俺と彼女のダンジョンダイエット 8
一足先に装備を選び着替えを済ませていた俺はミカ子から家電を借りて家に連絡を入れつつ、2人が着替え終わるのを待っていた。
電話に出たのは案の定母さんで、今日は遅くなることを伝えると、何かを察したように「うまくやんなよ」と、なにやら含みのある一言残して電話が切れる。
なんか盛大に勘違いされている気がするが、これで遅くなっても怒られる心配は無くなったわけだ。
しばらく待っていると、選んだ装備に着替えた2人が一緒にリビングに入ってきた。
「じゃーん! どう? 似合うっしょ」
「ど、どうかな?」
「へぇ、2人とも似合ってるじゃん」
ミカ子の恰好は正統派の女剣士と言った所か。
タイツみたいにぴったりとした黒い鎧下の上に、ミスリル製の胸当てとアーマースカート。同じくミスリルの籠手と長靴を装備している。
頭にもミスリルのサークレットを付けていて、左手には丸盾を握っており、腰には綺麗な装飾の施された立派な片手剣が差してあった。
このミスリルシリーズの基本性能は、身体能力の大強化と、物理攻撃に対する大耐性の付与。
シリーズ統一のボーナス効果は、魔力を消費して斬撃を遠くまで飛ばす特殊技が使えるようになる、というものだったはずだ。
対する花沢さんの装備はまさしく巫女さんそのもの。
白衣に緋袴。足元は白足袋に草履。肩にかかるくらいの黒髪は赤い紐で後ろで小さく纏められており、手にはお祓い棒が握られている。
巫女シリーズの基本性能は、魔法能力の大強化と、魔法攻撃に対する大耐性の付与。
シリーズ統一ボーナスは、魔法の広域化と威力の強化。
ちなみに俺は全身を覆いつくすフード付きの白いローブの下に、チェインメイルと黒いレギンスを着ており、足元は黒革のブーツを履いている。
某暗殺アクションゲーのアサシンを思い出せば大体それで正解だ。
武器は即死効果を持つ禍々しい形状の短剣、アサシンエッジが2本。
アサシンシリーズの基本性能は、身体能力と動体視力・反射神経の大強化と、物理・魔法攻撃に対する小耐性の付与。
シリーズ統一ボーナスは、不意打ち攻撃が10分の1の確率で即死攻撃に変化するというもの。
こうして、高級マンションのリビングに女剣士と巫女さんとアサシンが集まった訳だが……やっぱりどこからどう見てもコスプレなんだよなぁ。
「……ここはコスプレ大会の会場か何かか?」
「や、やっぱりこれ、コスプレみたいだよね……」
「いいじゃんコスプレ。楽しいじゃん。さ、装備も整ったし行こ行こ!」
ミカ子に急かされ、リビングを出た俺たちは、白く渦を巻くダンジョンの入り口へと飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
渦の先は巨大な円形の広間だった。
広さは音楽ホールくらいで、等間隔に並んだ白い柱がぐるりと広間を囲み、床には太陽をモチーフにしたと思われるタイル絵がある。
通路は向かって正面に1本あるだけで、それ以外にここから続いている道は無さそうだ。
マッピングはミカ子が専用のアプリを持っているとの事で、そのまま彼女に任せることになった。
マッピングアプリは探索者協会のホームページからダウンロードできる。
だが、その際に探索者許可証の登録番号を入力しなければならないので、今まで無許可でやってきた俺たちは使えなかったのだ。
「んじゃ、いつも通り罠に警戒しつつ慎重に行こうか」
「うん」
「あっ、それならダイジョーブだよ。アタシ、魔力感知で罠の位置も何となく見えるから」
「マジで?」
超有能スキルじゃないっすか。
「マジマジ。アタシが先頭歩くから、アタシが踏んだ場所を辿ってきて。そんじゃしゅっぱーつ!」
ミカ子に先導されてダンジョン探索が始まった。
罠があればミカ子が後ろに声をかけて注意を促してくれるので、探索が凄く楽だ。こりゃあいいや。
そうやって通路をずんずん進んで行くと、先頭を走っていた俺は通路の先にモンスターがいるのを発見した。
あれは……イビルアイだ!
イビルアイ。直径1メートルほどの巨大な空飛ぶ眼球型のモンスターだ。
視界内に侵入者を捉えると瞳からビームを発射して攻撃してくる厄介な相手である。
が、基本的に動き回ったりはせず、その場でグルグルと向きを変えるだけなので、動きをよく見て死角から奇襲して一撃で倒すのがベスト。
遠距離攻撃があるならそれを使って遠くから狙撃してもいい。
「ストップ。この先にイビルアイがいる。確か、花沢さんのお祓い棒って、光属性の魔法が撃てるんだったよね? もう少し近づいてから、それで狙撃して倒そう」
「わかった」
俺がイビルアイの視線の向きを確認して、視線がこっちを向いた時だけ柱の陰に隠れつつ慎重に進む。
彼我の距離が50メートルほどまで近づいた所で、イビルアイが向こう側を向いた瞬間に花沢さんが通路に飛び出してお祓い棒を前方に構えた。
お祓い棒の先端に光が宿り、一筋の光が真っすぐに目玉に向かって突き刺さる。
光属性の中級魔法、ソーラレイだ。
眼球の裏からレーザーで狙撃されたイビルアイは、さらさらと薄紫の光となって空気へと溶けていった。
ドロップアイテムは視力回復効果のある目薬が1個。
目玉から目薬が出るってのもなんか変な話だが、ダンジョンではよくある事だから気にしてもしょうがない。
「お疲れ」
「ありがと。楽勝だったよ」
そしてお決まりのハイタッチ。
「レンちゃん! へーい!」
何もしてないミカ子が自分から花沢さんにハイタッチしに行く。
「あ、うん。へ、へいっ」
「イェーイ!」
流石は努力でリア充になった女。ボッチが自分からこういう事ができないとよく知っている。
初めての友達っぽい事に、花沢さんの表情も少し緩んだ。
だがそれだけでは満足できなかったのか、ミカ子は俺の方にまで物欲しそうな視線を向けてくる。
「いやお前、何もしてないじゃん」
「いーじゃん! ほら、へーい!」
「へいへい」
で、結局俺ともハイタッチ。
恒例の習慣に新たな仲間が加わり、より俺たちの結束は深まった……のか?
なにはともあれ、敵を排除した俺たちは再びダンジョン探索を再開した。
◇ ◇ ◇
道中何度かイビルアイと遭遇し、後に控えたボス戦に備えてレベルはできるだけ均等にしておいた方がいいと考え、主にミカ子を中心として敵を倒していった結果、ミカ子はレベル7から9に、俺と花沢さんはレベル13になった。
流石に特殊ダンジョンだけあって、敵の経験値効率も高いようだ。
ミカ子はレベル9になった事で顔立ちがさらに洗練されて、ますますカリスマギャルっぽくなってきた。
胸も花沢さんほどでは無いが十分あるし、なにより足が長くて綺麗だ。
と、ミカ子の変化にちょっとだけ意識を取られつつ探索を続けていると、そいつは不意に通路の角から現れた。
「あ、アマルガムだ!」
「えっ嘘マジ!?」
「えっ? ど、どこ?」
冷ややかな光沢を持つ流体魔法金属のメタリックボディ。
ダンジョン内で出会えたら超幸運。
倒せたら莫大な経験値と超貴重なアイテムをドロップする、言わずと知れたボーナスモンスター。
しかし性格は非常に臆病で、探索者と遭遇したら凄まじい速度で逃げ出してしまう。
魔法への完全耐性を持っており物理攻撃でしか倒せないが、流体金属のボディがあらゆる衝撃を逃がしてしまうため半端な攻撃では弱点のコアまでダメージが届かない。
だから倒すのは至難の業だし、そもそも早すぎて攻撃すらさせてくれないし、当たらない。
それが、アマルガムというモンスター。
「あっ、逃げた!?」
「早っ!?」
「み、見れなかった……」
出会えただけでも超幸運なのだから、そう気落ちすることは無い。
なんて、その時はそんな風に考えていたのだか……
「あっ、また出た! 2匹いるぞ!」
「えっ? どこぉ?」
「あぁ、逃げたぁ。ちょっとぉ、あいつら逃げ足早すぎでしょ!?」
「ま、また私だけ……うぅ」
その後何度も姿を見せては、すぐに逃げ出すアマルガムたちを見て、俺たちは流石に変だと気付き始める。
ここまでの探索で出現したモンスターは、イビルアイとアマルガムだけ。
そう、『だけ』なのだ。それ以外のモンスターは影も形も見えない。
「な、なあ。もしかしてここってさ……」
「だよね!? やっぱそうだよね!?」
「ほ、ほんとにいたんだね」
俺たちの中で大きくなり始めた1つのありえない仮説は、探索を進めるごとにさらに大きくなり、ボス部屋を発見したことでほぼ確信へと変わる。
そいつは銀色に光り輝く流線形のボディーをしていた。
刻一刻と形を変えるメタリックな姿はまさにアマルガムそのもの。
……だが、デカイ。兎に角デカイ。5メートルくらいはある。
デカイのだから鈍間だろうとか、そんな事は絶対にない。
何故ならアマルガムとは、液体金属のボディーを巧みに操ることで、衝撃波を出さずに音速以上の速度で移動できる。そういうモンスターなのだから。
図体はデカくとも、あいつもきっとそれくらいの速度で部屋の中を逃げ回るはず。
そんな相手に今の俺たちではどうあっても攻撃を当てることは不可能だ。
そして、ボス部屋はボスを倒さない限り開くことは無い。
つまり一度入ったが最後。俺たちがくたばるまでボスは部屋の中を逃げ続ける。
やがて俺たちの体力が尽きたら……そこでジ・エンドだ。
俺たちがボス部屋の前から後退ると、両開きの重厚な金属扉がギギギと音を立てて閉まった。
それは理論上はいつか現れるとされながらも、未だかつて現れたことのなかった机上の空論。
「「「 アマルガムダンジョン! 」」」
意図せず揃った声に俺たちは興奮を抑えきれず、その場ではしゃぎまわる。
そして同時に、俺たちはある問題に直面した。ボスが早すぎて、ダンジョンをクリアできないのである。
「てかどうすんのコレ。ボス倒せないじゃん」
「とりあえず一度戻るしかないだろ。俺たちじゃどうやったってアマルガムは倒せないんだから」
「わ、私もそう思う」
「そうするしかないか。……はぁ」
とりあえず俺たちは、視界の端をチラチラと逃げ回るアマルガムにイライラしながらも、一度引き返すことにした。
くっそぉ!
アマルガム「ウェーイwwww」
当たらなければ即死だって怖くない。
ちなみマッピングアプリの使い方は、スマホのカメラでダンジョンの内部を撮影すると、AIが距離や高さ、障害物の裏側などを予測計算して3Dマップを勝手に作成してくれる感じ(超便利)
他にも、スマホ間でのマップデータのやり取りや、協会のライブラリに投稿されたマップデータをダウンロードできたり(ダンジョンの外限定)色々と便利な機能があったりラジバンダリ




