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LONG☆LONG☆AGO 2

 螺合剛(らごう つよし)(19)が、この武尊流道場の門を叩いたのは今から6年ほど前の事だった。

 彼が武の道を志したきっかけは、ここの道場の師範代の一人娘、御剣涼(みつるぎ りょう)の稽古姿に一目惚れしてしまったから。


 彼女の流れるような体捌きと、息を呑むほどの型のキレ、そしてその凛とした美しい横顔に心を奪われてしまった剛少年は、その日から武尊流(むそんりゅう)の門下生となり、以来、雨の日も風の日も道場に通い誰よりも熱心に稽古に励んだ。


 というのも彼の意中の人である涼は、父親である師範代から度々お見合い話を持ち掛けられるたびに「自分が嫁ぐとすれば、自分より強い相手だけだ」と公言して憚らなかったからである。

 強くなりさえすれば顔の悪い自分でも涼と結婚できるかもしれないというその思いが、彼を厳しい稽古へと駆り立てた。


 だが涼は師範代すら認めるほどの武尊流の使い手。実力で言えば、師範代すらも超える免許皆伝の達人だった。

 彼女を娶ろうと今まで何人もの猛者が道場を訪れては、彼女に決闘を申し込んだが、レベルアップした探索者が相手であろうと涼は一歩も引かず、挑んできた全ての相手を実力で叩きのめしてみせた。


 始めは身体も弱くその見た目のせいで他の門下生たちから随分と侮られていた剛だったが、「強すぎる姉弟子」を倒す事を目標に腐ることなく誰よりも努力を重ねた結果、いつしか彼は道場でも2番目に強い男になっていた。


 そんな彼のひたむきな努力は周囲の者たちからの評価も変えて行き、とうとう最近では師範代からも「娘を倒せる可能性があるとすればお前以外にはおらぬ」とまで言わしめたほどである。



 そんな、ある日のこと。



 それまでアルバイトで生計を立てていた彼は、元々探索者を目指していた事もあって、春の法改正を機に探索者資格を取りに行った。

 そして無事に資格を取得し、訓練を終えて2週間ぶりに道場へと足を運ぶと……道場が特殊ダンジョンと化していた。


 慌てて飛び込んでみれば、そこは特殊な条件下でボスとの連戦を強いられる闘技場となっており、師範代と姉弟子含む門下生たちは全員石像に変えられて闘技場を飾るオブジェになっているではないか!


 入り口の先は闘技場のフロントになっているらしく、そこの電光掲示板で確認できたという特殊ルールは次の通り。


 1、レベル30以下の者が5人揃わないと挑めない。


 2、ダンジョン内に持ち込める装備のレア度制限。


 ・上級以上の装備 1セットのみ持ち込み可。

 ・中級装備 2セットまで持ち込み可。

 ・下級以下の装備 制限なし。


 3、回復アイテムの持ち込み制限。


 ・上級以上のポーション 持ち込み不可。

 ・中級ポーション 1本まで持ち込み可。

 ・下級以下のポーション 制限なし。


 ルールを無視してボスとの連戦に挑もうとした剛だったが、レベル30以下の者が5人揃わなければ挑めないという条件を満たしていなかったため、不思議な力でダンジョンの外へと弾き飛ばされてしまったのだった────。





 ……というのが、俺たちが目の前の激眉モジャモジャしゃくれ男、螺合剛からどうにかこうにか聞き出した今までの経緯である。

 あんまりにも活舌(かちゅぜちゅ)が悪くて聞き取るのにもの凄く苦労した。


「オレはなんとしても姉弟子を(たしゅ)けたいッ! だがッ、オレ1人ではダンジョンに挑む事しゅらできない……ッ! だからッ、君を……否ッ、あなたを1人の武人と見込んでどうかお願いしゅるッ! どうかッ、どうかオレと一緒に姉弟子たちを(たしゅ)けてくれないかッ!?」


 俺の手を取った螺合さんが、その濃すぎる顔面をずいっと近づけてくる。


「……一つ、聞かせてください。俺のほかに、メンバーのアテはあるんですか?」


「……無い。オレは中卒(ちゅうそちゅ)だし、今までじゅっとここで修業ばかりしてきたから、道場の人間以外の知り合いは殆どいないんだ……。だから、メンバーは1から(あちゅ)める事になる」


 俺の質問に彼は俯き、アゴをさらにしゃくれさせる。


「でもッ! どれだけ時間が掛かっても、メンバーは絶対に(あちゅ)めてみしぇるッ! だから……ッ、だからどうか手を貸してほしい……ッ。この通り!」


 彼はその場に跪くと、地面に額をこすりつけんばかりに頭を下げる。

 愛する人のためとは言え、見ず知らずの俺に土下座までするとは。どうやら彼の覚悟は本物らしい。


 そして俺は、そんな彼の熱意にすっかり心を動かされていた。

 ある日突然ダンジョンの出現で家族や恋人を失ってしまうなんて話は、それこそ交通事故や突然の病気と同じくらいありふれた悲劇だ。


 だが助けられる可能性が残されており、それをできるかもしれない力があるのなら、見捨てる事などできるはずもない。


「……わかりました。俺でよければ強力させてください! 幸い、メンバーのアテはありますから、俺たちで門下生たちを解放しましょう!」


「な、なんとッ!? 手伝(てちゅだ)ってくれるのか!? ありがとう……ッ! 本当にありがとうッ!」


 俺の言葉に感極まった螺合さんが涙を流しながら俺の手を固く握りしめる。


「……で? そのアテの中には僕も含まれてるって事でいいのかい?」


「当然だろ? 頼りにしてるぜ、変身ヒーロー!」


「君が一度言い出したら絶対に曲げないのは僕も知ってるからね。わかった、手伝うよ」


 と、そんな俺たちの様子を後ろからずっと見ていたマックスが、ため息交じりに頷いた。


「おおっ! 君も手伝(てちゅだ)ってくれるのかッ! ……しかし、こう言うのは失礼(しちゅれい)とは思うが、君はあまり(ちゅよ)しょうには見えないのだが?」


「問題無いよ。『変身』っ!」


 マックスの掛け声を合図にして、シャツの下に隠すように巻いてあったベルトが光り、マックスのぽっちゃりボディが光に包まれる。

 瞬き程の時間で変身が完了すると、そこにはカッコいいプロテクターとマスクを着けた、やっぱりぽっちゃりボディの白いヒーローの姿が。


 うんうん、ようやくベ●マックスから●●ライダーに近づいてきたな。まだちょっと太いけど。


「この姿でいられるのは1日に3分間だけだけど、それでも3分もあればボスの1体くらいなら楽勝だよ」


「しょ、しょうなのかッ!? しょれは頼もしいなッ!」


 螺合さんが変身を解いたマックスの手をがっしりと握り、よろしく頼むと頭を下げる。

 さて、これで3人。残る2人は当然、()()()()に頼むつもりだが、果たして引き受けてくれるだろうか……?




 ◇ ◇ ◇




 土曜日のこの日、花沢さんの部屋にそれぞれ個性豊かな装備を身に着けた4人の探索者が集まった。

 ニンジャの俺、魔法使いの花沢さん、銀ピカ女剣士のミカ子、そして……


「オレは螺合剛ッ! 歳は19だが、気軽に(ちゅよし)と呼んでくれて構わない。敬語も不要だ。よろしくおねがいしましゅッ!」


 激眉しゃくれ武闘家の(ちゅよし)。この4人である。

 2人には事前に彼の外見的な特徴は伝えていたが、実物のインパクトはやはり凄まじかったのか、2人とも口をぽかんと開けて固まってしまった。



 剛と出会った翌日、花沢さんとミカ子に彼の事を話した俺は、2人に道場ダンジョンの攻略を手伝ってくれないかと頼んだ。


 するとミカ子は元々、俺たちにレベル上げに付き合ってくれないかと相談する気だったようで、渡りに船とばかりに二つ返事で了承してくれた。

 どうやら林間学校の時に何もできなかったのが相当悔しかったらしい。


 ミカ子が今着ている装備も父親に相談したら「好きに使っていいよ」と了承を得られたらしく、今後はこれをメイン装備としてダンジョンに挑むようだ。


 花沢さんもしっかりと全員のレベルを上げて、アイテムなどの準備も可能な限り整えてから挑むつもりだときちんと方針を説明したら、それならとOKしてくれた。


 ちなみにマックスに限っては使う装備が特殊なため、レベル上げは無し。

 なのでマックスは今日も近場のスポーツジムに行っている。

 彼には今後も筋トレに励んでもらい、本番の際には変身ヒーローとしての力を100%発揮してもらう予定だ。


 今回の事件は剛の通報によってすでに役所も把握済みらしいが、ダンジョンの条件が条件なだけに、自衛隊の派遣も難しく、条件に合った探索者を探すのも難しいとあって、中々動き出せないでいるらしい。

 まあ、要するに今回は俺たちが頑張るしかないという事だ。


 と、ようやく剛ショックから立ち直ったミカ子が「よろしく!」と元気よく手を差し出して剛と握手し、続いて花沢さんも「よろしくお願いします」と、少し緊張気味に頭を下げた。


「よし、そんじゃ今日はミカ子と剛のレベルを上げることを優先して探索して行こうと思うが、異論はあるか?」


 なし崩し的にそのままパーティのリーダーを任されてしまった俺は、仲間たちに今日の方針を伝え、意見を聞く。


「ううん」「なーし!」「無しッ!」

「よし、じゃあ出発!」


激眉しゃくれ武闘家のちゅよし

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