俺と彼女のダンジョンダイエット 7
とりあえず俺たちはミカ子の家のリビングで、出されたお茶を飲みつつ、詳しく話を聞く事にした。
「こうなってる事に気付いたのは先週の金曜日。ガッコから帰ってきてすぐだったから、大体15時半くらいかな? ちなみにパパとママは2人揃ってアメリカのダンジョンに挑戦するって言って出張中。2人とも探索者なんだ」
「ふーん。……で? なんで俺な訳?」
「だってかがりん、ダンジョン潜ってるでしょ?」
そう言って俺に聞き返すミカ子の表情には、すでに確信めいたものがあった。
「どうしてそう思う?」
「だって、明らかに魔力の量が普通の人より多いもん。アタシ、『魔力感知』のスキル持ってるから分かるんだよね。そういうの」
「はぁ!?」
「あ、別に悪い事はしてないよ? パパとママ同伴でダンジョン潜った事あるってだけ。ほら、学生探索者許可証だってあるし」
ミカ子が財布から免許証サイズのカードを出して、俺たちに見せてくる。
あれからちょっと調べてみたのだが、学生探索者許可証って本来は国立の探索者高専の学生にしか発行されないらしい。
だのに俺たちといいミカ子といい、なんか例外が多くないか?
大丈夫かこの国。探索者に忖度しすぎじゃない?
って言うか、夫婦で探索者やってる三上さんで、こんな事ができるくらい影響力がある人って……。
「えっ、何、ひょっとしてお前の親、あの三上夫妻なの!?」
「そだよ? え、まさか今気づいた感じ!?」
三上夫妻は夫婦で探索者として活動する新進気鋭のAランク探索者だ。
どちらも高レベル探索者の例に漏れず、現実離れした美男美女だし、何かとメディアへの出演も多い有名人である。
「……ちなみに、今のレベルは?」
「7でっす☆ 2人は……12くらい?」
「「正解」」
「やっぱり! ふふん、アタシの目に狂いはないのだよ」
って言うか、やっぱりお前もレベルアップしてたんじゃねぇか。
どおりで昔と印象違う訳だ。
「で、問題のダンジョンの中は見たのか?」
「それがね? 生まれたばっかなのに妙に広くてさ。もしかして特殊ダンジョンなんじゃねって思って。それで助っ人を呼んだわけなんだけど」
「マジか」
通常、発生直後のダンジョンは構造も単純で、モンスターもスライムしか出て来ない。
が、ごく稀に発生直後でも内部構造が複雑で、最初から強い敵が出現するダンジョンが生まれることがある。それが特殊ダンジョンだ。
特殊ダンジョンは総じて、レアモンスターばかりが出現したり、逆にボスしかモンスターがいない代わりに滅茶苦茶罠が多かったりと、通常のダンジョンとは違う厄介な性質を持っている。
その代わり、出現する宝箱の中身は貴重なアイテムが出やすく、特殊ダンジョンを好んで探索する探索者も多い。
「しかしそうなると、今俺たちが使ってる装備じゃ通用しないかもしれないな……」
「あ、それなら大丈夫。パパとママのお古があるから」
「いいのかよ、勝手に使って」
「いいのいいの。どうせクローゼットの肥やしになってるだけだし、思い出の品だからって、売るつもりも無いっぽいからさ。使われないまま仕舞っておくくらいならパーっと使っちゃえばよくない?」
んな勝手な。
「なあ、やっぱり役所に連絡して誰か人寄越してもらった方がいいんじゃ……」
「絶対イヤ。知らない人家に上げるとかあり得ないし。それにあそこ、あんなでもアタシの部屋なんだよ!?」
「そ、そうか……。嫌なら仕方ないな」
「お願い! やっぱり自分のベッドじゃないとぐっすり寝られないの! ね? 人助けだと思ってさ。この通りです!」
手を合わせて必死に頭を下げるミカ子。
つーかコイツ、今日中に攻略してしまうつもりなのだろうか。
特殊ダンジョンなんて滅多に出現しないのに、こんなすぐに潰してしまうのはちょっと勿体ないような気がする。
「ね? ね? 中で拾ったものは全部あげるからさ! ねぇ、お~ね~が~い~」
いきなり俺の胸元に飛び込んできて潤んだ上目遣いであざとくお願いするミカ子。
コイツ、絶対ワザとやってるだろ!
「ええい! わーったよ! 分かったから離れてくれ! 花沢さんが泣きそうだから!」
「あ、ごめんね? からかいすぎた」
「う、うぅ……っ。私、あなた嫌いです……」
花沢さんが涙目でミカ子を睨む。
あーあ、嫌われてやんの。
「ごめんごめん。花沢さんあんまり可愛いからちょっとイジワルしちゃった」
「……か、可愛い?」
「そうだよ! お肌綺麗だし、髪もサラサラでまつげも長いし」
警戒する花沢さんへするりと距離を詰めたミカ子は、細く白い指で花沢さんの肌や髪をそっと撫でて、彼女の努力の証を褒めまくる。
「……あ、ありがと」
「アタシ、花沢さんとお友達になりたいなー、なんて。……ダメかな?」
「ふぇ!? は、はじめての、女の子のお友達……? えへ、えへへ……」
自分の容姿を褒められて嬉しくない人間などいるはずもなく、花沢さんは満更でもなさそうにだらしなく笑み崩れてしまう。
花沢さん、ちょっとチョロすぎませんかねぇ!?
俺はミカ子を手招きして小声で話しかける。
「……で? その心は?」
「なによ。疑ってんの? 心外なんですけど。本心からそう思ってるだけだってば、花沢さん超可愛いじゃん」
「まあ、それは認めるが」
「……っていうのもあるけどさ。なんだかあの子見てると、なんか昔の自分を思い出しちゃって。なんだかほっとけないんだよね」
流石は元根暗ボッチ。ボッチの気配には敏感だ。
かつて自分が誰かに言ってほしかった台詞を、今は自分から言えるようになったんだな。
あれ、なんかそう思うと目頭が熱くなってきやがった……。
ミカ子は再び花沢さんの下へ近づき、その小さな手を取ってもう一度彼女にアタックする。
「どうかな。アタシと友達になってよ」
「あ、あう……。あの……その、わ、私なんかで、よければ……」
花沢さん顔真っ赤っか。くっ、これが萌えか。
「やった! あっ、アタシ、三上美香ね」
「は、花沢華恋、です」
「りょ。じゃあレンちゃんって呼ぶね? アタシの事はミカでいいから! そだ、ライン交換しとこ?」
「あっ、えっ。う、うん。こちらこそ、その……ミカ、ちゃん」
そして流れるようにライン交換。
この手際最早プロだな。リア充凄い。
何度も思うが、やっぱりコイツがあの幽霊ミカ子と同一人物だなんて信じられない。
一体あれから今までの間に何があって、彼女をここまで変えたのか。ちょっと気になる。
「はーい登録完了っと! そんじゃ早速、アタシらの友情パワーで、アタシの部屋取り戻しにいこーぜ!」
「お、おう」
「……う、うん。がんばる」
リア充の勢いに流されるまま、俺たちは装備が仕舞ってあるウォークインクローゼットへと案内される。
クローゼットの中は、装備を着せられたマネキンが飾ってあり、ちょっとした展示室のようになっていた。
マネキンの前には装備の効果が記されたプレートが掛かっており、どの装備がどんな効果を持つのかが一目で分かるようになっている。
「さ、好きな装備選んで! アタシのじゃないけど!」
両手を広げてまるで自分のものみたく振舞うミカ子。
ダンジョン産の装備は装備した人間に合わせてサイズが変化するから、どれを選んでも着れないという事は無い。
……が、本当に勝手に使っていいのだろうか。明らかに高レベルダンジョンで発見されるような、レア装備ばかりに見えるのだが。
「最早悪びれもしないな、お前」
「大丈夫大丈夫。だってパパ優しいもん」
「……お前がパパって言うと、なんかいやらしい意味に聞こえるんだが」
「は、はぁ!? そういうのマジありえないから!」
そもそも彼氏だってまだいないし。という小声のつぶやきを俺の耳は聞き逃さなかった。
いないのか。意外すぎる。
「ま、じゃなきゃ俺にチョコなんて渡さねーよな」
「ち、ちちち違うし!? あれは最近話題のイケメン君への挨拶みたいなもんだし! 大体、そのイケメン君がかがりんだったなんて知らなかったしつーか本命で市販の板チョコはありえないから!」
「そ、そうだよね。やっぱり手作りが一番美味しいよね」
ちょっとズレてる花沢さん可愛い。
どうかそのままの君でいて。
「あのガトーショコラはマジで絶品だったな。また作って?」
「うん! 今度はもっといっぱい焼くからね」
「えっ、何? やっぱアンタたち付き合ってるの?」
「違うけど?」「違うよ?」
「…………」
おい、なんだその目は。
俺は彼女を世界一の美少女にするって約束したんだ。
それを達成してもいないのに付き合うとか、そういう中途半端な事は、俺自身に立てた誓いに懸けて絶対にできない。
そんな事すれば客観的な視点で見れなくなるし、俺にとって世界一可愛いなんておざなりな台詞で終わらせるのは、変わりたいと願った彼女の思いへの裏切り行為だ。
目指すは誰もが認める世界一。……即ち、レベル99の高みだ。先は長い。
「……まあいいや。そう言う事にしといてあげる。さ、ちゃっちゃと装備選んでパパっと攻略しちゃお!」
ギャルなのは見た目だけ( ̄ー ̄)
実は男子とは手を繋いだことも無い(あざとく振舞って勘違いはさせるけど)
いいよね処女ビッチ(迫真)




