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18 悪女の末路

 ラファエル王太子に見初められ、彼の帰国と共に意気揚々とマハラ王国へとやって来たジュディスは、そこで衝撃的な事実を知り、言葉を失った。


 豪華なお城の広間に通されたジュディスであったが、彼女を待っていたのは自分の他に妻と名乗る10人の女性達の存在であった。


「そんなっ……! これは一体どういうことですか殿下!? 」


 ジュディスは玉座で悠々と女性達に囲まれているラファエルに向かって、叫ぶように問いかけた。


「はて、ヨナスから聞いていなかったのか? この国の王族は一夫多妻制が認められていてな。お前は余の11番目の妻となったのだ」

「11番目ですって……!? この私が? 」


 あまりの扱いにジュディスが怒りにワナワナと肩を震わせる。

 そんなジュディスの様子をラファエルは両隣に妻を侍らせながら楽しそうに眺めていた。


「そうだ。余に気に入られるように日々精進せよ。世継ぎを産むことが出来れば、お前の大好きな地位とやらも上がるやも知れぬぞ」

「そんな……」


 ジュディスはラファエルの周りを取り囲む女性をぐるりと見回した。

 どの女性も世界中から集められた絶世の美女揃いで、ジュディスが霞むほどの個性に溢れていた。


「ラファエル様ったら、何ともつまらない女性を連れてきたのですね。サファイアの瞳以外取り分け秀でた所が見当たりませんわ」


 ラファエルの右隣に座る長い黒髪、紫目のオリエンタルで妖艶な美女が、ジュディスに憐れみの視線を向けた。


「何ですって!? 」


 生まれて此の方、容姿について馬鹿にされたことのないジュディスは顔を真っ赤にし、その美女に向かって怒りを顕にした。


 クスクスと周りから嘲笑の声が聞こえる。


 ジュディスは耐えきれず、その場から逃げ出した。


(ふざけないで! どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの!? )


 ジュディスは広大な城の一角で自分に宛てがわれた棟に籠ると、父親であるヨナスに急ぎの文を送った。


【お父様、私はラファエル王太子の11番目の妻となりました。この国は一夫多妻制だったのです。お父様はそれを承知で私にこの結婚を勧めたのでしょうか? マハラ国での私に対するあまりの扱いに私は耐えられません。どうか、私を自国へと戻して下さい】



 ジュディスの文にヨナスは直ぐに返事を寄越した。


【親愛なるジュディスへ


 私の自慢の娘が11番目の妻だという事実をお前の手紙で知って、私も妻もとても胸を痛めている。今すぐにでもお前をこちらに呼び戻してあげたいが、今やお前はこの国で最も悪名高い令嬢となってしまった。こちらに戻ったとしてもお前にはもう良縁は期待出来ないだろう。いや寧ろ、修道院行きしかお前の進む道は残されていない。それならば、マハラ国王太子の11番目の妻でいる方がお前にとっては幸せなことなのではないかと私達夫婦は結論を出した。お前のこの先の幸せを祈っている。


  ヨナス・オーディール】



「そんな……」


 ヨナスの手紙の内容にジュディスは愕然とし、その場に崩れ落ちた。



 ジュディスが嫁いだ数ヵ月後。

 ラファエルに世継ぎが誕生し、国を挙げての祝祭が盛大に執り行われた。


 当然、世継ぎを産んだのはジュディス以外の妻だった。


 結婚後、ラファエルがジュディスの棟を訪れることは一度もなく、ジュディスのプライドは粉々に砕かれた。


 ラファエルの寵愛すら受けられないジュディスは、いつしか酒に溺れるようになり、彼女の自慢の美貌は見る影もなくなった。



 その後ジュディスがどのような生涯を送ったのかは誰も知らない。




 * * *


 

 冬が終わり、暖かい春の陽射しが荘厳な教会を柔らかく包み込むように照らしていた。


 厳粛な雰囲気の中、パイプオルガンの音と共に重厚な扉がギィと音を立て開かれると、父親であるヨナスのエスコートと共に純白のウェディングドレスに身を包んだオフィーリアが姿を現した。

 

  教会で花嫁を待ち構えていた招待客達は、オフィーリアの花嫁姿を目にすると、一様にうっとりと感嘆の溜め息を漏らした。


「何て、美しいのでしょう」

「白のドレスを着たオフィーリア様の清楚で可憐なお姿は、まるで春のエルフのように見えますわ」「本当に。エドガー様が彼女に夢中なのも納得ですわね」


 バージンロードを歩きながら、オフィーリアの耳に招待客達の話し声があちこちから聞こえ、オフィーリアは恥ずかしさにうっすらと頬を赤く染めつつ、祭壇の前に立つ白いタキシード姿のエドガーを見つめた。


 エドガーはオファーリアの登場後、彼女から一度も視線を逸らすことなく、瞬きするのも惜しい様子で、じっと熱い眼差しを向けていた。


 ヨナスとオフィーリアが祭壇の前に到着すると、オフィーリアはヨナスから腕を離し、エドガーの左側に並んで立った。



 エドガーはオフィーリアの手をそっと取り、向かい合うと我慢できずに声を掛けた。


「とても綺麗だ、オフィーリア。純白のシンプルなウェディングドレスがこんなに美しいものだとは知らなかったよ」

「……以前に着たドレスは豪華過ぎて私には全く似合っていませんでしたものね。あの時は、エドガー様もずっと険しい表情をされていたのを覚えています」

「――っ!? あの時は、その、本当にすまなかったと思っている。……今度こそ心から神の前で君に愛を誓うよ」

「ふふ、はい」


 エドガーの彼女へのひたむきな愛情と献身の甲斐もあって、オフィーリアはゆっくりとだが、記憶を取り戻していった。

 そして、『もう一度最初からやり直そう』と言ってくれたエドガーの誠実な気持ちに答えるように、彼女もまた、ずっと抑え続けていた自分の本当の姿を素直にエドガーへと吐き出すようになっていった。

 エドガーはオフィーリアの新しい一面を発見する度に、胸をときめかせ、ますます彼女に惹かれていった。


「ゴホン――。誓いの言葉を捧げるのは私の話を聞いてからでお願いします」


 最早二人だけの世界になりかけていた空気を、祭壇に立つ神父が遮断した。


「あ、申し訳ありません……」

「オフィーリアが謝る必要はない。悪いのはこの私だ」

「ゴホン――。もう、いいから始めますよ」


 神父の合図で、ようやく止まっていた結婚式が再開する。


「汝エドガー・アーバンはオフィーリア・オーディールを妻とし、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」

「汝オフィーリア・オーディルはエドガー・アーバンを――――」




 こうして二人は二度目の神の祝福を受け、改めて夫婦となった。


 結婚式の夜、エドガーはあの夜以来、初めてオフィーリアの寝室を訪れた。

 二人はその日、一滴もお酒を口にしなかった。

 そして遂に二人はようやく心から結ばれた。




* * *



 エドガーは騎士団(いち)の愛妻家として有名となった。

 訓練後、誰よりも早く帰るエドガーのあまりの変わりように、同僚のアーノルドはいつも苦笑いを浮かべて彼をからかった。



 オフィーリアは最近少しずつ太り始めてきた身体を気にするようになっていた。

 食べなければ、エドガーが人目を(はばか)らずオフィーリアを膝の上に乗せ、無理矢理「あーん」と食事を食べさせてくるので、それを恐怖に感じたオフィーリアは、彼の前ではしっかりと食べるようになった。

 その様子を見て、エドガーが「食欲が出てきたのだな、良いことだ」と嬉しそうに微笑む様子に、密かにオフィーリアは怒りを覚えたが、流石にそれを口に出すことはなかった。

 何故なら、彼には全く以て悪気はないのだとオフィーリアは知っていたからだ。


 オフィーリアは、呆れながらも確かな愛情をエドガーに感じていた。少し位太ったとしても、きっとエドガーはそれすらも喜んでくれそうだ、とオフィーリアは困ったように微笑んだ。



 この時既に、オフィーリアが妊娠していたと知るのはもう少しだけ先の話となる。



*Fin*


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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