89話 バカでもやはり風邪引きます。
「…クシュン!ずずっ。」
「コトハ、だからあれほど汗拭いてシャワー浴びてから寝た方が良いって言ったのに…。」
仕方ないじゃないですか。久しぶりにあんなに死ぬ気で全力疾走したもんだから、大量にかいた汗とか気にならないほど心身共に疲れてたんですから…。(あの巨大ゴブリン、次会ったら絶対容赦しねぇ…。)
「ずずっゲホゲホッ(鼻水が気管入った!!)。あ〜…ルナさん、ノートのコピー頼めますか?」
「ん、任せなさい!普段はコトハが僕の面倒見てくれるから恩返ししてあげる!…っと、そろそろ行かないと朝ごはん食べれなくなっちゃうな。行ってきまーす!」
バタンッ
うぅ、不甲斐ない。見た目年下っぽい(コレ言ったら起こられるだろうなぁ。)ルナさんにノートのコピーを頼まなきゃいけないし、何よりこの年になって風邪引くとか…。いや、肉体的には普通に風邪とか引くかもしれないけど精神的に三十路前のが引くと何か…ね、グッと来るものがあるんですよ。
「…取り合えず、買い置きしてある風邪薬…あ、その前になにか食べなきゃなぁ…。」
ぶっちゃけあまり食欲ないけど、何か食べなきゃ食後に飲まなきゃいけない系の薬は飲めないし、この世界の食前に飲んで大丈夫な葛根湯的ポジションの薬は…緑玉草が入っているから出来れば飲みたくないし…。
「…果物やゼリーとかあったかな?」
熱っぽい体をズルズルゴロゴロ動かして(床が仄かに冷たくて気持ち良い〜。)冷蔵庫の中を確認すると、ルナさんのプリンが出てきた。
「…これは食べたらダメだよな。ルナさんに嫌われるし、何より今はプリンを食える気がしないし。」
もう少し冷蔵庫を漁ると、最近買ったばかりのバナナ(一房)が出てきた。
「…これでいいだろ…えっと、コップに水を汲んで…薬はどこ置いたっけ?」
ちょっと引き出しを探ったら普通に出てきた風邪薬(カプセル状)を決められた用量プチプチと出し、コップ近くに敷いたティッシュの上に置く。(直置きは流石に抵抗があるので、ティッシュに。)
バナナを房から一つ取って、皮を剥いてモソモソと食べる。
「モグモグ…バナナ久しぶりに食ったなぁ。最後に食ったのいつだったっけ?」
思い出を振り返っていたら、何故か『私』の頃の記憶が出てきた。
そう言えば、昔はバナナ結構高確率で家に置いてあったなぁ。母さんと私ぐらいしか食べないのに直ぐなくなっちゃうんだよな…。ま、私がホットケーキとかに入れてアレンジして食べてたからかもしれないけど。
「…今は、母さんだけしかバナナ食べないよなぁ。」
根本的に人間嫌いな私だが、家族だけはどうしても心から嫌いにはなれなかった。
私が心を殆んど開ける存在が家族だった。唯一と言っても過言ではないぐらい。
「…はぁ…風邪引いて感傷的になってるのかな?…全く、らしくない…な。」
いつの間にかバナナは食べ終わっていたので、薬を水で口の中に流し込んでから布団を被って寝た。
不意に、頬や髪に温かい何かが触れた気がした。…大きさからして手…かな?それも大人の。
薄目を開けて周りを確認してみると、そこには昨日も会ったアルベロ先生が私の頭とか撫でていた。…贅沢を言えば、アルベロ先生ではなくて椛さんが居てくれたら良いんだが。…こう言う時って“お母さん”の温もりとか感じたいし。
「何で、アルベロ先生が私の部屋に…。つか、女子寮に男性教師が入ってきても大丈夫なんですか?」
「あ、悪い…起こしちまったか?…夜風の部屋に何故居るってサボりに来たから。この部屋に入るに際しては、ちゃんと寮母の人に許可貰ったから大丈夫。」
また適当に理由つけてサボったんですか貴方は…。椛さんも、こんな人をすんなり寮の中に招き入れないでくださいよ。
「ゆっくり休んで風邪治せよ?」
くぅ、風邪引いて若干心細くなっているから先生の気遣いは有り難いけど、何か気恥ずかしいな…。
「…風邪移っても知りませんからね。」
「寧ろ移してくれた方が俺的には嬉しいな。夜風は風邪治るし、俺は大手を振って色々サボれるし一石二鳥じゃね?」
…コノヤロウ。




