Ⅴこの件は、後に『水専銃滅事件』として噂される
私は中庭で、地に伏した人々に囲まれて立っていた。
私の思いはただ一つ。
──やり過ぎちゃった。
遡ること約10分。
中庭に到着した私は、不安そうな副会長に顔を覗き込まれた。
「本当にやるのか?」
「はい!今日は暑いのでピッタリですよね」
「そういう意味ではないんだが……まぁいい」
副会長は中庭で訓練をしていた水専の生徒たちに向けて、声を張り上げた。
「注目!!ここにいる編入生、プラム・トパーズ嬢の実力を見たい。皆、手伝ってくれないだろうか?詳しくは彼女から」
生徒たちはどこか不満気に動きを止め、私に注目した。
私はそんな生徒たちを余裕綽々に見て、口を開いた。
「2年B組、プラム・トパーズと申します。副会長に水専は寄せ集めでなってないとお聞きしましたので、勝手ながら水系属性専攻科長補佐に立候補させていただきました」
「補佐──!?」
「何を言っているの……」
生徒たちは皆、訝しげに私を凝視している。
嘘だとでも思っているのかしら?
「ですが、わたくしは1週間前に入学してきたばかりの信用おけない身。わたくしが補佐にふさわしいことを副会長に証明するため、この場で水専全員を片付けることになったのです」
片付ける、つまり水専全員を倒すということだ。
サボり魔ばかりの水専でも全員がサボり魔ということはないだろう。
そんな優秀な者を倒せるかはほぼ賭けなんだけど……副会長の目の前で大見得をきってしまったので、しょうがない。
そう考えていると1人の生徒が前に出てきた。
「そんなの、イカサマでもする気だろ!」
なんて酷い言いがかりなんでしょう。
私は無礼を承知で彼に一歩近づき、淡く嘲笑を浮かべた。
「あなたもサボり魔?簡単だから、サボれるからなんて理由ではここにいられなくしてあげますから、覚悟しておいてくださいね」
図星だったのか言葉を失って佇む生徒を無視して、私は声高らかに宣言した。
「もちろん皆さんが私を倒せたならば補佐の座は譲りましょう。ほら、女性ならば将来有望な次期ブルーム伯爵にアプローチし放題、男性ならば生徒会役員に取り入って爵位を上げることも夢ではないわ。しかも私が使うのはこの、魔術を弾にできる水鉄砲だけ、皆さんはどんな強力な魔術を使ってもいいのです」
勝つ未来が見えてきましたよね?、と告げると生徒たちの空気が変わった。
「ブルーム様の婚約者に……!」
「俺が、侯爵に……!!」
ちゃんと彼らの『欲』を刺激できたみたい。
少しは勝率上がったかなぁ……。
私は黒光りする水鉄砲を整える。
そして、誰にも気づかれないように胸に手を当てた。
そこには私の使い魔である、神々の依代が入っている。
私はその中のひとつである、黒の蛇の折り紙へ呼び掛けた。
「ちょっと演算手伝って、蛇呑」
『しょうがないな』
四神・玄武の片割れ、亀遠の相方である蛇呑は演算能力に長けており、1度詠唱すれば一定時間連続して同じ術が使えるのだ。
しかも今回使うのは、陰陽道ではないが同じ水属性の魔術なので効果は絶大なはず。
私は水鉄砲に向けていた視線を上げ、前を向いた。
「使う魔術は一回当たれば5分間眠ってしまう『眠りの水』。もし起きてもさっさと場外に出てくださいね。それでは──どうぞ来てください」
水専の生徒たち50人以上が私の一挙手一投足に注目している。
だが、誰1人私に襲い来ようとはしない。
「来ないのならいきますよ」
手短に終わらせないと副会長に認めてもらえなさそうだしね……。
「美しく尊い女神様、我に神の力を──跳躍力上昇」
乗り込んでやりますよっと!!
足をバネにして大きく跳ぶ。
男性の身長をも軽く超えたところで私は水鉄砲を構えた。
「水の精霊王フォルテピオジェよ、美しく尊い女神様我に力を──」
「水よ、我に力を──球!」
私の詠唱中に1人の生徒が短期詠唱で私を狙う。
しかし、私は水の球を避け、銃口を彼に向けた。
「眠りの水」
1発の銃声、速度の増した水の弾が生徒の肩に直撃し、倒れ込んだ。
生徒たちが息をのむ。
私が発動させた『眠りの水』は神属性と水属性魔術の複合術式。
一朝一夕では身に付かない術式なのだ。
少しは副会長にアピールできたかな?
生徒たちの緊張がピリピリしてきた中、1人の生徒が私へ突っ込んできた。
その身には防御結界が張られている。
「蛇呑、『透過』を付属させるよ」
『はーい』
私はさらに結界を透過する術をかけていく。
「美しく尊い女神様の知をお借りします──透過」
「防御していれば当たらないぞ!!」
彼の嬉々とした声を無視し、引き金を引く。
銃声の後、倒れた彼を一瞥すると、私はまた蛇呑に話しかけた。
「強い奴あぶり出すから『乱射』するね」
『さっさとおわらせて』
了解。そう呟いて、私は銃口を天に向ける。
「美しく尊い女神様の知をお借りします──乱射!!」
銃口から1発の水の弾が飛び出すと、それはみるみる内に膨張し、空中で爆発した。
無数の水が生徒たちを襲い──
立っているのは私だけとなったのだった。
うん、やり過ぎちゃった。
『いなかったね、つよいやつ』
こんなはずじゃ……とおろおろしていると、パチパチと拍手の音が聞こえた。
「すごいわー、水属性の『弾』と神属性の『眠り』と『透過』に『乱射』まで!四重複合術式でうちの生徒を一網打尽なんてー。『五惑星』並みじゃない、ねー?」
ゆっくりと歩いてきたのは、私よりも背の低いプラチナピンクの髪の女性。
制服だが紅に金の刺繍の入った羽織を着ている。
そう、蔦模様の。
蔦の刺繍が入った装飾品は、魔術師の証。
色で位が分かり、副会長のマントの赤の刺繍は上から5番目。学園在学中に得られる最高位だ。
そして金の刺繍は、世界で最も位の高い魔術師しか身につけられないもの。
それこそ『五惑星』や『陰』のようなよほど優れた者にしか与えられない──。
「学園長様!?」
私から少し離れた所に立っていた副会長が慌てふためきながら、頭を下げた。
私も次いで頭を下げる。
「久しぶりだねー、アメリくん。でも、あなたは知らなーい。あなたの名前はー?」
「今年度から編入してきました、2年プラム・トパーズと申します」
ゆったりと独特のリズムで話す学園長様にドキドキしながら答える。
あー!あのすごい子ねー!と彼女は納得し、何故かにっこり笑った。
それはまるで何か良いことを思いついたような……。
「私はねー、ムーンライト・プルトーネ。元『五惑星』の『冥王星の魔女』で、この学校の学園長やってるのー。早速だけどプラムちゃん、生徒会入らなーい?」
「──はい?」
魔術師の歴史にも名を残す『冥王星の魔女』の爆弾発言に、またもや場は静まり返ったのだった。
学園長様は時々、散歩と称して『学園』で見所のある生徒を探しています。
教師なのに制服なのは、一目で学園長だとわからないようにするためです。
決して趣味ではございません。




