって、すぐに動けるわけではなかった。


班長が一人ずつ状態を確認し、現地の救難員が足をぶつけた男性の様子を見る。腫れはあるものの、歩けないほどではないらしい。


「少し痛みますけど、大丈夫です」


男性が言った。


「大丈夫かどうかはこちらで確認します。靴を脱げますか?」


「はい」


救難員が足首を確認している間、俺は残りの五人を見る。


全員、作業服姿だった。


ヘルメットやライト、安全帯などの装備は身につけているが、探索者が持っているような武器はほとんどない。一人が短い警棒のようなものを腰につけているくらいだ。


神代さんも同じところを見ていたらしい。


「戦闘用の装備は?」


六人の中で一番年上に見える男性が答えた。


「ありません。簡単な護身具くらいです」


「普段も?」


「はい。ここへ入る時は護衛の探索者についてもらいます。俺たちは設備を見るのが仕事なので」


男性は岸本さんと名乗った。


今回の点検班の責任者らしい。四十代半ばくらいで、作業服の胸には設備管理会社の名前が入っている。


「魔物が出た場合は?」


神代さんが聞く。


「基本的には護衛の指示に従います。避けられるなら避ける。無理なら作業を中止して戻る。それが決まりです」


「片桐さんと石倉さんが、その護衛ですね」


「はい」


岸本さんの表情が少し曇った。


「二人とも、俺たちを戻すために先へ行ったんです」


班長が地図を広げる。


「その時のことを詳しく聞かせてください」


六人が地図の周りへ集まり、俺も横から覗き込んだ。


「最初に異常があったのはどこです?」


岸本さんが第四層の中央寄りを指した。


「この辺りです。第四管理通路を西へ進んでいました」


「何の点検を?」


「非常扉と通信中継器、それから閉鎖後も残す予定の排気設備です」


岸本さんが指を動かす。


「ここまで来たところで、奥からかなり大きな音がしました」


「崩落?」


「そうだと思います。ただ、俺たちのいる場所からは見えませんでした」


「片桐さんたちは?」


「二人で確認へ行きました。俺たちには、その場で待てって」


別の設備員が口を開く。


「しばらくして片桐さんから通信が入ったんです。『戻るな、東へ回れ』って」


「理由は?」


「途中が崩れてるって言ってました。それから通信が乱れて……」


岸本さんが続けた。


「俺たちは言われた通り東へ回ろうとしました。でも、その先の防火扉が閉まっていて通れなかったんです」


「それで別の道へ?」


「はい。保守用の通路を使いました。ただ、閉鎖準備で使えなくなっている場所が多くて、何度か戻るうちに位置が分からなくなりました」


なるほど。


六人がここまで来た流れが、ようやくつながった。


護衛二人が崩落を確認し、六人を別方向へ逃がす。設備員たちは迂回しようとしたものの、閉鎖準備で使えない通路が増えていて迷い、その途中で護衛二人との通信も切れた。


「最後に片桐さんたちと話したのは何分前です?」


班長が聞く。


「一時間半くらいです」


「そのあと一度も?」


「ありません」


神代さんの表情が少しだけ険しくなる。


一時間半。


C級探索者が二人なら、すぐ危険な状態になっているとは限らない。


それでも、長い。


俺は地図を見る。


「最後にいた場所は、この辺で合ってます?」


「はい。ただ……」


岸本さんが迷うように地図を見る。


「この地図だと、少し違うかもしれません」


班長が顔を上げた。


「どういう意味です?」


「この第四管理通路、今は途中の構造が変わってます」


岸本さんが地図の一か所を指した。


「去年、排気設備を交換した時に壁を一枚抜いて、保守通路とつないだんです」


現地の救難員が地図を見る。


「俺たちの地図にはない」


「管理会社側の設備図にしか入ってないと思います」


岸本さんが自分の端末を取り出した。


電波は弱いが、内部に保存されている図面は見られるらしい。


画面に表示された図は、俺たちが持っているものよりずっと細かかった。配管や電線、非常扉、搬送設備など、一般の探索者ならほとんど気にしないようなものまで書き込まれている。


「すごいな」


俺が言う。


「俺には何が何だか」


岸本さんが少しだけ笑った。


「俺たちは逆です。探索用の地図を見ても、魔物の出やすい場所なんかは分かりませんから」


確かに、同じダンジョンでも見ているものが違う。


探索者は通路や階段を見る。


救難員は搬送できるか、危険があるかを見る。


設備員は、その壁や床の向こうに何が通っているのかまで見ている。


「この通路です」


岸本さんが画面を拡大した。


「片桐さんたちが崩落を確認しに行ったなら、たぶんここまで進んでると思います」


「理由は?」


神代さんが聞く。


「ここに非常遮断弁があります」


「遮断弁?」


俺が聞く。


「配管を止めるための設備です。崩落で配管が壊れていたら、まずここを確認するはずです」


「片桐さんたち、設備のこと分かるんですか?」


「全部じゃありません。でも、護衛で何度も一緒に入ってます。危険な時に触っちゃいけない場所くらいは教えてあります」


岸本さんはさらに先を指した。


「それに、この区画は通信が弱いんです」


「元から?」


「はい。中継器を撤去する予定だったので、出力を落としてあります」


班長が地図を見る。


「じゃあ、通信が切れたからといって、二人に何かあったとは限らない」


「そうです」


岸本さんはすぐに答えた。


「この辺に入っているなら、通信が切れるのは珍しくありません」


六人の表情が少しだけ変わった。


安心したわけではないだろう。


それでも、通信が切れた理由として別の可能性が見えただけで、少しは違うはずだ。


俺もわずかに気持ちが軽くなった。


「相馬さんに送れます?」


班長が聞く。


「設備図ですか?」


「はい」


岸本さんが操作する。


「通信が弱いので時間はかかると思いますけど」


「送れる範囲でいいです」


その間に、足を痛めた男性の処置も終わった。


軽い打撲と捻挫の可能性があり、歩けるものの無理はさせないほうがいいという判断だった。


班長が六人を見る。


「皆さんは、いったん地上へ戻ってもらいます」


すぐに岸本さんが反応した。


「待ってください」


「何です?」


「俺たちも行きます」


予想はしていた。


神代さんが岸本さんを見る。


「護衛のお二人を探しに?」


「はい」


「それはできません」


答えは早かった。


岸本さんが少し言葉に詰まる。


「でも、場所なら俺たちのほうが分かります」


「設備に詳しいことと、捜索に同行して安全かどうかは別です」


神代さんの言い方は強くない。


でも、はっきりしていた。


「今は護衛がいない状態で六人がここにいます。さらに一人は足を痛めています。このまま捜索に連れていけば、守る人数が増えます」


岸本さんは何も言わなかった。


俺も同じ意見だった。


設備のことは確かに詳しい。


でも、魔物が出る可能性のある場所で六人を守りながら捜索するのは難しい。


「じゃあ、この図面だけで分かりますか?」


岸本さんが聞く。


班長が答える。


「できる限り使います」


「でも、現場で見ないと分からない設備もあります」


「それでもです」


「片桐さんたちは俺たちのために――」


岸本さんの声が少し強くなった。


その時、相馬さんから通信が入る。


『聞こえてる』


班長が通信機を取った。


「はい」


『設備図も来た。まず六人を帰せ』


岸本さんにも聞こえるよう、班長が音量を上げる。


『護衛二人を探すために、戦えない六人を連れ回す理由はない』


岸本さんが唇を結ぶ。


相馬さんは続けた。


『ただし、設備の情報は必要だ。岸本さん』


「はい」


『地上へ戻ってから通信に入ってもらえますか』


岸本さんが少し驚いた。


『現場の図面を見ながら、こっちと捜索班へ設備情報を出してほしい』


「俺が?」


『あなたたちの仕事なんでしょう。この設備を見るのは』


岸本さんは少し黙った。


「……はい」


『なら、そこで仕事をしてください』


相馬さんらしい言い方だった。


助けられる側だから何もするなとは言わない。


でも、危険な場所へ一緒に連れていくわけでもない。


できる場所で、必要なことをしてもらう。


岸本さんがゆっくり頷く。


「分かりました」


ほかの設備員たちも、それ以上は反対しなかった。


班長が俺を見る。


「久世さん。帰還路は?」


俺は足元の光を確認する。


「ここから北へ出て、そのあと東です」


「来た道じゃないな」


「はい」


《帰り道》は、俺たち十一人が地上へ戻る道として別の通路を示している。


現地の救難員が地図を見る。


「こっちか。旧第二連絡通路だな」


岸本さんがすぐに画面を見る。


「待ってください」


全員が止まった。


「そこ、今は通れないかもしれません」


俺は足元の光と岸本さんを交互に見る。


「でも、《帰り道》はこっちです」


「通路自体はあります。ただ、途中の手動扉を閉鎖準備で固定したはずです」


「固定?」


「完全封鎖ではありません。作業員が開けられるようにはしてあります。ただ、通常の開閉装置はもう切ってます」


班長が聞く。


「どうやって開ける?」


「手動解除です。工具が必要です」


設備員の一人が自分のバッグを持ち上げた。


「あります」


俺は少し驚いた。


「持ってるんですか?」


「点検に来てるので」


言われてみれば当然だった。


岸本さんが言う。


「俺たちが開けます」


神代さんが班長を見る。


今度はすぐに止めなかった。


捜索へ同行させる話とは違う。


地上へ帰る途中にある設備を、自分たちの専門知識で開けてもらうだけだ。


班長も少し考えてから頷いた。


「お願いします。ただし、作業中はこっちの指示に従ってください」


「もちろんです」


俺たちは移動を始めた。


先頭に現地の救難員。その後ろに設備員たちが続く。


足を痛めた男性は中央に入れ、左右を二人が支える。神代さんは後方につき、俺は《帰り道》を確認しながら進んだ。


少し歩くと、光は古い連絡通路へ入っていく。


そこには岸本さんが言っていた通り、大きな手動扉があった。


操作盤は消え、『使用停止』の札もついている。


「これです」


岸本さんが前へ出る。


班長が周囲の安全を確認してから、作業を許可した。


設備員二人が工具を取り出す。


「右側、押さえて」


「分かりました」


慣れた手つきだった。


俺には何をしているのか、ほとんど分からない。


神代さんも黙って見ている。


数分後、扉の内部から重い音がした。


「解除できました」


「開けます」


二人が力を合わせると、扉がゆっくり動き始めた。


俺は足元を見る。


《帰り道》は、その向こうへ続いている。


「こういうの、俺たちだけだったらどうしてたんだろ」


俺が言う。


現地の救難員が答える。


「別のルートを探しただろうな」


「遠回り?」


「たぶん」


岸本さんが扉を押さえながら言った。


「俺たちだけだったら、この道が地上へつながってるなんて分かりませんでしたけどね」


俺は少し笑った。


「お互い様ですね」


扉を抜ける。


設備員たちが最後に固定を戻し、俺たちは先へ進んだ。


この人たちは探索者ではないし、魔物と戦うこともできない。


それでも、俺には開けられない扉を開けられる。俺には読めない設備図を読み、護衛二人が向かった可能性の高い場所も、設備の使い方から考えることができる。


救難所で瀬川たちと話していたことを思い出した。


誰が上なのかではない。


その時、何が必要なのか。


相手が探索者でなくても、それは同じらしい。


第三層へ上がったところで、地上から通信が入った。


『こちら相馬。護衛二人について追加情報が出た』


班長が立ち止まる。


「お願いします」


『岸本さんからもらった設備図と、最後の通信位置を照合した。二人が向かった可能性が高いのは、第四層西側の旧排気管理区画だ』


岸本さんの顔が変わった。


「やっぱり……」


相馬さんが続ける。


『ただし、通常通路からは崩落箇所を通る。別の入り方を探してる』


岸本さんがすぐに言った。


「あります」


班長が振り返る。


「何が?」


「別の入り方です」


岸本さんは端末を開いた。


「旧排気管理区画なら、第五保守路から裏へ回れます」


「通れるんですか?」


「普通の地図には載ってません。設備用の通路です」


相馬さんも聞いている。


『どこから入る』


岸本さんが地図を示した。


「第四層の東側です。ただ……」


そこで少し言葉が止まる。


「どうしました?」


俺が聞く。


「入口の設備は、もう停止してます」


また設備だった。


「入れない?」


「いえ」


岸本さんは首を横に振った。


「開け方は分かります」


俺たちは一度、顔を見合わせた。


さっきまで助けられる側だった人が、今度は護衛二人を探すための道を教えようとしている。


相馬さんが通信越しに言った。


『分かった。まず六人を地上まで帰せ。話はそれからだ』


「了解」


班長が答える。


俺も《帰り道》を確認した。


光は変わらず、地上へ続いている。


まだ二人を探しには行けない。


今やるべきことは、六人を確実に地上へ帰すことだ。


でも、そのあと向かう場所は見えてきた。


護衛二人がいるかもしれない、旧排気管理区画。


そして、そこへ入る方法を知っている人もいる。


俺たちは六人を連れて、地上へ向かった。

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