第一章〔2〕 /…仲間達
「よく見てなかったが…どんな子だ?」
低い、静かな声が聞こえた。
「いい子に見えたがな。利口そうで、すらっとしたいい体つきだ」
誰かが話している声で目が覚めた。私の事らしい。
太陽が、遺跡の壁を照らしていた。
ふと気がつくと、黒髪の綺麗な女が私を覗き込んでいた。私が立ち上がると彼女は
「おいで」
と言った。
そこで、私は遺跡の中の石造りのテーブルと椅子のある場所へ連れていかれた。
机の上には美味しそうな食べ物と飲み物、果物が置かれていた。
「あなたのよ」
お腹が空いていたのでがつがつと食べる。
いつの間にか男達もいて、自分が食べる様子を見つめていた。
だが彼等は自分を見つめるだけで、何も口にしようとはしない。
「お兄さん達は、食べないの?」
褐色の肌に緩やかなウェーブの金髪、たくましい体格の男と目が合った。
彼は自分の家に訪れた一人だ。
「俺達は、いらない」
何だか気まずくなって食べ物を口に運ぶスピードが遅くなった。
ちらっと男を見ると彼は目を細めた。
「どうした。遠慮する事は無い」
食事が済むと、今度は彼が私を大きな祭壇の前へ連れていった。
その奥に三つある内の一つが私のベッドなのだった。
それからまた食事をした部屋へ連れて行かれた。彼等が側に寄って来た。
茶色い髪の、ひょろりとした皆より年長っぽい男が口を開いた。
「坊や、名は?」
「バレンだよ」
「バレンか…」
何故か彼は一瞬寂しそうな目をした。
「私はムルザ。君の面倒はここにいる全員で見る。
用があったら誰にでもいいから聞いてくれ。まず彼は」
さっき案内してくれた、緩やかな金髪のでかい男を指差した
「ユトラ、あいつがギゼ」
長身で赤茶色の髪、布で口元を被い、壁に寄り掛かり目を閉じたままの、
どこか陰がある男を指差す。
「ふーん」
私は頷く。ギゼは何だか恐そうだと思った。
「それに」
戸口に立っている見事な黒髪に白い肌の女を指差した。
「彼女はレイネ」
見ると、レイネも何かを考え込んでいるようだった。
が、私の視線に気付くと微笑んでくれた。
レイネはとても綺麗で、像でしか知らない母に少しだけ似ていると思った。
「ねぇ、ムルザさん。僕は立派な王様の家来になる為に来たんだ、
そうなるにはどうしたらいいの?」
「焦るな、私達が勉強も体を鍛える方法も全て教える。
だがこの訓練は厳しい、辛い事が何年も続くぞ。耐えられるか?」
「うん!たくさん勉強して、強くなって、早く立派になって、僕、父さんに会いに行くんだ!」
その瞬間、彼等が目配せをするのが分かった。
不思議に思ってレイネを見ると彼女までが目を伏せてしまった。
私はベッドに横になった。厚い壁の石がくり抜かれていて、窓のように外が見えた。
父が、自分の家が、村が懐かしい。だが、間もなく私は眠ってしまった。
あくる日も快晴だった。遺跡の家での生活は悪くなかった。
強く賢くなることは、ムルザ達について勉強はもちろん剣や弓、
体術の稽古に励むと言う事だった。
彼等は皆、立派な戦士だった。
物知りで、自然界やこの国の歴史や他国の歴史等の知識を分かりやすく教えてくれた。
それに訓練以外は優しいし、食べ物は美味しいし、ギゼは話しにくかったけれどレイネは特に親切にしてくれた。
訓練が厳しいのは嘘ではなく、
特に体を鍛える訓練は辛くて時に泣いたり喧嘩ごしになったり逃げ出したりもしたが、
父への懐かしささえ除けば全てが珍しく、楽しくさえあった。
間もなく私は大人である彼等が驚く程の腕になる。




