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序章

毎度おなじみ見切り発車です。

転生ものが書きたかったのです。


もう声はでない。

妹に薬で焼かれてしまった。

「お姉さま、大丈夫ですわ、わたくしがお姉さまのご意志を全てお伝えします」

まるで人を馬鹿にするような、人の心を踏みじるような言葉を妹は周りに投げかけた。


もう思いを伝えれない。

彼は妹にとられてしまった。

「君がわたしの両親を毒殺したなんて、...目の前から失せろっっ!」

妹の悪行は全て私に降りかかり、妹は姉に虐げられた不幸で心優しき子と、誰もが思うようになった。


もう心も開かない。

ずっと信じていた妹から騙されていたから。

「ごめんなさいね、お姉さま。わたくしも彼のこと愛しているんだもの」

全てを知ったとき全てが手遅れで、妹は何もかも全てを手に入れたかったのだと悟った。


気づいたところで時間もない。

こと切れる瞬間だから...。


ズドンとした衝撃が体全体を襲う。

あぁ、目も見えない。

耳も聞こえない。


この慟哭がどなたかに届き、何か最後に叶うなら、来世はこの2人に関わらない人生を、新しい出会いのある明るい真っ白な人生を...。

何も覚えていたくない。

こんなにつらい人生はもう二度と通りたくない。



心は信じていた人に、体は愛した人に、殺されてしまったもの。





「っ...」

目が覚めたら泣いていた。

昔からたまに見る夢だった。

体がだるい。

絶望は深くて、いつも私の気を滅入らせたが、内容は起きた時には忘れている。


「フリージア、起きた?」

コンコンとドアを叩く音がして、そっとドアが開く。

「シアンあにさま、おはよう。

 ヤダ、私ったらすっかり寝坊してしまったのね」

あわててベッドから飛び起きる。

「昨日も夜遅くまで薬を調合してたみたいだからね、しょうがないよ。

 もう僕は仕事に行くね。

 朝食は作っておいたから適当に食べておいてね」

「ありがとう、いってらっしゃい」


シアンあにさまは街の工房で働いている。

工房は元々両親のものだったけど、前の戦でもうこの世にはいない。

シアンあにさまの作り上げるガラス細工は国でも一等品として扱われる。

私の自慢のあにさまだ。


ふぅ...と、ため息を一つ吐いて、着替え始める。

水色のワンピースに袖を通し、薄オレンジ色の脇まである髪をひとつに束ねる。

焦げ茶色の瞳は光を反射すると深紅に見える。

昔は気味悪くて嫌いだった。

平凡な顔に取ってつけたような赤くなる目。

まぁだからって、目なんか交換しようがないんだから、しょうがないけど!


ここは大陸の中で5番目に大きい、要は一番小さなアイシクル王国の3番目に大きい街の端っこ。

仕事場は歩いて5分くらいのところで、ここらへん一帯をまかなう小さな薬屋さん。

私は一人で薬師の仕事をしていた。

小さな頃から薬草を見つけるのが得意で、いちおう人気のお店を自負してる。


「さぁ食事をして仕事に行きましょうかね」

声に出して自分を鼓舞する。

とりあえず昨日机に散らばしたままで置いた、薬草や書類やすりこぎなど片付け、朝食を済ませる。

コートをはおり、「おはようございます」と挨拶をしつつ足早に歩き出す。


今日の午後は近くの森に薬草を集めに行こうか、なんて思いながら店で仕事を再開する。

朝から色々な客が来て、血止めや痛み止めや腹下しの薬が頼まれる。

「風邪っぽいなら...、じゃぁジンジャーを足しておきますよ。

 まだまだ寒いですし、体温まりますからね」

「いつも助かるよ」

「25ルドになります。

 ありがとうございました~」


午前中の仕事も終わり、薬草を探しに森に行く。

帰ったら店で乾燥させて、帰り道に市場に寄って食材を買い、夕飯を作る。

工房から戻ってきた兄と食事をとって、調べ物をしてから眠り、朝を迎える。


代わり映えしないけど、愛しい毎日だった。




カランカラン...

ドアに付いてるベルが鳴って、振り返る。

客だ。

「いらっしゃいませ」


フードを目深に被り、顔の造形はわからないが、背格好からいって男の人だろう。

「何かご入り用ですか?」と声をかけようとすると、初対面のはずなのに突然ドッと冷や汗が吹き出る。

息が浅くしか吸えない。

喉元までせり上がるように、心臓がドッドッと激しく打ち付ける。


彼ト接触シテハイケナイ!!


「...****?」

「いやあああぁぁぁっっ!!」

相手の言う言葉も聞かず、金切り声を上げて私は裏口から外へ逃げ出した。




森へ一心不乱に駆け抜ける。

ゾワゾワと体中を鳥肌が襲う。

森の中に走り込み嘔吐するが、そんなことは構ってられない。

山の中腹にある湧水で顔を洗い口をゆすぎ、周りの気配を探る。

どうやらついてきてないようだ。

「...なんなの?

 あいつ、悪魔か何かなの?」


しばらくすると体中がガタガタ震えだす。

自分を抱きしめるようにジッとうずくまっていると、日が傾いてきた。

体も冷え切っている。

道がわからなくなる前に、街に帰らなくては...。

店の鍵を閉めたらもう家に帰ろう。

風呂に浸かって、ゆっくり眠ってしまおう。

今日のことなんてそのまま忘れてしまおう...。


街に帰ると店の隣に住んでる夫婦が声をかけてくる。

「なにやら昼間、すごい悲鳴だったけど大丈夫かい?

 今でも顔に血の気がなくなってるし、物取りでもあったの?」

「いえ、大丈夫です。

 お店誰かいました?」

「物取りなら自警団に通報しようかと外から覗いたんだけどね、誰もいなかったよ」

「そうですか、ありがとうございます」

心底胸をなでおろす。

あんなに気味の悪い思いは二度とゴメンだ。

「何言ってるの!

 いつもお世話になってるフリージアちゃんなんだから、気にしないでちょうだい」

ふふふと笑いながら「助かります」と伝えて店に戻る。


極力店の中に入らないよう、そっと手を伸ばしてカバンを掴み急いで外に出た。

明るいうちに家に帰ろう。

もうアレには会いたくない...。




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