プロローグ〔1〕 /…選ばれた少年
私の名はバレンと言う。
ランシスのハルで生まれた。
ハルの村は小さいけれど幾つもの美しい建物があった。
大きな広場も、豊かな自然も、家々の間を縫うようにして清らかに流れる川もある。
私の家はその街角にあった。
何かの拍子に小さい頃の思い出が甦る。
ハルの村は花作りが盛んで、私の思い出も花に関わる事がたくさんあった。
「ま、のんびり大きくなればいいさ」
父が笑って言う。
私には母が無く、
それなりに腕のある彫刻家で、修理工でもあった父が男手一つで育ててくれた。
私はよく広場へ遊びに行った。広場には綺麗な花がたくさん咲いていた。
それに父が作った彫刻が何点か置いてあった。
私はその中で花を片手に優しく微笑んでいる綺麗な女の像にすっかり心を奪われていた。
何故ならそれは、父が母を象って彫ったものだったから。
8つの時である。
夜、私の家へ黒いフードを被った不思議な僧が3人やって来て、
その中で一人だけ杖を持った若い男が
「王様の使いで来た」
と言った。
男は銀に近い、長い金髪に青い瞳。綺麗だと思った。
高貴な身分であるのはシンプルだが豪華な羊毛製のマントや腕につけた、
黄金のきめ細かい彫刻をほどこされたバックルで分かる。
私は父に奥へ行っているよう言われて仕方なく奥で横になった。
そして夢うつつに父と僧が言い合っているのを聞いた気がした。
気がつくと、私は見慣れない馬車の中で一人の僧の膝に頭を乗せて寝かされていた。
驚く私にその僧が
「心配するな」
と言った。彼等は顔を出していて、他の2人は無表情だった。
「お父さんは?」
僧が笑う。
「今日からお前は私の弟子になったんだよ」
突然の話しに目を丸くする。
「どうして?」
「見込みがあるからさ」
「お兄さん、誰?」
「私はランサー王に仕えているワウリンと言う。
お前の父は、私がお前を弟子にして、
後に王様の家来にしたいと言ったら最初は反対していたが、
最後は『宜しくお願いします』と言っていたよ」
私は父と離れたのが悲しくて泣きそうになったがぐっと堪えた。
「お、父さんにはいつ会えるの?」
「『お前が立派な王様の家来になったら会いに行く』だとさ」
単純な私は、その言葉を信じた。
そして早く立派な家来になるのだと決心した。
一行は何度か宿を借り、夜に王宮についた。
立派な王宮から少し離れた所にある離宮の中、
薄暗い地下へ降りていく入口へ私を案内した。入ってみると、
奥が果てしなく、冷たい石の道がほうぼうに分かれていた。
ワウリンは他の二人に何事かを囁いてどこかへ行かせると、
一本の蝋燭に火をつけて
「足元に気をつけて、ついて来い」
と言った。
石の道は、天井が低くなったり高くなったりしてどこかへ続いていた。
私達は大きくて頑丈そうな鉄の扉の前に出た。
どう考えても一人で開けられそうにない扉にワウリンがそっと触れる。
と、扉は自然に開いた。
中に入って私は驚いた。
一面に難しそうな分厚い本が積み上げられており、
樫の木に宿る宿り木の束や、水晶やら髑髏やら何に使うか分からない道具もあった
「ここは、私の部屋だ」
それから部屋の奥にある扉を開く。
「お前が、これから住む所だ」
広い所へ出た、どこかの森に囲まれて、古代の遺跡が月明かりに輝いていた。
向こうで火が燃えている。
「こっちだ」
ワウリンが火の方へ歩いて行くので後について行くと、
火の側に男が三人と女が一人いて、
ワウリンに向かって膝をつき頭を下げた。
うち二人はワウリンと共に家を訪ねて来た男達である。
「その子が?」
と、一人がワウリンに尋ねた。
「そうだ、これからお前達の一員となる子だ」
彼等が私を見た。
「何年です?」
青銅の腰帯をつけた女が聞く。
「十年だ、よく世話をしてやれ」
言うなりワウリンは踵を返し、扉の向こうへ消えた。
くたびれていたので、私は近くの遺跡の階段に腰を下ろし、
大理石の折れた柱に寄り掛かるといつの間にか眠ってしまっていた。
自分の家へ帰りたかった。




