わけアリの軍事演習
「壮観な眺めですわ!」
レティシアは、眼下に広がる光景に興奮も露わに言った。
そう、今は演習の真っ最中だった。
城門を突破するのに損失を出したという設定で互いに千五百同士で始まった演習は、アルフォンス軍の圧倒的優勢だった。
ちなみに千五百という数は、コルヌイユ伯が動員可能な兵力の全てだった。
実戦を短期間で何度も体験してきたがために指揮官の能力や兵達の練度に雲泥の差がある。
常に後手に回ってしまうコルヌイユ軍は、想定上多数の損失を出し兵力差も大きく開いていた。
さて、演習ももはや終盤戦で勝負はついたと言ってもいい。
そこで俺は、カニアールに対してもう一度セルジュ陣営への懐柔を試みることにした。
懐柔と言っても実質のところは、その字面に似合わない脅しだ。
「コルヌイユ伯、本当にセルジュ陣営に入らなくてよろしいのだな?」
「アルフォンス公ともあろうお方が何を今さら」
やはり、使いたくはないが奥の手を使うしかないか……。
最悪の外交手段だな……まったく。
俺は、ノエルに目配せを送る。
ノエルは頷くと今、俺たちのいる建物の下に待機させている演習には参加していない五百名の方に向かって合図を送った。
そして――――ズダダダーン!と耳を劈く雷鳴のような音が上がる。
「なっなんですか!?この音は!!」
突然の轟音にカニアールは目を白黒させて慌てふためいた。
「私の銃兵ですよ」
この田舎じゃ銃の射撃音さえも聞いたことは ないだろうな……。
下手したらそんな兵器すら知らないのかもしれない。
つい昨年まで俺自身もそうだった。
「じゅ、じゅう?」
予想通りカニアールは知らなかった。
「そうです。鉛玉を射出する兵器ですよ。軽騎兵の鎧くらいなら貫徹する威力がありますよ?」
「そ、そんなものが……」
これで、俺の軍とやり合う気は失せただろうか?
「現在、演習は我々の優勢でしたね?つまりは、実戦においても我々が勝つと考えてもいいでしょう」
そこまで言うと俺の言わんとしたことを察したのか、カニアールに側仕えする二人が剣を抜いた。
それに合わせて俺もノエルも剣を抜く。
「何が言いたいのですか!?」
「端的に申し上げれば、貴殿が今ここでセルジュ殿に味方すると言わねば、戦闘を起こすということですよ」
「か、構いませんよ!やってみなければ分かりませんっ!」
口角泡を飛ばす様相で、矢継ぎ早に強気の発言をするカニアール。
こいつ、俺の狙いが演習と称して兵を城内に送り込むことだったと気付いてるのか?
既に喉先一寸に刃を突きつけられた状態なんだぞ?
「そうですか……私の兵二千は既に城内にいる状態ですから、どう抗っても数の差で負けるのは貴殿だというのに……」
さも残念そうな口振りで、カニアールに真実をつきつけてやる。
結局、独立後の自国の保身を図るためにユトランド評議会加盟国且つ、ヴァロワ王位継承権戦争に絡んできたベルジクを頼ったのかもしれないが、どう転がっても演習の話を受けた時点でセルジュ陣営に参加させられることは決まっていたのだ。
ちなみに演習の話を受けないのならば、今ある兵力をもってシャルル陣営かエドゥアール陣営のどちらかの相手をするつもりでいた。
そのために、あえてメルクールやシャルル陣営の諸侯を生かしておいたのだから。
どちらか潰れてくれれば、これ幸いというわけである。
「……わかりましたよっ!私の負けです!」
力の差を見せつけることによって、カニアールはベルジクを頼って独立を果たすという選択肢を捨てたらしい。
力の差を見せつけるというのもまた、この演習の副産物的な効果をもっている。
というのも、カニアールからすれば演習とはいえ、セルジュ陣営には過去に負けた相手である俺がいるという形になる。
それなら今後、ヴァロワがセルジュの治世となったとき、要らざるちょっかいをかける可能性は低くなるだろう。
「ならば、これより共にグラン・パルリエへ参りましょうか」
そう言って手を差し出すとカニアールはため息混じりに俺の手を握るのだった。




