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潜むモノ達  作者: たっしょ
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第一章〔5〕 /…変化した体

春の始め、私は問題の十年目を迎え、十八歳になった。

ラエの一件があってから、 私は何度も逃亡しようとして失敗を繰り返し、失敗していた。

ある日ワウリンがやって来た。

私の目の前は真っ暗だった。とうとうこの化け物達の仲間入りをしてしまうのだ。

皆が集まり、ワウリンに向かいうやうやしくお辞儀をする。

「ワウリン様、恐れながら申し上げます」

レイネだった。

「何だ」

「あの子は死にたがっております。これは心が弱っている証拠です。 はたして儀式に耐えられるかどうか…耐えられても、我々の様に動かないでしょう」

ワウリンはふんっと鼻を鳴らす。

「お前などに言われる筋合いは無いわい。儀式にさえ耐えられたなら、 そのような感情に用は無い」

そう言い放つワウリンは確実に年老いていた。

声はいささか覇気を欠き、皺が刻まれている。

年をとらないのは周りにいる彼等だけだ。

私は意識を失わさせらせ、次に目を開くと柱に縛りつけられていた。

ラエがいた場所だ。

そしてワウリンが、自分に向かって杖を振る。

あの影だ!

それが私の方へゆっくりと迫って来て…。

私は叫んだ。影が私に触れた。

ゾッとするほど冷たい。

私は我を失いかけた。

影が私の口から入りこもうとした。

苦しい。

不意に目の前が真っ暗になった。

影が広がり私の全身を包んだのだ。

それからは何も覚えていない。

目を開けるといつもの遺跡の部屋だった。

皆が私を見ていた。

私は叫んだ。

「バレン、落ち着いて」

ラエが私の腕を掴む。

「ね?」

私は彼女の手を振りほどこうとしたが、ほどけなかった。

私は暴れた。

すると抱きしめられた。

「説明するから、だから落ち着いて」

しばらくして、私はようやく落ち着いた。

「俺は…俺はどうなったんだ?」

ラエが私から離れた。

「あんたは私達の仲間になったの。私達の仲間になれる人は少ないんですって。たいていはアイツに殺されるそうよ」

「アイツ?」

「あんたの中にも、私の中にもいるの。入って来たの、分かるでしょ?」

私は身震いした。

「でもあんたは耐えた。お陰ですごい力を手にしたのよ。…自由に使える訳じゃないけど」

私は思わず自分の体をまじまじと見つめた。

何も変わったように見えないのに、何かがおかしい気がした。

「すごい力…?嘘だろ、何も変わってない」

「そのうち分かるわ。私達、食べたり飲んだりする必要が無いから」

「まさか」

「本当よ。ついでに言うと歳もとらないし、寝る必要も無いわ」

私は狼狽した。彼女の話しは突拍子もなさすぎる。

「嘘だ…」

「あなたはある事が出来るようになったの。分かる?」

「何を」

「試しに腕を変化させてみたら?意識を腕に集中させて念じるの」

私は困惑しつつも彼女の言う通りにした。

すると腕がたちまち熱くなり、黒く歪み、大きく太く伸びて…すぐ治まった。

私は唖然とした。丸太のように太く、鋭い爪のついた毛むくじゃらの獣の腕だった。

自分の身体に不釣り合い過ぎる。

それが自分の腕だと言う、当たり前の事を飲み込むのに時間を要した。

「ラエ」

声がした。

「ムルザさん」

「彼はどうだ?」

「ご覧の通りですよ」

ラエが笑う。

腕は、私がムルザさんの声に意識を向けたら、一瞬で元に戻った。

ムルザさんがゆっくりと言った。

「君に知っておいてもらいたい事がある」

「何、それ?」

「私達は強い。ただし、弱点が無い訳じゃない。私達は幾ら槍で突かれようと、切りつけられようとすぐ治る。しかし腕や足を切り落とされれば、生えて来る事は無い。特に首を切り落とされれば死ぬ」

私は思わず喉を押さえた。

「そして聖水を浴びたり、聖水で磨いた武器で攻撃を受ければ、損傷した箇所は焼け爛れて傷も治らない」

私は目を見開いた。ムルザさんが一息ついて言う。

「我々は常にワウリン様と共にある。彼に逆らおうなどとは一切思わない事だ」

「?」

釈然としないまま、私は頷く。彼は疲れているように見えた。

「でも、何故」

「私達に宿る魔物はワウリン様により呼び出されたもので、呼び出された際にワウリン様に対し服従を強いられたものだからだ」

「…成る程」

だから、その魔物の宿主である人間も例外なく召喚師に縛られている訳か。

「他の国に俺達と同じような奴はいるの?」

「いや、今はワウリン様以外はいない」

きっぱりと否定する。

「何故そう言いきれる?」

「同族は分かる。お前も今は分からないだろうが、力が解放され始めたら、どこにいても俺達の今の姿や、存在を感じられるようになる。…この術を使おうとした多くの召喚師は、魔物を呼び出した際に服従を強いる事に失敗するか、服従に成功しても魔物に精神を乗っ取られて魔物そのものと化した宿主に襲われるかして命を失っている」

「乗っ取られる?」

「宿主に適した人間は、男女問わず常人以上の身体能力と、何より意志の強さを重視される。それは魔物を宿す事で肉体にはかなりの負担がかかるし、絶えず殺戮を求めて暴走しそうになる身体を精神力で抑えなくてはならないからだ。魔物を宿す事で、人として生きる上で必要な事、食事や睡眠等はほぼ関係無くなるが、精神はそうもいかない。力を抑える事に疲れ果て、意志の弱った者の精神はたちまち魔物に乗っ取られ、あらゆる生物の血を求めて手当たり次第に襲い始める」

「そうなったらどうなる?」

「俺達が始末する」

「!もしかして、前にそんな事が?」

「あぁ」

私はそれで了解した。

「でも、魔物がついてるなんて…まだ信じられない。さっきのはともかくこうしてると全然実感ないけどな」

呟くと、

「血生臭い戦場と、ここは違うんだよ」

ギゼが吐き捨てるように言う。

「ムルザは言わなかったが、ワウリン様が死んだら俺達も死ぬんだ。覚えときな坊主」

皆がいなくなってから、私は辛い気持ちで部屋を離れた。

外へ出て、いつか私が撃たれた場所にたどり着いた。

私はレイネに会いたいと思った。さっきは一言も話せなかった。

歩き回っているとこっちに向かってやって来るレイネの姿が見えた。

私は彼女に近づいた。

私達は無言で並んで歩いた。

やがてレイネが尋ねた。

「バレンは、私達をどう思ってるのかしら?」

レイネは、私が儀式を経て仲間になった事について言ってるのだと分かって答えた。

「とても好きだった。今は…よく分からない」

「そう…」

私達はまた黙って歩いた。

突然、レイネは立ち止まった。

「気をつけなさい」

私は首を傾げた。

「バレン、早く逃げて」

さっきより強い声でレイネが言う。

彼女を取り巻く空気が変わったのを感じ私は一瞬逃げ出そうとした。

「そう、用心なさい…行って、早く」

私は思い切って聞いた。

「レイネ…苦しいんだね?でも、何でそんなに平静でいられるんだ?」

彼女は何か言いたそうだったが、何も言わなかった。

彼女は暗い顔をした。

「レイ!」

不意にギゼが現れ、彼女を抱きしめた。

私は、ギゼがレイネの名を呼ぶのを初めて聞いた。

「抑えろ」

と、彼女を叱り付けた。

それからびっくりするほど優しい声で繰り返した。

「安心しろ…俺がいる。じっとして、目を閉じて」

レイネは暗い表情のまま目を閉じた。

ギゼはレイネの髪を撫でた。

それからまたしっかりと抱きしめた。

「抑えろ。落ち着いて…お前を死なせたくない…」

ギゼはレイネを力付けながら私を複雑そうな目で見た。

やっと、ギゼはレイネを離した。

「あぁ、ギゼ。私…私はもう…ワウリン様は何故…」

ギゼが苦々しそうに言った。

「坊主、お前は何て言った、何でそんなに平静でいられるんだ…だったか?」

私は重々しく頷いた。

「平静じゃなくなったら殺されるからだ。お前もじきに分かる」

「話を聞いてたの…」

と、レイネ。

「坊主はお前に気があるみたいだから、手を出されないよう見張りも含めてな」

「死んで楽になりたいとは思わないの」

ギゼは嘲った。

「死ぬ?死ぬのが楽だと思うのか?だったら皆そうしてる」

「…」

「バレン、私も貴方も、死んだら肉体どころか魂さえも食べられてしまうの。 魔物を服従させる条件の一つが宿主の死後の肉と魂だから…」

「そんな…」

私は今更のように恐ろしさに奮え上がった。

「俺がいない時はお前が抑えてやれるようにしろ、こいつだけでなく皆をな。…俺達には周期がある。魔物の意識が強くなってひたすら抑えるのに徹しなければならない時期がな。人によりまちまちだが、周期に入る奴には誰かがついてる。そいつが乗っ取られた瞬間、殺せるように」

それからギゼはレイネに囁いた。

「用心しなくちゃな…死ぬのは御免だ、お前が死ぬのも」

そして、しばらくしてギゼはムルザに呼び出されて行ってしまった。

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