コルヌイユ伯爵
アレクシアとセルジュの初対面から四日後、ヴェルナールは二千の兵を率いてアルモリカ地方圏の首府レンヌへと来ていた。
目的は、アルモリカを支配する当代のコルヌイユ伯アラン・カニアールを武力衝突を辞さない覚悟でセルジュ陣営に引き込むためであるが表向きは、会談を行うということになっていた。
コルヌイユ伯がセルジュ陣営に付く条件としてセルジュと協議したいくつかの取引材料も用意してある。
「互いに忙しい身の上、探り合いなどはせず本題に入りましょうか」
一般的にこういった外交の場では、本題に入らず探り合いから入ることが多く会話の主導権を取り合うことが殆どだ。
「何分こういうのは苦手ですのでそうして貰えると助かります」
ヴェルナールの申し出をカニアールは快諾した。
容貌は中肉中背で肖像画でみる初代のアルモリカの統治者であるアラン狡猾公ほど覇気があるわけでもなくその後の統治者であるコナン三世肥満公ほど太ましいわけでもない。
特筆すべき容貌がないのが印象だった。
「聞くところによれば貴殿には独立の意志があるとか」
「エドゥアール陣営に味方するアルフォンス公には明言することできません」
苦しそうな表情をしながら、カニアールは答えた。
「実を言うと私は、エドゥアール殿が次のヴァロワ王になることを快く思ってはいないのですよ」
「では何故、エドゥアール陣営についておられるのですかな?」
「いつ、誰がそんな妄言を吐きましたか?」
「はて、当方では風の噂にそう聞いているのですが……」
カニアールの脳内は疑問符でいっぱいだった。
エドゥアールを快く思わないのなら何故、エドゥアール陣営に味方しているのか。
味方していないと言うなら行動を共にするのは何故なのかと。
カニアールは、ヴェルナールがどういう人間なのかを今のところ計りかねていた。
「実の所はですね、第二皇子のセルジュ殿を推しているのです」
「人となりを教えてもらっても?」
ヴァロワ朝国内においても第二皇子というのは未知数な存在なのだろう、ヴェルナールの発言にカニアールは食いついた。
「謙虚で実直、芸術にも造詣が深い。それでいて志しは立派なものを持っていますよ。文芸復興を掲げ、さらには民草の暮らしに安寧を齎すような内政と外交を目標しているそうです」
ヴェルナールは、ここぞとばかりにセルジュを売り込む。
「なかなかに見所がありそうですね」
「セルジュ殿は、貴殿に興味を示しておりましたよ。陣営に味方する且つ兵を出すことを条件に公爵への復帰と本領安堵、独立保証をする用意があるとも言ってましたねぇ」
コルヌイユ伯爵家は、かつて公爵格の家柄でヴァロワからは独立した存在だった。
それが百年戦争の過程でヴァロワに併呑され家柄も降格させられた過去があった。
「そうですか。しかしながら私には戦闘をする気はさらさらありませんよ。そのためにベルジクとの関係を持ったのですから」
「その辺、詳しく伺っても構わないですか?」
「アルフォンス公に話すことではありませんので」
これだけの好条件を並べてもセルジュ陣営につくことをカニアールは拒んだ。
「そうですか……それならそれでも構いません。それからもう一つ提案を持ってきました。これは私達双方にプラスとなる話だと思いますよ」
ヴェルナールは、カニアールの懐柔を《《一旦》》諦めると話題を変えた。
「というのは?」
「今から軍事演習を行いませんか?貴殿が望まなくとも戦闘に発展する可能性は十分に考えられます。かく言う私は、ベルジクに裏切られ戦闘になった過去がありますから」
ヴェルナールは、カニアールが頼りにしているベルジクを話の引き合いに出すことでカニアールの精神に揺さぶりをかける。
「それは確かにプラスと言えます。我が軍は実戦を知らぬ若者が大半ですから」
僅かな逡巡を見せた後、カニアールはヴェルナールの提案に乗った。
「ならば、貴殿も兵は揃ってることと見受けられるし早速、今日の正午過ぎから執り行うとしましょうか?」
「想定と勝利条件は?」
「そうですね、想定は籠城戦にしましょう。攻め手は我々が努めます。勝利条件は、点数で判断しましょう」
カニアールは、側仕えの家臣に顎でしゃくってメモを取らせる。
「点数?」
「例えば……歩兵と弓兵の戦闘の場合、弓兵が五得点で歩兵が一得点と言った具合に兵種ごとに点数を設定するのです。損失は点数の割合で判断するという形にすれば、問題ないと思います。詳しくはこれを参考にしてみて下さい」
そう言ってヴェルナールは、演習に関する諸々が書かれた紙を手渡した。
「おぉ、これは助かります」
この演習がセルジュ陣営に強制的に引き込むために用意されたヴェルナールの罠とは知らず、カニアールは渡された紙をしげしげと見つめるのだった。




