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異世界を行く魔力引きこもり  作者: はむかに
第2章 ヘリストラウス動乱
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魔剣騎士

 ヘリストラウス王国ヤハルマ伯領。


 北に『魔王山脈』を挟んで『魔界域』を臨み、さらにその手前に魔物の出現数に置いて国内有数と言われる大樹海を目前とする、王国の要衝である。

 もっとも、魔界域を住処とする魔族との抗争は千年前を境に途絶え、現在は魔物討伐を生業とする冒険者たちの拠点としての意味合いが強かった。

 それでも、大規模な魔物侵攻に対する備えとして伯爵家の私兵団とは別に、王国直属の騎士団も常備軍として駐屯していた。


 ハリカンに本部を置く北方警備騎士団は、その地味な名前に反して王国内でも近衛騎士団に次ぐ実力を持つと言われる。

 能力第一主義を貫き、冒険者出身の者でも取り立てる姿勢で、何かと政府と対立しがちな冒険者ギルドとも例外的に太いパイプを有していた。


 騎士団本部に到着したフレイヤは、従卒に案内されて団長室に向かった。

 巨躯を机にねじ込むようにして書類の決裁を行っていた騎士団長は、入室した彼女を一瞥した。


「まだ騎士なんぞで油を売っとるのか、とっとと嫁に行きやがれ!」

「……着任報告も聞かないうちに、それが姪にかける言葉ですか?」


 むくれるフレイヤに、叔父であるアドラス・ディード・ソロウド名誉騎士爵は豪快に笑いかけた。


「がはは! まあ勘弁しろ。お前がうちに来ると知ったとたんに兄貴……お前の親父さんから婿探しを頼まれてな。騎士団の若手を全部紹介させろとか言われたぞ」

「その鬱憤を本人にぶつけないでよ……ごほん、報告します! フレイヤ・ディル・ソロウド魔剣騎士、現時刻を持って北方警備騎士団に着任いたしました。認証願います!」


 アドラスは渡された書類に眼を通し、太い指に握られたペンで署名する。


「確認した。ソロウド魔剣騎士の着任を許可する。……ごくろうさん」


 従卒に茶の用意を命じると、フレイヤに椅子を勧める。


「真面目な話、そろそろ婚約くらい決めないとまずいだろう。二十歳過ぎると周りの見る目が変わるぞ」

「私はまだ18だよっ!」

「そういうこと言う奴に限って機会を逃すんだよ! もうちょっと危機感持て!」


 厳つい顎鬚を掻きながら、アドラスは嘆息する。

 出された紅茶に口をつけながら、フレイヤが反論した。


「……私は『アルヴァレイド』の持ち主なんだよ」


 腰の魔剣に手をやる。

 フレイヤの実家、ソロウド家に伝わる『魔剣アルヴァレイド』は、それ自体が家の歴史とも言えた。

 祖先はこの剣を手にヘリストラウス国家成立戦争に望み、国王の信任を得て貴族になったのだ。

 逆に、この剣を使う者がいなくなった時、ソロウド家は消滅する恐れすらあった。


「兄上も姉上も『アルヴァレイド』を使えなかった。家名を継ぐのは兄上だけど、家を『護る』のは私の使命だと思ってる」

「……背負い込みすぎだ」


 兄が魔剣を継承した直後に家を出て、冒険者家業で実力をつけて現在の地位に着いたのがアドラスだ。

 騎士団長の職にありながら、領地を持たない身軽な騎士爵の位で気楽に暮らしている彼にとって、フレイヤの決意は悲壮とすら見えた。


「その剣を使える奴を見つけて婿に取りゃ良い。何もお前だけが……」

「私は魔剣の『おまけ』にはなりたくないの!」


 フレイヤがカップを戻した受け皿が、乱暴な音を立てた。


 自分が魔剣の継承者に選ばれた時の、周囲の反応を思い出す。


 しようがない。他に居ないのだから――。


 小さい頃から魔剣に憧れ、それを求めてひたすら修練してきた彼女のプライドは、望む物を手にした瞬間ずたずたにされた。

 それ以来、フレイヤには魔剣しかなくなった。


「私はアルヴァレイドの正当な持ち主として、恥じることのない成果を挙げるまでは剣を手放す気も結婚する気も無いからっ!」

「……そう言うだろうと思ってな、お前に手柄を立てる機会を用意しておいた」

「え?」


 思わず見返すフレイヤに、悪戯を成功させた子供のように笑顔で返すアドラス。


「光輪教会の神殿に行って来い。お前は魔剣持ちだし、貴族だから着任の挨拶回りとかなんとかで理由はつけられるだろう。そこでだ、神殿に居る巫女のシーナ殿と連絡を付けて貰いたい」

「神殿に……ですか? 教会ではなく?」


 フレイヤは聞き返す。

 光輪教会の支部となる教会施設は同じハリカンの街だが、神殿は街外れの森の中にある。王国建国当時に由来を遡れる歴史的建造物と聞く。

 そこにいる教会の巫女といえば……。


「まさか……『召喚巫女』ですか?」


 召喚魔法陣を起動させるべく、常に身を清め、魔力を蓄え王国の危機に備える選ばれし聖処女。

 その数は全国でも片手で数えるほどだと言われ、騎士団においても有事の際には最重要保護対象に挙げられる。


 彼女の問いに、改めてアドラスは真顔で頷いた。


「これはまだ推測の段階で、俺と一部の部下しか知らぬ事だが……」


 断わってから、アドラスはフレイヤに顔を寄せた。


「ヤハルマ伯爵が独断で『勇者召喚』を行った。という疑惑があるのだ」


※第三者視点でお送りいたしました。

シーナ再登場の予感。

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