LONG☆LONG☆AGO 3
ダンジョン内に侵入した俺たちは、俺を先頭に罠を解除しつつサクサク通路を進んで行く。
しばらく進むとミカ子の魔力感知スキルが、少し先の柱の影に敵が潜んでいることを知らせた。
数は1体で、柱に寄りかかるようにに張り付いているらしいので、恐らくはライカンだろう。
やっぱり超有能スキルだなぁ、魔力感知。俺も欲しい。
「ヤバそうなら助太刀するから、まずは2人で頑張ってみてくれ」
小声で敵の特徴と注意点を伝えると、ミカ子と剛は2人同時に頷いてみせた。
俺は円月輪を滞空させて、2人の様子を背後から伺う。さて、お手並み拝見と行こうか。
忍び足で敵が隠れている柱まで剛が近寄り、その少し後ろでミカ子がミスリルの剣を片手に構えた。
どうやら装備効果で斬撃を飛ばせるミカ子が後衛を務める事にしたようだ。
すると、剛が敵が隠れている柱の影へサッと回り込んだかと思えば、ライカンの首を抱えてそのまま一本背負いで投げ飛ばし、倒れたライカンの首元へ渾身の踵を叩き込む!
ベキッと首が折れる嫌な音が通路に響いて、ライカンは声を発する間もなく魔力へと還った。
レベル1の人間が素手でライカンを瞬殺かよ。恐るべきワザマエだ。
どうやら彼が道場で2番目に強い男だというのは誇張では無かったらしい。
というか、あんなに強い彼ですら勝てない姉弟子の涼さんとは、一体どんな化け物だ。探索者相手にも勝ったという話だし、相当極まった人である事は間違いなさそうだが……。
などと考えていると、初レベルアップを終えたらしい剛がこちらに戻ってくる。
若干……本っ当に若干、アゴが短くなったような気がしなくもない。
あと、眉毛が少しスッキリしたかなぁ? くらいの変化だ。
どうやら武の道を往く彼は、レベルアップ時の肉体改変リソースが身体能力の方に大きく割り振られたらしい。だから花沢さんに比べて見た目の変化が緩やかなのだろう。
「お疲れ。今のでどれくらいレベル上がった?」
戻ってきた剛とハイタッチ。仲間のレベル確認はパーティリーダーの重要な仕事の一つだ。
「何となくだが、3つくらい一気に上がった気がしゅるぞッ! 噂には聞いていたが、レベルアップとはこんなに凄いもんなのかッ! 身体が羽のように軽いッ!」
剛は少年のように目をキラキラさせながら、その場でぴょんぴょん飛び跳ねて見せる。
という事は今、彼はレベル4か。
流石にレベル3ダンジョンともなると、レベル1桁の人間には経験値効率は相当良いらしい。
「凄いじゃん剛! 装備も無いのに素手だけで倒しちゃうんだもん!」
「いやいや、オレなんてまだまだ。姉弟子なら出会い頭に一撃で上半身が消し飛んでいただろうからなッ!」
ミカ子が興奮気味に剛を褒めるが、彼はまだまだと首を横に振った。
だからどんだけ強いんだよ姉弟子。本当に人間か? 女とは名ばかりの世紀末覇者か何かじゃないのか?
ともあれ、レベルだけが強さの基準じゃないという当たり前の事実を再確認させられてしまった。俺もスキルの力に慢心せず精進しなければ。
◇ ◇ ◇
「てやっ!」
ミカ子が飛ばした斬撃がこちらに向かって突撃してきた「からくりボンバー」を真っ二つに切り裂き……爆発!
またレベルが上がったらしいミカ子が全員とハイタッチして回る。
あれから順調に勝利を重ねた2人は、高い経験値効率のおかげもあってモリモリとレベルも上がり、この短時間で剛はレベル8、ミカ子はレベル13まで上がっていた。
剛は相変わらず激眉でしゃくれたままだが、それでも、もじゃもじゃしていた腕毛が無くなった事で少しだけ清潔感がアップしている。
対するミカ子はさらに美しくなり、胸が若干大きくなった事で体形もグラマーになりつつある。
さて、そんな2人のレベル上げと並行して未探索部分の探索を続けていた俺たちだが、しばらく回廊を進むとやがて開けた場所に出た。
その場所には壁が無く、床の殆どの部分が抜けており、その先は真っ暗な奈落になっている。
奈落の上には鉄骨で組まれたアスレチックがいくつも浮かんでいて、奥の方まで続いており、一番奥のゴール地点にはこれ見よがしに怪しげなスイッチレバーがあった。
そして、俺たちが立っているすぐ横には看板が立っており、そこにはこんなことが書かれていた。
〈【ズルしたら身体が石化する呪いがかかります。ズルをせずに正々堂々と、頭と筋肉を使って攻略しましょう】〉
「ね、ねぇ、これってさ……」
「う、うん。年末とかによくやってるアレだよね……?」
「古舘●知郎の実況が欲しい所だなッ!」
ジッサイ、あからさまなSAS●KEである。
しかも失敗イコール即死の、テレビでは放送できないガチのやつだ。
3人の視線が俺へと集まる。
「……行ってくる」
「き、気を付けてね」
花沢さんからヒールと声援を貰い、俺は軽く助走をつけて空中に浮かぶサンドバックへと跳んだ。
サンドバックは抱きついた瞬間、まるで糸が切れたように奈落へと落下していく。
落下するサンドバックから急いで次のサンドバックへと跳び移り、5つ並んだサンドバックゾーンを何とか通過する。
あ、あっぶねーっ!
続くアスレチックは空中を上下に移動するレールの上を鉄パイプを使って滑りながら進んで行くというもの。
レールの先端はフック状になっており、上下に動くレールが近づくタイミングに合わせて飛び移る必要がある。
鉄パイプを掴んだ俺は、空中に固定された1本目のレールを滑走する。
レールの端までシャーっと滑り、身体を前後に揺らして上から近づいてきた次のレールへと鉄パイプごと飛び移った。
2本目のレールは1本目よりも傾斜がかなり急になっていたが、身体を鉄パイプに密着させて、鉄棒のように身体を一回転させることで停止時の腕への衝撃を緩和する。
そしてタイミングを計って3本目のレールへと飛び移るが、レールの先を見て俺は思わず目を見開いた。
俺を受け止めてくれるはずのフックは何処にもなく、次のアスレチックへと続く足場は遥か頭上。
レールの傾斜と上昇速度から考えて、どうやっても間に合わない!?
……いや、まだだッ!
俺は奈落へ向かって加速していく鉄パイプの上へと身体を持ち上げると、そのまま鉄パイプの上に足をかけて立ち上がる。
忍者装備の効果で不安定な足場でも確かな安定感を得た俺は、鉄パイプがレールから落ちる直前にグッと膝を曲げて次の足場へと大ジャンプ!
ギリギリのところで次の足場に手が掛かり、壁をよじ登るようにして俺は足場の上へと身を投げ出した。
「あっっっぶねぇぇぇぇ!」
呼吸を整え立ち上がる。
次のアスレチックは、前後上下左右に動く浮遊する鉄の箱……の側面から飛び出ている2センチあまりの出っ張りに指を引っ掛けて、指の力だけで箱から箱へと飛び移るというトチ狂ったものだった。
あえて本家っぽく名付けるなら『クレイジークリフキューブ』って所か。
しかもスタート地点にあった看板の内容が正しいなら、出っ張り以外の部分を掴んでしまえばその時点で身体が石になって即アウトという事になる。
狂い過ぎててもう笑うしかない。
覚悟を決めて、こちらに近づいてきた1つ目の箱の出っ張りに指を掛けた。
全体重を指先の力だけで支えながら、近づいてきた2つ目の箱へと飛び移る。
指はしっかりと出っ張りに引っ掛かり、姿勢を整えてホッとしたのも束の間、箱が急に加速し始めた。
慣性に引っ張られる身体を指先だけでどうにか支えて、一発勝負で次の箱へと飛ぶ。
思ったよりも勢いがついてしまいあわやと思ったが、肘と体幹を使ってどうにか勢いを殺す。連休中に筋トレしといて本当によかった!
だが、この意地糞悪いアスレチックがこれで終わるはずも無く……なんと今度は箱が回転し始めた。くそっ! ふざけんなよマジで!?
身体が遠心力で振り落とされそうになるが、それでも指先の握力だけで踏ん張って、タイミングを計ってゴール地点まで勢いをつけて飛び降りた。
「しゃあぁッ! 完全制覇じゃぁぁぁい!」
なんとかゴールに転がり込んだ俺は、殺意満点のアスレチックをクリアした昂りをぶつけるようにスイッチレバーを引く。
すると、どこからともなくスモークがプシューッと噴き出て、どこかで聞いたようなBGMと共に、俺を苦しめたアスレチックが動き出して、スタート地点へ戻る橋へと変わる。
と、ここでダンジョン全体を揺るがすような振動が起きた。
以前の謎解き部屋でも同じことがあったが、恐らくこうしたギミックがボス部屋の扉を開ける鍵となっているのだろう。
やはり10秒ほどで振動は治まり、橋を渡って3人の下へと戻ると、そこには宝箱が出現していた。
「おかえり、かがりん!」
「ナイシュガッチュッ!」
「ぶ、無事で本当に良かった……」
3人がそれぞれの言葉で俺を迎えてくれる。
「いやマジで、モンスターよりこっちの方が断然怖いわ」
「見てる方もヒヤヒヤしたよ……」
花沢さんが涙目になりながらも、心底安心したように胸をなでおろす。
どうやらまた心配させてしまったようだ。
目指す頂はまだまだ先なのに、彼女を支える杖が頼りなくてどうするんだ。……俺も強くならないとな。
「それよりほら! 宝箱、開けようよ!」
「お、おう! そうだな。あんだけ苦労したんだ、いいもん入ってると嬉しいが……」
ミカ子に急かされて宝箱を開ける。
すると、中に入っていたのは────
まさに二の腕乳酸地獄であります。
ブクマと評価、そして感想が作者の原動力になります。
皆、オラに、オラにエサをくれ。




