深い底に沈む男
マムロは全てを話した。
自・他国の状況。政治、軍事、経済、工業、社会、文化、思想、宗教、気候、風土、地形……。
彼は、質問には、偽証なく、全てを答えた。
答えを知らないものは最も最適と思われる回答をした。下手に知らないと答えれば、尋問に対する抵抗と捉えられかねないからだ。
同じ様なことを何度も聞かれたが、その度に一言一句違えず、同じように答えた。
そうしなければ相手に疑心を植え付けてしまうからだ。同じ質問に違う内容を答える、又は微妙に表現を変えて答えた場合、嘘の情報を話しているのではと疑われるからだ。
何度も休憩をはさみ、その度にマムロはそれなりの食事と休息を与えられた。尋問が再開されれば従順に答えた。
そうして、長い尋問が続き、もはや彼の知っていることは全て相手が知るところであり、彼の知らぬことは相手の知らぬところであった。
彼の中にあった軍人としての誇りは、跡形もなく消え失せた。
それと入れ替わる様に得たのは、裏切者という汚名と、これ以上の責苦を受けないという安堵感だった。
この時、マムロは心の中で少しだけ『軍人で良かった』と思っていた。
マムロが尋問に際して気を付けていた『下手に知らないと答えない』『同じ質問には同じ答え方をする』などのテクニックは、すべて彼が軍の訓練で受けていた、相手に自分の言葉を信じさせるテクニックだったからだ。
彼は自分が助かりたい一心で、自分の持つ全ての能力を発揮していた。それが本来、一個人の利己的な判断のもとで行うべきものでないとしてもだ。
軍人として本当に死んだというならば、今まさにこの瞬間だろう。
本来、自国の情報を与えず、敵に偽の情報を与えるための技術を自分のために使い、それを悪びれもせず、あまつさえ知っていて良かったなどと考えてしまう。
もうここに、マムロ将軍と呼ばれた男はいない。
そしてそれを彼自身は、おそらく自覚していないのだろう。
ここに、一人の男が、散った。
尋問官は阿立に指示された通りに尋問を進め、阿立に指示された通りにマムロから情報を引き出した。
だが、まだだ。
まだ、阿立はマムロを利用するつもりでいる。
彼はマジックミラー(魔法で光を歪めた疑似的な物)越しに一部始終を見ていた。
「マムロは金脈です。絶対に死なせるわけにはいかない。監視は怠らないように」
そばにいた魔王は、彼のその言葉にもはや驚かない。
これ以上彼から何を奪うのか、などの疑問も口にはしない。
ただ、どこまでも深いものだと、感心した。
阿立が歩んだであろう人生に、社会に、そのすべてに……。
人とは奥が深い。
人の深さは欲の深さか、それとも好奇心の深さか。
それとも……。




