第二皇子セルジュ
「ときに第二皇子殿」
第三皇子であるエドゥアールと面会するまでの時間、案内役として俺から一歩後ろを歩くセルジュに声をかけた。
セルジュという名前ではなく第二皇子という立場で。
「なんでしょうか」
「貴殿は、王位を継承したいと思わないのか?」
オレリアに頼まれたとはいえまずは彼自身の意志を知らなければ話にならない。
さぁ……どう答える?
「……やはり、ヴェルナール殿ほどにもなると話しているだけで感情を見透かしてしまうのでしょうか?」
俺に感情を見透かされているというのか……つまりは―――――
「それでマインドコントロール出来たら苦労はしないんだがな」
「そちらの方が安心できます。私が初めて貴方と出会った昨日、私の抱いた感情は、羨望と劣等感でした」
「と言うと?」
「はい、隣国には貴方のように若いのに国を率い、類まれなる知略を活かして対等に他国と渡り合い、戦争となれば自ら戦うような人がいるのかと、それに比べて私はどうか……武芸には疎く人望も無い身、とても貴方とはかけ離れています……」
そう言うとセルジュは力なく笑った。
「それでも母は私を苦労しながら育ててくれ妹も頼りない私を支えてくれます。そんな二人のために、相応しい人間になりたいと何度願ったことか……」
それが動機なのだとしたら私欲と言えよう。
だがその私欲は、自らの権勢を高めようというエドゥアールやシャルルのものとは違うもっと純粋な感情だ。
「自分を大切にしてくれる人のために王座に就きたい、そういうことか?」
「これが私利私欲に基づくものだということを私は重々承知しています。それでも私は――――」
大切な人に認められたいか……。
声を詰まらせたセルジュに変わってその先の言葉を脳内で続ける。
俺には経験が無いが、大切な人達が蔑まれていたり下に見られているのは、さぞ辛いだろう。
そういう経験があるのなら俺自身もきっと見返してやりたいという感情を抱くに決まっている。
「動機としては十分だ。他の二人よりも動機は純粋なものだし応援したいとも思う」
だが問題はその先だ。
「でもな、良い君主たらねば、民はついてこない。加えて貴殿の国は封建制度で成り立っている国だ、貴族連中も納得させることも大事だ」
その板挟みになり、ときとして自分が汚れ役になることも必要になるかもしれない。
或いは平気な顔をして嘘をつかなければならないこともある。
少し舵取りを間違えれば沈む船を操舵することは容易じゃない。
正直が取り柄の《《いい人》》では為政者は務まらないのだ。
二枚舌で民にも貴族にもいい顔をしなければならない。
「仮にも継承できるのなら、安すぎる代償です」
覚悟は出来ている、ということか。
他の二人よりもしっかりしているかもしれないな。
人柄は謙虚、そしてオレリア曰く頭も優秀だとか……それがどれほど信憑のある情報かはさておき、推す価値はあるし本人にもその意志はある。
「貴殿の意志は確認した」
「力になって貰えるのですか?」
セルジュは、期待に目を輝かせた。
「できる範疇でな」
だがなセルジュ、俺もただお前を推す優しい《《いい人》》じゃないこと、わかっているのか……?




